第七章

 ―旅の終わりで因縁の相手と対峙し、そして会えるはずのなかった親友と再会して。
 さらに、その親友の前でこれまでともに旅をしてきた子へ想いを伝え、そして通じ合って。
 けれど、親友が光の中へ消えた後、気がつくとあたしは海面に浮かんでいた。
 全ては夢か幻…そう思いそうになったけど、すぐ隣には、手を繋いだ閃那さんが一緒に浮かんでいて。
 そして、あたしと彼女、どちらも繋いでいないほうの手にはあの指輪が握られてて…あれは夢でも幻でもない、そう確信することができたの。

 本当に色々あった、世界を巡る旅からしばらくして。
「すごくきれいよね、これ…この国じゃ、これが春の風物詩ってやつなのね」
 お社の境内に立ちあたりを見回すけど、お社を囲む木々に薄いピンク色の花が咲き誇ってて、つい見ほれちゃう。
 それは春の季節に咲く桜って花で…そう、外もずいぶんあったかくなってきちゃった。
 あたしとしては少し暑いくらいかもしれなくって、でもこれでもまだ春になったばっかりくらいだっていうんだから…いやいや、そんなこと考えるのはやめておこう。
「ほら、ティナ? 桜がきれいなのは解るけど、こっちの準備終わったみたいだからそろそろきなさい?」
「あっ、うん、解った、エリスさん」
 呼びかけに返事し、境内の端…大きな桜の木の下へ一緒に向かう。
 そこの地面には敷物が敷かれてて、その上にはお弁当や飲み物が置かれてる。
「わぁ、やっぱりねころ姉さんの作った料理はおいしそうね」
「そんな、ありがとうございまし」
 そこにはすでに少し恥ずかしそうに微笑むねころ姉さんが腰かけてて、あたしたちもそのそばへ腰かけさせてもらう。
「今日はよく晴れてよろしゅうございました」「そうね、絶好のお花見日和かも」
 この国ではこの時期、桜の花を見ながら食事をするって風習があるみたいで、今日はみんなでそれをすることになったの。
 それはただのお花見ってわけでもなくって、いくつかのことを兼ねてるんだけど…
「いよいよ明日、お二人の入学式でございますね」
 ねころ姉さんの言葉通りで、そのお祝いってのがまず一つ。
 で、もう一つなんだけど…
「叡那ったら、ちょっと遅いわね。ティナの恋人と先に話がしたい、って一人で迎えに行っちゃったけど…」
「んなっ、こ、恋人って…!」
「あれ、違った?」
「い、いや、えっと、違わない、けど…!」
「あのティナに恋人とはね…やっぱり私の思った通りだったんじゃない」
 ああはっきり言われるとやっぱり恥ずかしく感じちゃうわね…。
「ティナさんの大切なかた…あの日、ティナさんをここへ連れてこられたかたでございますよね。けれど、あのときははっきりお姿を見られませんでしたし、お会いするのが楽しみでございます」
 そう、今日は閃那さんをみんなに会わせる、ってことになってる。
 あの旅の後、彼女は元の時代へ帰ってて…そう、彼女は特に問題なく、自由にここと自身の時代を行き来できる。
 事故でこの時代にきたっていうのは嘘だったってわけで、本当は大きな時の歪みを感じ取ったから様子を見にきた、っていうの。
 その原因はあたしだったわけだけど、それが解ってからも帰らなかったのは…まぁ、ね?
 それがあの旅の後で帰っちゃったのは、これからのことを相談したりしてくる、ってことで…そして今日、戻ってくる予定。
 別に帰った日に戻ってこればいい様な気もするけど、自分だけ年齢を重ねることになるのが嫌だったり、自分だけ会えないさみしさを味わうのは不公平じゃないか、ってことだそう…ややこしいわね。
 とにかく、その彼女を叡那さんが一人で出迎えに向かってるわけで…話があるってことだけど一体何を、それにどこまで知ってるのかしらね…。
「何そわそわしてるのよ。叡那が恋人取っちゃうんじゃないかとか心配してるの?」
「んなっ、そんなわけないでしょっ?」
「冗談よ。でも、今のあんたの心配なんて、ちょっと前にあんたがかけた心配に較べたら全然大したことないんだから…ま、あんたなら大丈夫だって叡那も、それに一応私も思ってたけどね?」
 あの旅の際にあたしがあの化け物と対峙する、って叡那さんはやっぱり予測してたみたいで、あの力を増幅させるものを渡してくれたのもそのため。
「うん、その、色々ありがと」
「あ、あによ…も、もう、さっさとこればいいのに、おなかすいちゃうし」
 まぁ、そうね…閃那さん、叡那さんともに会って問題ないって言ってたんだから、大人しく待つしかないか。


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