目があたりに慣れてきても…あたしは、光の中にいた。
「んなっ、何なの、これは…閃那さんっ?」
「あっ、ティナさん、私はここにいます」
 思わずあたりを見回すけど、すでに剣を手にしてないあの子の姿もちょっと離れたとこに遭って一安心…とはいえ、この光の空間にはあたしと彼女の二人の姿しかない。
「閃那さん、これってどういう…」
「さぁ…私にも、よく解りません。あの化け物は倒せたと思うんですけど…」
 あたしも手にしてた柄を宝玉に戻ししまい、それと同時に服装も元に戻るんだけど、それはともかく化け物を倒せたのは多分間違いない…手ごたえがあった。
 そういえばこの状況、前にあの化け物と戦った末に起きた…あのときは倒せなかったんだけど、とにかくあのときに似てる気がする。
「…ティナ」
 そう、あのときもあたしの前には純白のドレスを着たあの子の姿があって…って?
「え…ア、アーニャ、なの…?」
 あたしの目の前に、光の中から一人の少女が姿を現し…それはまぎれもなく、数万年前のこの場所で別れることになった子、だったの。
「あれが、アーニャさん…ティナさんの…」
 閃那さんのつぶやきが耳に届いて、彼女にも見えてるってことが解る…けど。
「何これ、あたし…夢を見てるの?」
 その閃那さんも含め、全てがそういうことだってことかもしれない。
「いいえ、ティナ、これは夢ではありません」
「ほんと、に…? こんなの、夢でしかあり得ないって思うんだけど…」
「はい、わたくしも…また、こうしてティナに会えるなんて、思いもよりませんでした。全ては…ティナが、わたくしたちの国の文明を喰らった存在を倒したから起こったのです」
「あっ…あの化け物の溜め込んでいた莫大な力が解放されたから…?」
 あたしにはよく解んなかったのに閃那さんがそうつぶやきアーニャがうなずく。
 あの化け物は次の活動へ向け力を溜めていた状態にあり、溜めていた力というのが数万年前に得たもの…でもそれを使うことなくあたしが斬ったため、あいつの体内にあった力が放出されたっていう。
 そして、場所が場所ってこともあり、その力によりアーニャは一時的にこの世界へ戻ってくることができた、っていうの。
「けれど、あくまで一時的なこと…またすぐに、あるべき場所へ戻ることになります。それでも、わたくしは…少しでよいから、ティナにもう一度会いたくって、あの力を利用してしまいました。やはり、よくないことでしたでしょうか…」
「んなわけないでしょ…あたしだって、会いたかったに決まってるじゃない、アーニャっ」
 我慢できず、あたしは彼女へ駆け寄って…ぎゅって抱きしめた。
「ティナ…」
 彼女からもそっと抱きしめ返してくれたけど、ちゃんとぬくもりもあって、彼女の存在を感じられる。
「…ティナ、わたくしもこうしていたいですけれど、時間がありません。わたくしが消える前に、お話ししておきたいことを、話させてください」
「う、うん、そうね…」
 アーニャが消える、ってのは悲しいけど、でもこうしてまた会えたってだけでも奇跡っていえるくらいのことだものね…あたしはゆっくり身体を離す。
「まず…ごめんなさい。そちらの…閃那さんがいらした未来と、今のこの世界とで歴史が違った、異なる世界が生まれたのは、わたくしのせいなのです」
 で、いきなり謝られてしまった。
 アーニャが続けて言うには、あたしを未来へ飛ばした際、力の制御が不完全で時間に歪みが生じ、あたしが飛ばされた未来、っていう新しい世界ができちゃったそう。
「気にしなくても大丈夫だと思いますよ。ティナさんのこなかった未来にいる私もこうして存在していますし、叡那ま…こほん、全ての門を管理している存在も問題にしていませんから。ティナさんを救うことができた、この一点だけでもう…その、ありがとうございます」
「そんな、こちらこそ…ありがとうございます」
「ま、待って、一番お礼言わなきゃいけないのは、たすけてもらったあたしでしょ…その、ありがと。アーニャにたすけてもらったこの生命、大切にして…この時代で生きてくから」
 三人が三人、お礼を言い合う状態になっちゃったけど、むしろ二人がお礼言ってた意味が解んない。
「…よかったです。わたくしの約束、ティナがしっかり守ってくれて」
「約束?」
「はい、大切な人を見つけ、幸せになる…という」
「…んなっ?」
 確かにアーニャはあのときそんなこと言ってきてて、そのときのあたしはそんなこととても考えられなかったわけだけど…。
「大切な家族もできて、それに…」
「…ま、待って! アーニャ、どうしてそんなこと知ってんのよっ?」
 続きを言われるのを止めたい、って気持ちもあって慌ててそんなことたずねる。
「わたくしは、ティナのことをずっと見守っていますから…あのとき、そう言いましたよね」
 できれば、ってことだったはずだけど、できてたんだ…それはちょっと嬉しい、かも。
「…ティナ。わたくしが消える前に、貴女が大切だと思う、これからをともに歩んでいきたいと思う人のこと、お教えくださいませんか?」
 で、アーニャはあたしがまだ一度も口にしたことない…っていうより、その想いを自覚したのもついさっきっていう様な気持ちもお見通しらしい。
「…ま、待ってってば。そんなの、急に言われても…」
 こういうのって、心の準備が必要でしょ?
 それだけじゃない、あたしが想いを伝えて相手がどう返してくるか、それにその相手はかなり特殊な事情があるからこの世界でこれからも一緒にいることは難しいんじゃないか…あぁ、もう、ちょっと考えただけでも問題しか出てこない。
