かつてあたしの国を襲った、黒い化け物。
 目の前にいるそれは、あたしがアーニャを守るために相対したのと同じ奴…巨大な体躯に、全身を黒い瘴気みたいなので包み込んでる。
 ただ、どうも眠ってるみたいな様子になっててうずくまってる様に見え、このまま一気に斬りかかってしまえそう…だけど。
「多分、そんな甘くはないんでしょうね…はぁっ!」
 駆けながらあいつへ左手を向け光の矢を放つ…けど、それはあいつのちょっと手前で一瞬現れた黒い壁みたいな障壁にはじかれちゃう。
「…そういうことなら、私が破りますっ」
 と、いつの間にか身長以上の巨大な剣を手にしてた閃那さんが大きく飛び上がるとあいつへ向け剣を振り下ろす。
「このくらい…いけっ!」
 剣はやっぱり障壁に阻まれたけど、あの子が掛け声とともにこっちに衝撃波が伝わってくるほどの力を加えて…ガラスの割れるみたいな音とともに障壁が消滅した!
 でも、それと同時に化け物はうめき声みたいなのを上げながら身体を起こしてきてしまう。
「目覚めちゃったのか…でもっ!」
 光の矢を連続であいつの身体へ向け放ち、全部命中…するけど、あいつはそれを気にした様子もなく、口を大きく開けるとそこからこっちへ黒い光を放ってきた!
「…っ、こんなものっ」
 障壁を張ってそれを防ぎ、前とは違って完全に防げてはいるもののあいつはそれを放ち続けてきてて身動きが取れなくなる。
「ティナさん、私がっ」
 あの子が横合いから飛びかかり、大きく振り下ろされた剣が化け物の腕を斬り落とした…けど、瞬時に再生した?
 しかも、口からの光をやめたかと思ったら、そいつの力が増してくのが感じられて…次の瞬間、あいつの身体を包む黒い瘴気が針みたいな無数の光になって放射されてきた!
「んなっ、閃那さん、大丈夫っ?」
「はい、問題ないです」
 あの子も障壁張って防いでてそれはよかったんだけど、光がぶつかったのか上から岩とかが崩れ落ちてきた。
「ティナさん、これって…」
「…そうね、あんまり時間はかけられなさそうね」
 この化け物はそういうの気にしないで暴れてきそうで、そのうち上が崩落してきてしまいかねない…それで死ぬことはないかもしれないけど、こいつを逃がしてしまいそう。
 で、逃がしたらどうなるか、なんて…寝る子を起こすことをしたんだから、そんなの許されない。
「ティナさん、こいつの動きは私が止めますから、ティナさんがとどめを刺してください!」
 閃那さん、そんなこと言うと剣を地面へ突き刺す?
 瞬間、彼女を中心とした地面に何か円形の模様みたいな光が浮かび、彼女自身も淡い光に包まれたかと思ったら…化け物の身体をいくつもの光の輪が拘束した?
 化け物はうめき声みたいなのを上げながら身体に力を込めてるけど、それは消えることなくあいつを縛り付ける。
 今まで感じたことはあったものの実際に閃那さんの力を見るのはこれがはじめてになるわけだけど、やっぱりすごいわね…このままあの子がこいつを倒せてしまえそうな気もするけど、あえてあんなこと言ってくるあたり気を遣ってくれてるのかしら。
 それにあたしは応えられるのか、やってみるしかない…と、そのときあることを思い出した。
 それは、この旅の出発前に叡那さんが渡してきた、叡那さんとエリスさんが作ったっていう、力を増幅させるって効果があるらしいもの。
 叡那さん、それを渡してくれたときにあたしが過去と向き合うことになるかもしれないって言ってきたし、こうなるってことを解ってたのかも…とにかく、使えるものなら使わせてもらわなきゃ。
「…あたしに、力を貸してっ」
 宝玉みたいなそれを手に握り、力を込めた瞬間…あたしが光に包まれた?

 まばゆいばかりの光が消えたとき、あたしの姿がちょっと変わってた。
 いや、正確には服装がっていうか、軽いけど鎧みたいなのが着てた服の上に追加されたかたちになったりしてたの。
「わぁ、ティナさんが変身した…やっぱり完全に魔法少女ですね、素敵ですっ」
 化け物を拘束してる力を発し続けてるあの子がよく解んないことで盛り上がってるけど、力のほうは…増したのか、よく解んない。
 でも、宝玉を握ってた左手には、その宝玉が埋め込まれた剣の柄みたいなのが握られてて…
「…光の剣よっ」
 力を込めると、柄の先に光の剣が現れ…それは、かつてあたしがこの場所で生命すら力に変えて発生させたものよりもさらに強く光り輝いてた。
 これは…確かに、あたしの力が増幅されてる?
 ならば、何も迷うことなんて…ないっ。
「…いくわよっ」
 あの化け物へ向け駆け出し、剣を振り上げながら大きく飛び上がる。
「この国を…アーニャを奪った化け物めっ、このあたしが斬るっ! はあぁぁっ!」
 光り輝く剣をそいつの頭に振り下ろす!
 黒い瘴気は引き裂かれ、そいつは気持ち悪い声みたいなのをあげながら拘束を破ろうとする…けどっ。
「終わりよ…いけぇっ!」
 さらに力を込めた光の剣は、化け物の頭、それにその身体も真っ二つに斬り裂いた!
 さすがにそれなら再生とかできないはず…なんだけど、その瞬間、あたり全体がまばゆいばかりの光に包まれていっちゃう…!


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