…何か変な感覚が頭からしてくる。
 くすぐったい様な、気持ちいい様な、今まで感じたことない感覚…。
「んっ、ふぁ…」
 変な声まで出ちゃったけど、あたし、寝てたんだっけ…?
 ゆっくり目を開けると、あたりはまだ真っ暗で…どうやら、あたしの頭の上にある耳が触られてる?
「んんっ…せん、な、さん…?」
「あっ、ティナさん…起きちゃいました?」
 姿は見えないけど、耳のすぐそばから声がして、それがくすぐったくってぞくってなっちゃう。
「んあっ…何、してんの…?」
「ティナさんのお耳、ずっと触ってみたかったんです。リボンで隠しちゃうなんてもったいない…ふにふにで気持ちいいです」
「ふぁっ、ちょっ…」
「声もとってもかわいい…お耳もですけど、ティナさんはかわいすぎます」
「何、おかしなこと言って…んっ、そっちのほうが、かわいいくせに…」
 いけない、変な感覚のまま、意識が落ちる…。
「ティナさんはお疲れなんですね…ゆっくり休んでくださいね」
 やさしい声をかけられながら、頭をなでられた気がする…。

 翌朝は普通の目覚め。
 隣に目をやると、閃那さんが気持ちよさそうに眠ってる。
「何か、夜のうちに彼女が何かしてきてた気がするんだけど…」
 記憶が曖昧で、よく覚えてないんだけど…?
「ねぇ、閃那さん。貴女、あたしが眠った後に何かした?」
 だから、あたしが朝の剣の稽古を終えた後でようやく目を覚ました彼女へそう声をかけてみた。
「えっ、いいえ、私は何にも」
「ふぅん、そう…なら、いいわ」
 じゃあ、あれは夢だったのね…何か恥ずかしいこと言った気もしたし、それならそのほうがいいのかもしれない。
 でも、気持ちよかったり、あと幸せを感じたりもした様な…いやいや、とにかくもうそんなことは忘れちゃっていい。
「ティナさん、今日はどうするんですか?」
 朝食後、着替えもしたあの子にそうたずねられた。
「うん、今日からはこの日本の外に行ってみるわ」
 叡那さんからもらった世界地図を広げて、これからたどってみる予定の経路を指し示してみる。
 まずはアジア大陸へ渡って西進、アフリカ大陸を一周してヨーロッパってとこを経由して北アメリカ大陸へ、そしてそこから南アメリカ大陸へ行く、ってことにしてる。
「じゃあ、最後は北アメリカに戻って、アラスカからこっちに戻ってくるんですか?」
 なるべく陸地の上を行きたいから、本来なら彼女の示した経路、あるいは南極大陸を突っ切るところなんだけど…
「ううん、ここから…こう進むわ」
 南アメリカの南端からオーストラリア大陸へ至る海上を指す。
「えっ、そこほとんど海ですけど…」
「いいのよ」
 地図上では本当に海しかない、南太平洋って呼ばれるあたり…そこには絶対行かなきゃ、って考えてるから。

 あたしと閃那さんはまた空を飛んで、海を越えて世界を巡る。
 世界一高い山々、ってのはあたしのいた時代でも見たけど、やっぱり壮観ね。
「ティナさん、せっかく浜辺があるのに泳いでかないんですか?」
 さらに西へ進み海沿いに出たところでそんなこと言われたけど、泳ぐ理由なんてない。
 まぁ、今の時代は夏になると水着ってのを着て海とかで泳ぐ、ってのが結構一般的らしいから、いずれは考えとかないこともないけど、とりあえず今はなし。
「残念です…じゃあ、ちょっとこの膜を解除してもらえませんか?」
 そんなこと言ってくるものだから、あたりに何もないところで力を解除したわけ…なんだけど。
「…うわっ、暑いっ。何なのこれ、このあたりって真夏なのっ?」
 あたりはこれまで感じたことないくらいの暑さで…あたしが元いた時代は今の時代から見ると氷河期っていう気温が低かった時代になってるらしく、今の時代はその頃よりかなり暑いらしい。
 しかも、日本でも夏になるとこれよりさらに暑くなるくらいになっちゃうらしいの。
「うそでしょ、そんなの…耐えられるのかしら…」
 寒さなら慣れてるんだけど、これはちょっと、不安しかない。
「ダメそうでしたら魔法で涼しくしておけばいいんじゃないですか?」
「う〜ん、それはちょっと違うでしょ。この世界のあの国で生きてく、って決めたし、ちょっと覚悟しておくわ」
 今は周囲から見られたりしない様に、ってことで気温も一定にできる膜を張ってるけど、毎日の日常を過ごす上ではさすがにそんなことしてられないし、他の人はそんな中で過ごしてるんだものね。


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