今は周囲に小島一つない南東太平洋の大海原、そこには昔、確かに日本ほどの大きさをした島があった。
 外界から隔絶され、また住民も外へ出る理由がなくその行為自体が半ば禁忌とすらされていた、なのでその島だけで発展をしてきたのが、あたしと同じ耳をした種族…あたしみたいに力を使える住人も少なからず存在した。
 外界との接触が一切なかったから国の名前とかも特に意識はされてなかったわけだけど、一応ヴェルーシュハイドの民、とか呼ばれてた。
 その国で生まれたあたし、母ははやくに亡くなったけど、父がお城に勤めてて、その関係で幼い頃にお城へ入る機会があった。
 そこで会ったのが、お姫さまであたしと同い年だったアーニャ…いつしかあたしたちは、親友っていえるくらい仲良くなっていってた。
 あたしの持ってる力は他の人よりも強く、それでよくない目で見られてたのも解ってたけど、彼女との出会いによってその力で彼女を守れるって、そのためにもっと強くなろうって思える様になっていったの。
 アーニャの計らいであたしはお城で暮らしてよくなって、彼女と一緒にずっといられると、その力で彼女を守っていけるって思ってた…けど、そうはいかなかった。
 それは、父が地位を悪用して国の実権を我がものにしようとしたから…その企みが知られ破れた父は処刑され、娘であるあたしは労働施設へ送られることになり、アーニャと引き離されることになっちゃったの。
 そりゃ、父親を恨んだりはしたけど、アーニャに迷惑かけられないから大人しくその施設に行ったものの、そこであたしとアーニャの関係のことを悪く言ってくる人がいて、それに耐えかねたあたしは力を暴走させてしまい、施設を破壊しちゃったの。
 もう国に居場所のなくなったあたしは、禁忌ともされていた外の世界へ逃げる様に向かい、それから数年間特に当てもなく世界を旅してきた。
 国へはもう二度と戻れない、そう考えてたんだけど、その国に異変が生じたのを…アーニャに危険が及びそうなほどの異変を感じ急ぎ戻ったんだけど、戻った国は得体のしれない化け物に襲われてたの。
 あたしはその化け物からアーニャを守ろうとしたけど、彼女はそんなあたしを守ろうと、おそらく自らの生命力をも使ってあたし一人をこの時代に飛ばした…。
「…あたしがその時代について知ってるのはここまでだから、その後国と化け物がどうなったのかとか、どうして島がなくなってるのかとかは解んないわ。ただ、島がなくなってんのも、その化け物がしたことだって、思うけど…」
 一連の説明をして、最後はそう締めた。
 あたしが戻ってきた時点ですでに絶望的な状況、人類史に一切記録なく末裔もいなさそう、ってなると化け物の襲来で国は滅びたんでしょうけど、島までなくなるなんてね…。
「そう、だったんですか…」
 少し質問をしてきたり相槌を打ったりするくらいで静かに話を聞いてた閃那さんだったけど、力なくそう声を上げると…あたしに抱きついてきた?
「…へっ? ちょっ、閃那さんっ?」
「ティナさん、ものすごく苦労されてきたんですね…つらかったですよね」
 しかも、彼女は涙声になってる。
「も、もうっ、何であんたが泣いてんのよ…。もう過ぎたことだし、気にしなくっていいってば」
「そんなこと言われても、ティナさんがあんなつらい想いをしてて、気にならないわけありませんっ。でも、大丈夫ですから…」
「な、何が大丈夫だっていうの?」
「これからは、私がティナさんをお支えしますから…つらい想いはさせませんから」
「…は、はぁ? ちょっ、ちょっと待ちなさいよっ」
 あまりに突拍子もないこと言われて慌てちゃう。
「はい、どうしましたか?」
「い、いや、どうしてそこまで言ってくれるの? あたしのこと、友達だって思ってくれてるにしても…」
 閃那さんの言葉からは、あたしがアーニャへ対して伝えた言葉と同じ、あるいはもっとかもしれないくらいの重さを感じた気がする。
「…そんなの、決まってます。私は、ティナさんのこと…友達だとは思ってませんから」
 彼女はそう言うと、あたしから身体を離して…完全に離すと落ちちゃうから手はあたしの手をつかみつつ、まだ涙の残った目でこっちをまっすぐ見つめてきた。
「友達だと、思ってない…? あたしはそう思ってるのに…じゃあ、閃那さんにとって、あたしは何なの…?」
 彼女の言葉がショックでそう聞き返しちゃったんだけど、すると彼女は一瞬うつむいちゃう。
「…さぁ、何でしょう。教えてあげませんっ」
 で、すぐに顔を上げた彼女は笑顔でそう返してきたんだけど、ただ…彼女がうつむく直前に見せた表情、あれはあたしよりショックを受けてるみたいに見えた。
「え、えっと、閃那さん…?」
「ティナさん、これからどうするんですか?」
 だから気になって声をかけようとしたんだけど、彼女の問いかけに遮られちゃった。
「え、えと、そうね、閃那さんがよければ、ここの海底の様子を見ていきたいんだけど…」
「もちろんいいですよ。じゃあ、さっそく行きましょう」
「う、うん、そうね…」
 彼女は明らかにさっきの話の続きをするのを避けてるみたいで、だからあたしも改めてたずねることができなかったの。

 あたしの生まれた国のあった場所。
 そこの海底を調べることは、島がなくなってるってことをこの目で確認した以上やっておきたいことだったから、あたしたちは空気を維持できる膜を周囲に張ったままで海に潜ってくことにした。
「うわぁ、きれいな海ですねぇ」
 今の時代の海は汚れてるとこも多かったけど、ここの海は閃那さんがそう声を上げるくらいきれい。
 ただ、いくらきれいっていっても深く潜るにつれ海面からの光は届かなくなってきてしまいには真っ暗になっちゃうけど、あたりを照らす力を使ってある程度視界を確保しとく。
 そうして、どのくらい潜ったのかしらね…ついに海底に到達した。
「海の底ってこんな風になってたんですね…宇宙に出ちゃうくらいの高さに行ったと思えば今度はこんなとこまでこれるなんて」
 もの珍しそうにあたりを見回す彼女だけど、あたしも海底なんて…っていうより海に入るなんてはじめてだから、目に映る光景はかなり新鮮。
 ただ、珍しい生物とかの姿はあっても、あたしのいた国があったって痕跡は…見当たらない。
 いや、それが見つかったとしたらどうなるってわけでもないけど、今のところあたしのいた国が過去のこの世界にあったって形跡が一つもないから、ちょっとくらいあればいいな、って思った程度のことで…。
「どうですか、ティナさん?」
「う、うん、特に何もないわね…。そろそろ上に戻りましょうか」
 しばらく海底を見て回ってみてもそんな状態だったから、そう返事をして上昇しようとした…んだけど。
「…あれっ? ティナさん、あそこに何かありますよ?」
 閃那さんが指さしたほうを見てみると、海底の一角がちょっと盛り上がってて、そこに人が入れるくらいの穴が開いてた。
「何でしょう、こんな海底に洞窟ですかね」
「さぁ、入ってみないことには何とも…どうする?」
「う〜ん、探検みたいでわくわくしますし、入ってみましょう」
 あの子がそう言うならあたしに異論はなくって、その中へ入ってみることにしたの。


    (第5章・完/第6章へ)

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