それからそう間もないうちに、森の中から二つの人影が現れた。
「少し、待たせてしまったわね」
 一人は叡那さんで、ねころ姉さんの隣へ腰かける…彼女と桜、っていうのはものすごく画になってる気がする。
「あっ、ティナさん、きててくれたんですね…わ、え、えっと…!」
 で、あたしを見て嬉しそうにしたのも束の間、他のみんなを見て緊張した様子になったのは閃那さん。
「あっ、このおかたは、やっぱりあのときの…」「ふぅん、この子がティナの…」
 二人の視線を向けられ彼女はさらに緊張した様子になっちゃったけど、今までみんなに会おうとしなかったあの子が今日こうしてここにきた、これは彼女のいた未来がすでにこの世界とは別物になってて影響を及ぼさないから、ってことよね。
 叡那さんと先に会ったうえでこうして現れた、ってのはつまり問題ないって判断されたからってわけで…
「あ、あの、は、はじめまして、になるのかな、九条閃那っていいます…!」
 あたしには別の苗字で名乗ってきてたはずだけど、やっぱりそういうことか。
「九条? 未来からきたってことだけど、あんたってまさか、叡那の…」
「は、はひっ、またの名前を閃那・K・メランス・ゴートっていって…あ、貴女と、そちらのかたの、子供です…」
 そんなこと言いながら彼女が目を向けたのは…エリスさんと、叡那さん。
「…って、んなっ? ちょっ、せ、閃那さんっ? そ、それって…!」
「…は? 私と…叡那の、子供?」「えっ…えっ? そうなの、でございますか…?」
 まさかの告白に、叡那さん以外の全員が混乱状態になっちゃった。
 いや、だって、今までの感じから叡那さんたちの関係者だってことは察せてたけど、まさかそんなことだったとか…いや、確かにあのお二人の雰囲気は持ってて、これまで感じてた引っかかりの正体は解ったけど、それにしたって…!
「落ち着きなさい…といっても、驚かないはずのないことか、これは」
 当の叡那さんは落ち着きすぎな気がするけど、閃那さんからもう聞いてたのかしらね。

 もうすでに違った歴史をたどることになった世界、その未来からきた少女、閃那さん。
 彼女はさっき聞いた通りの存在とのことで、女の人同士の子供…ってことより、まさかあのお二人の、ってことのほうが衝撃的。
 叡那さんは知っての通りの存在なわけだけど、エリスさんはエリスさんで、本名をエリス・メランス・ゴートっていい別な世界の魔王と天使の娘、っていうかなりとんでもない存在だとのこと。
 そんなお二人の子供だっていう閃那さんはある特殊な力を持っており、それがどの様な世界間であれ自由に、しかもその移動先に影響を与えることなく行き来できる、ってもの…それは時間移動でさえ例外じゃないそう。
 さすがに、あまりに離れた時間になると以前聞いた理由により正確なところへは行けなくなり、またみだりに時間移動をするってことは両親から禁じられてるっていうけど、あたしって存在がそれに例外を与えたっていう。
「高校三年間を、こっちの世界で過ごしてもいいって許可をもらったんです。それから先のことはそれまでに考えなきゃですけど、それまでは何の問題もなく一緒に過ごせますよ、ティナさん」
 お弁当を囲んでみんなでそれを食べながら閃那さんの話を聞いてたわけだけど、そんなこと言われちゃった。
 つまりあたしが心配してたことへ対する答え、ってわけだけど…
「でも、閃那さんは本当にそれでいいの? 元の時代の家族とか友達とか、そもそも別の時代の学校に通うとか…」
「はい、一ヶ月に一回は帰りますし、友達は…いいんです。それに、この世界が私のいる未来に繋がるんでしたら学校に名前を残すわけにはいきませんけど、繋がらない世界になってますから大丈夫です」
 ってことで問題ないらしいけど、友達のこと言いかけたとき、彼女の表情が曇った様な…何よ。
「ちなみに、私立明翠女学園高等部へ入学します。ティナさんと同じですね」
「…は? いや、でもあんた、受験してないじゃない」
「そこは叡那ま…えーと、叡那、お姉さんが手続きしてくれましたから」
 いやいや、この短時間で何したのよ…そういえば、今の時代の籍とかないあたしのことも何とかしてくれたし、それを言うならねころ姉さんやエリスさんだって同じはずで、深く考えないでおこうかしらね。
 ちなみに、こっちの世界では叡那さんの妹、ってことにしとくらしい。
「親が姉、だなんておかしな気分ですけどね…」
「まぁ、そりゃそうでしょうし、閃那さんがみんなに会おうとしなかった理由も解ったけど、今こうして会ってよかったの? しかも、あんな未来のことまで言って」
「はい、実のところ、私の素性まで言おうかは迷ったんですけど…ティナさんの家族に、隠しごとはしたくなかったんです」
「…そっか」
 あたしはまぁ、そう言われると嬉しいし納得できたからいい…んだけど。
「でも、まさか私と叡那とが、だなんて…うぅ」
「…エリスさん、大丈夫かしら。そういう未来もあり得た、ということではあるけれども…」「あ、あの、ねころは、エリスさんがお望みでございましたら…」
「…ダメっ、ねころさん、それ以上は言わないで。私は、叡那とねころさんには幸せになってもらいたいし、そんな二人の…まぁティナもいるけど、とにかく家族にしてもらってるだけで、十分だから」
 あの三人、特に叡那さんのことを好きって想いを諦めたエリスさん、大丈夫なのかしらね…あの人なら大丈夫、だとは思うんだけど。