「ティナが何を考えているか、だいたいは解りますけれど…大丈夫です、想い合っていれば、だいたいのことは乗り越えられるものです」
 なら、どうしてあたしとアーニャは…って言いかけそうになったけど、そんなこと言ってもお互い悲しくなるだけだから何とかこらえる。
 それに、アーニャが言ってるのは親友とかよりもさらに深く、って関係のことだってあたしにだって解るし…そうなれたらって思える人も、確かにいる。
「閃那さんも、そう思いませんか?」
「えっ、わ、私ですかっ?」
 アーニャが突然閃那さんへ話を振っちゃった。
「貴女に特殊な事情があることは知っていますけれど、想い合っていれば…そういうこと、乗り越えられると思いませんか?」
「…はい、それはもちろん。でも…アーニャさんは、本当にそれで、そうして、いいんですか?」
 アーニャはやさしげに微笑み、閃那さんはほっとした様子を見せる?
「…ティナ、貴女の偽りのない想い、教えてくださいませんか? そうでないと、わたくし…」
 その二人の態度の意味を考える前に、改めてこっちを見てきたアーニャに悲しげな表情をされちゃう。
 あぁもうっ、あの子にあんな顔されたら…覚悟決めるしかないじゃない。
「わ、解ったわよ…!」
 返事をしてから一回目を閉じ、深呼吸…ものすごくどきどきしてきちゃってる。
 でも…あの化け物をこの手で倒して、さらにもう会えるはずのなかった子にも会えたんだ、もうどうにでもなれっ。
 意を決し、もう一度深呼吸をしてから…ゆっくり目を開け、あたしを見守ってる二人の子のうちの一方へ歩み寄る。
「えっ…ティ、ティナ、さん…?」
 戸惑うその子…閃那さんのすぐ前で緊張ですくみそうになる足を止める。
「その、せ、閃那さん…て、手を、出してくれる?」
 声も震えそうになっちゃうけど、落ち着け、あたし。
「は、はい、えと…」
 おずおずと差し出された手、その上にあたしが取り出したものの一つを置く。
「せ…閃那、さん。あたしは、その、閃那さんのことが…す、好き、なのっ! も、もしも、あんたがあたしの気持ちを受け入れてくれるなら…その指輪を、受け取ってっ」
 …あぁ、ついに言っちゃった。
 渡したのは、あのときアーニャから渡された、元々あたしが持ってたのとお揃いの指輪…あたしに大切な人ができたときその人に渡して、って言われたもの。
 あのときはアーニャとの友情の証をそんなふうにするなんて考えられなかったわけだけど…今のあたしは、彼女にならこれを渡してもいいって、受け取ってもらいたいって思ってる。
「ティ、ティナさん、わ、私…」
「な、何よっ、べ、別にそっちにそういう気持ちがないなら、それは返してくれていいから…!」
 返事が怖くって思わず目をそらしそうになる…けど。
「…返しませんっ。私だって、ティナさんのこと、大好きですからっ」
「んなっ…せ、閃那、さん…」
 こっちをまっすぐ見ての、あの子の強い言葉…あたしは固まっちゃう。
「私、ずっと…そう、はじめて会ったときから、ティナさんのことが好きでしたっ。でも、ティナさんはそんな私の気持ちに全然気づいてくれなくって、友達としか見てないんじゃないかって思ってましたけど…」
「そ、そんなときから、あたしのことを…?」
 初対面時は消すとか言ってきてたし、好きになる要素なんてなさそうなのに…でも、あの子はうなずいてくる。
「はい…私の初恋、です。てっきり、実らないものかと思ってましたのに…ティナさん、私のこと、本当に…?」
「あ、あたしとお揃いの指輪…それを渡したんだから、解るでしょっ?」
「はい…でも、もう一度、ちゃんとティナさんの言葉で聞きたいです」
 うぅ、恥ずかしい…けど、あんな涙目で言われて、断れるはずない。
「あ、あたしも…閃那さんのこと、好きよ…? あたしだって…その、は、初恋なんだからねっ?」
「…ティナさんっ」
 ものすごく恥ずかしくって目をそらせようとしたんだけど、その前にあの子が抱きついてきちゃった…!
「せ、閃那さん…も、もうっ、しょうがないんだから…」
 これから考えなきゃいけないことはたくさんあるけど、閃那さんと想いが同じだったこと、これが嬉しくって、彼女を抱きしめ返すの。
「ティナ、本当によかったです。これで、わたくしも安心してあるべきところへ戻ることができます」
 そんな声が届くものだからはっとしてそっちへ目を向けると…アーニャの姿が薄れはじめてる…!
「ちょっ、アーニャ…!」
「ティナ、どうか幸せになってくださいね…それがわたくしの望み、そしてそれをこれからも見守っていますから」
「え、ええ…安心して、見守ってなさいよねっ」
 閃那さんから少し身体を離し、でも右腕で抱き寄せつつ強くうなずく。
 彼女を守れなかったあたしが幸せになっていいのか、って思わないこともないんだけど…でも、その彼女自身があんなこと言って微笑んでくるなら、それに応えなきゃ…!
「閃那さん、ティナのことをよろしくお願いします。彼女、不器用ですからもどかしいかもしれませんけれども…」
「大丈夫です、そこがティナさんのかわいいところですから。私、ティナさんのこと、絶対に幸せにします」
 何か解り合ったみたいに微笑みあう二人なんだけど、何なのよ一体…!
「では、ティナ、それに閃那さん…どうか、ずっと…」
 アーニャの姿が光の中に消えていく。
 でも、彼女があたしのこと、見守ってくれてた…それが解ったから、大丈夫よ。
「…うん、ありがと、アーニャ」
 だから、涙はあふれちゃうけど、笑顔で彼女のことを見送ったの。


    (第6章・完/第7章へ)

ページ→1/2/3/4


物語topへ戻る