「うわぁ、見渡す限りの大海原。ティナさん、すごいですね」
 翌日、よく晴れた中をそんな声あげる閃那さんを連れて南太平洋上空を飛んでく。
 大西洋を越えたときは北のアイスランドやグリーンランドって島とかを伝ってったし、あっちは寒々しい雰囲気もあったから、今の開放的にも感じられる景色は確かにこの旅はじめてのもの。
「そう、ね…」
 でも、そんな上空を飛んでくあたしは、どうしても開放的とは程遠い気分になっちゃう。
「ティナさん、どうしたんです? もしかして、不時着できる場所ないから不安なんですか? 確かにこのあたり島もほとんどないですもんね…ティナさんなら大丈夫だって思ってますけど」
「…ん、ありがと。あたしは、大丈夫だから」
「いえ、そんな、お礼言われることじゃないです。でも、やっぱり北アメリカから陸地伝って帰ったほうがよかったんじゃないですか?」
「…ううん、最後はここを通る、これははじめから決めてたことだから」
「えっ、どうして…オーストラリアに行きたかったんですか?」
「ううん、そうじゃないわ」
 …距離からして、このあたりのはず、なのよね。
 あたしはあたり全体海しか見えない様な場所で静止した。
「…えっ、ティナさん?」
「閃那さん。このあたりに…あたしの生まれた国があった、はずなのよ」
「え…えぇっ? で、でも、このあたり、島一つないですよ?」
 彼女の言う通りな光景が広がってるんだから、戸惑われるのも当然。
「そうね…でも、南アメリカ大陸とか、そのあたりとの位置関係を見るとこのあたりで間違いないはず、なのよ。少なくても、あたしのいた時代にはこのあたりにあたしの生まれた国…日本と変わらないくらいの大きさの島があったはずなの」
 でも、今の世界の地図には一切記載されてなくって、自分の目で確かめてみなきゃ…ってことでここまできたわけだけど、やっぱり海原が広がってるだけだった。
「それって…そんな大きな島が消えちゃったってことですか? そんな話、聞いたことないです…あっ、ティナさんのこと疑ってるとか、そういうわけじゃなくって…!」
「…いいってば。今の時代の歴史にはあたしの国のこととか一切残ってないし、あたしと同じ種族も残ってないから、信じられないのもしょうがないわ」
 あたしが逆の立場だったら…うん、信じられなかったかもしれない。
「…ティナさんと同じ種族? 猫さんなら今も残ってますけど…」
「…は? あんた、何言ってんのよ」
 何か、あまりによく解らないことを唐突に言われた。
「えっ、ティナさんって猫さんが人間になった…んじゃ、ないんですか?」
「…はぁ? な、何でそんな発想になるのよ…動物が人間になるとか、あるわけないでしょ」
 猫って動物はこっちの時代で見たわ…かわいらしい小動物で耳の形は確かにあたしのに似てたけど、だからって普通そんな発想になる?
「えっ、だってそのお耳、それにねころさんのことを『姉さん』って言ってますから、てっきり…違うんですか?」
「違うわよ…っていうか、その言いかただとねころ姉さんはそうだって聞こえるんだけど」
「はい、そうですよ?」
 あっさり肯定されちゃったけど、ねころ姉さんは叡那さんがたすけた猫が人間となったもの、らしい…にわかには信じられない様なことだけど、叡那さんが絡むならあり得るのかも、とも思えた。
「…もしかしてティナさん、今まで知らなかったんですか?」
「う、うん、はじめて知ったわ…」
「あわわ、それは…本人とかからお聞きしたほうが、よかったですよね…」
「…別にいいわよ。ねころ姉さんはねころ姉さんでしょ?」
 エリスさんはこの世界の人間じゃない、あたしは過去から、閃那さんは未来からきた人間だっていうんだし、いまさらよね。
 まぁ、ねころ姉さんの耳の謎が解けたのは、ちょっとすっきりしたかも。
「え〜と、じゃあティナさんのそのお耳って…何です?」
 ねころ姉さんがそういう存在なんだったら、閃那さんがそういう疑問を抱くのも当然といえる。
「まぁ、これはね…ここに数万年前まであった国の住人だった証、なのかしらね。ちょっと長くなるかもしれないけど、話してあげるわ」
 かつてその国があったはずの海原を眺めつつ、あたしにとってはそう遠くない記憶の、でもこの世界の歴史でははるか昔で一切の記録すら残っていない国のこと、そしてあたし自身のことを話すことにしたの。


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