アサミーナとかなさまのあさ・かなRadio

「う〜ん、やっぱりこんな時間まで起きてるのって慣れないね」
 ―今日のお仕事をするスタジオへとやってきた私…石川麻美ですけれど、思わずあくびが出そうになってしまうのを何とかこらえました。
「全く全く、これから大切なお仕事なんですし、このくらいははやくはやく慣れてください」
「ふぁ…そうはいっても、普通、夜はゆっくり眠る時間だよ?」
「麻美、それはこれから放送を聴いてくれる人にちょっと失礼失礼な気がするんですけど…」
「あっ、ごめんね、夏梛ちゃん」
 本番前のひととき、すでにスタジオ内で待機している私と夏梛ちゃんは机を挟んで向かい合って座っています…そして雑談をしているのですけれど、ちょっと呆れられちゃいました。
 でも、眠くなっちゃうのは本当に普通のことだと思うんだけど…と、壁にかかっている時計へ目を移します。
 時計の針が差している時間はもうすぐ一時になるというところ…ここに窓はありませんけれどもちろんお昼ということはなくって、普段の私ならもうとっくに眠っている時間です。
「でもでも、麻美は昔から早寝だったみたいで、お嬢さまらしく規則正しい生活をしていたみたいですけど、この時間帯の放送は気にならなかったんですか?」
「う〜ん、松永さんが熱心に聴いていることは知っていたんですけれど、深夜はもう眠るための時間としか思えなかったから…アニメだって、DVDのほうを観てたし」
「そうなんですか、声優さんのラジオ番組を聴かないなんて、とってもとってももったいないです…そうじゃなくっても、テレビ番組よりラジオ番組のほうが面白いと思いますのに」
 私はテレビ番組もあまり観ないのですけれど、ともかく松永さんといい夏梛ちゃんといい、やっぱり聴いているものなんですね…松永さんは冴草さんと練習までしているんでしたっけ。
 私も、今になって聴くんじゃなくって、もっと昔から色々親しんでおけばよかったのかな…だって、今こうして私が提供する側になっちゃったんですから。
「でもでも、まぁ…眠気を感じられるくらいリラックスしているのはいいことです。はじめての放送の頃はとってもとっても緊張していて目も当てられませんでしたし」
「わっ、だって、私の声がたくさんの人たちに、しかも生放送で聴かれちゃうんですから、緊張するのは当たり前だよ」
「そうですね、麻美が上がりやすいっていうことは私もよくよく知っていますけど、最近はラジオだと今みたいにリラックスできてますよね。他のときはこうはいかないのに、困った困ったものです」
「はうっ」
 相変わらず最後はちょっときついことを付け加えられちゃいましたけれど、そんなツンな夏梛ちゃんもかわいいです。
「な、何です何です、にやにやして…ラジオだと何かあるんですか?」
「うん、ライブとかだとたくさんの人たちの前に出るけど、ラジオだと目の前に夏梛ちゃんしかいないから」
「わっ、わっ、何を何を言ってるんです、スタッフさんたちがすぐそこで見てますっ」
「うん、でも皆さんとはガラスで隔てられていて、ここには夏梛ちゃんと二人きりだよね…だから、緊張するよりも幸せな気分のほうが大きくなってくるんだよ」
「も、もうもう、そのくらいのことでリラックスできるなんて、麻美は本当本当の幸せ者ですねっ」
「うふふっ、ありがと」
「わ、私は何も何もお礼を言われることはしてませんっ」
 もう、夏梛ちゃんったら、あまりにかわいすぎて、緊張とは違う理由でどきどきしてきちゃいます。
「まぁ、お二人とも、そういう楽しい話は番組内で話してくださいね?」
 と、スピーカーからそんな声が聞こえましたからはっとして窓の外へ目をやりますと、スタジオの外で如月さんが微笑んでいらっしゃいました。
「わ、夏梛ちゃん、全部聞かれちゃってたみたいだよ?」
「もうもう、だから油断は禁物禁物なんです、全く全く…」
 うふふっ、だからって恥ずかしがることもないのに…本当にかわいいんだから。
「あら、お二人とも、もうすぐお時間みたいです…準備はいいですよね?」
 と、窓から見えるスタッフさんもすでに準備していますし、こちらもしっかりしなきゃ。
 さすがにほんの少し緊張してきましたけれど、大きく深呼吸をして、夏梛ちゃんを見て…うん、大丈夫。


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