島は少なくてもあたしの見た範囲だと人は誰もいなさそうだった。
 あたしたちは砂浜沿いの木陰に腰かけ、まずは食事…ねころ姉さんの用意してくれたものを食べる。
「ティナさん、明日からはどうします? 予定だとオーストラリアのほうに行くことになってますけど」
 食事も終わって、ようやく日も落ちてきた中、すぐ隣に腰かけてるあの子が声をかけてきた。
「そう、ね…明日はもうお社に帰ろうかって考えてるわ」
「え…えぇ〜っ!? ど、どうしてですっ?」
「なっ…何よ、そんな驚かなくってもいいじゃない」
 ものすごい反応されちゃってこっちがびくってなっちゃった。
「だって、せっかく私たち、恋人になったんですから…ラブラブ旅行したいです」
「…んなっ、な、何言ってんのよっ?」
「だってだって…ティナさんは、嫌なんですか?」
「そ、そんなの…あたしだって、その、そうしたいわよっ」
 彼女のこと好きだって意識して、そして想いが繋がったから…一緒にいたいって気持ちが、もっと強くなってきてる。
「だったら…」
「…ううん、でもやっぱダメ。明日には帰るから」
「そんなぁ…どうしてですか?」
 あんな顔されたりすると胸が痛む…けど、ね。
「だってね…あたしたちがあの化け物と戦ったりしたの、叡那さんなら絶対把握してそうじゃない?」
「それは…そうですね、まず間違いなく」
「うん、だからはやく帰って心配ないって、無事だってのを見せないと。叡那さんとねころ姉さん、それにエリスさんは、今のあたしにとって大切な家族、だから」
 そう、閃那さんももちろんとっても大切な、大好きな人だけど、あの三人も較べたりできないくらいに…。
「…むぅ。そんなこと言われたら、我儘言えなくなっちゃうじゃないですか…」
 解ってくれたみたいだけど、しゅんとした彼女を見るとやっぱりつらくもある…かわいくもあるけど。
「…ごめん。でも、あたしたちの時間は、これからもいっぱいあるでしょ?」
「そう、ですね…あ、でも、まだどうなるか解らないとこもあるかも…」
「そりゃ未来のことなんて解るわけないけど、あたしは閃那さんと…ずっと、一緒にいるつもりよ」
「わぁ、あ、ありがとうございますっ。でも、私が言いたいのはそうじゃなくって…私が元いた時間の両親とかにこのこと話さないと、ってことです」
「あ…あぁ、そっか」
 そういえば、閃那さんもこの時代の人じゃないんだっけ。
 しかも、あたしが過去からきたのに対し、彼女は未来から…。
「でも、説明しようにも、閃那さんって事故でこの時代にきたんでしょ? 戻る方法とか、目途はあるの?」
「…あっ、それなんですけど、えっと」
 なぜだか気まずそうな様子になっちゃった。
「何よ? 何かあるならはっきり言いなさいよね…あたしで力になれることなら何でもするし」
「あ、ありがとうございます。じゃあ言いますけど…お、怒らないで聞いてくださいね?」
 何を言いたいのか全然解んないけど、ひとまずうなずく。
「えっと、実は…事故っていうの、嘘なんです。元の時間にも、いつでも戻れちゃったりして…てへっ」
「…は? な、何よそれ、どういうことなの…ちゃんと説明しなさいよねっ?」
「は、はひっ! その…」
 思わず声を荒げちゃってびくってされちゃったけど、でもあんな重大なこと嘘ついてたんだからしょうがないじゃない…ま、とにかく事情を聞いてあげることにした。
 で、それによると閃那さんは自由に時を行き来できるっていうかなり特異な力を持っていて、もちろん普段はそんな力の乱用はしないそうながら、今回はこの時代で大きな時空の歪みを感じ取ったから様子を見にきたっていうの。
「その時空の歪み、って…もしかしなくても、あたしが過去から飛ばされてきたこと?」
 うなずく彼女だけど、まぁそれならあたしがこっちにきた直後にこの子に会ったのも当然ってことか。
「あたしが原因って解っても元の時間に帰らなかったのは何でよ? あたしが何か問題起こすんじゃないかとか、あんたのことを他の人に話したりするんじゃないかとか、そういうこと考えて監視でもしてたの?」
「そんなんじゃないです。ただ、ティナさんのことが気になって…お近づきになれたらなぁ、って」
「…へ?」
「だってだって、一目惚れだったんですから、しょうがないじゃないですかっ」
「え、え〜と…そ、そっか、うん…」
 再会してからの彼女の態度、その全てに納得がいったけど、恥ずかしいわね…でも、嬉しいかも。
 お互い気恥ずかしさから無言になっちゃう…けど、気になること、あるわよね。
「…閃那さんは、別の時間の人なのよね。なら、そっちに戻ることになって…ここには、いられないんじゃないの? だったら…あたしは、どうすればいいのよ…」
 アーニャは想いが通じ合ってればだいたいの壁は乗り越えられる、とか言ってたけど、これは…だいたいのことじゃ、ないわよね…。
「それは、きっと大丈夫ですっ。大丈夫にするために、一度元の時間に戻ってしっかり相談してきますから…私を、信じてください」
 不安は尽きないけど、閃那さんが真剣な表情であたしを見つめてそう言ってくるから…信じて、うなずくしかない。


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