 お花見を終えて、閃那さんはアルバイトがあるからってどっか行っちゃった…そんなことしてたのね。
 あたしは装束に着替えて、お社のお仕事のお手伝い…これも一種のアルバイトっていえるのかしらね。
 で、日が暮れる頃にはみんなで夕食と、お昼にあった衝撃もそれぞれだいぶ落ち着いてきたみたいでいつもの日常になるんだけど…
「ティナさん、夕ごはんは明日からもこちらで取られるのでございますか?」
「うん、放課後だっけ、そのときはこっち戻ってきてお社のお仕事するつもりだし。あと、お休みの日はこっちに戻ってくる予定」
「はい、ティナさんのお部屋はそのままにしておきますね」
 明日からは日常がちょっと変化するってことで、そのことについての会話を交わす。
「叡那とねころさん、それに私もここから通うし、それにそんなに戻ってくるならティナも別にここから通えばいいのに。もしかして、二人に気を遣ったりしてるの?」
「そういうわけじゃないわよ。ただ、ちょっとは自立しておかなきゃ、って考えただけ」
「どうせ私は自立できてないわよ」
 エリスさんがちょっとすねちゃったけど、今日からあたしは、少なくとも平日はこのお家とは別の場所で寝起きすることになったの。

 夕食後、あたしは一人お社を後にして街へ向かう。
 向かう先は、明日入学することになってる私立明翠女学園…ここも敷地いっぱいに桜の木があって、もう散りはじめだけどやっぱりきれい。
 その学校の敷地はかなり広く、初等部から高等部までの校舎などの他、学生寮っていう生徒が寝起きしたりする場所があり、あたしはそこへ入ることにしたの。
「今日から三年間、ここで暮らすことになるのか」
 二階建てな建物の二階にある一室、そこがあたしに与えられた部屋。
 適度な広さの部屋にお風呂場や台所もついてきてて、一人暮らしするには十分すぎるくらい。
「うん、やっぱりある程度はこっちの時代でも一人でも生活できなきゃ、だからね」
 夕食のときエリスさんに言った理由は本当のこと…気を遣ったとかいうことは本当になくって、家族になってくれたみんなと離れて寝起きしたりすることについてはどうしようか迷ったりもした。
 でも、あの三人はお社から通ってるってことで距離は遠くなく、お仕事で毎日帰るから…ってことで、そういう理由で入ったわけ。
 そんなあたしには私物とかないから部屋にはほとんど何もない状態なんだけど、ベッドは二つあったりする。
 この学生寮って二人部屋が基本らしいんだけど、あたしはあんまり人数いない途中入学生ってこともあり一緒になる人がいなくってこういうことになったの。
 ま、それは気楽でいいんだけど…
「…あの子って、どう生活してるのかしらね」
 窓から夜空を見上げながら、そんなことつぶやいちゃう。
 こっちの世界で暮らす場所、どうしてるのかしらね…まさか毎日元の世界に戻ってる、なんてことはないはずだし。
 あの子もこの学校入ることになったっていうんだし、一人部屋なここにこればいいのに…って、何考えてるのよ、あたしは。
 別に、想いを伝えてからあんまり一緒にいられる機会がなくってさみしいとか、そんなの思ってないんだから…!
「…はぁ、今日はもう休もう」
 明日になったらあの子に会えるものね…って、もうっ。


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