あたし、それに閃那さんの二人は空気を引き裂いて上空へ一気に突き抜けてく。
「わ、わわっ、ティ、ティナさんっ。ど、どこまで、上がるんですっ?」
 かなりの勢いで上昇してるってこともあって、閃那さんはあたしの身体にぎゅってしがみついてきてる。
 あのことを確認するには、まだまだ低い…ってことで、勢いを弱めることなくもっと上昇してく。
「ティナ、さんっ…さ、さすがにこれ以上は、苦しいかもしれません」
「…あ、ご、ごめん」
 より強くしがみついてきたあの子の言葉にはっとして動きを止めた。
 さすがにちょっと高く上がりすぎてしまい、空気がものすごく薄くなっちゃってる上、さすがに寒さもまさに肌を刺す、って感じになっちゃってた。
「ちょっと待ってて、今何とかするから」
 目を閉じて心を落ち着けて…そして、力を解放。
 すると、あたしたちのまわりを薄い球状の膜が包み込み、その内側には地上同様の空気が満たされ、それに寒さも和らいできた。
 …いけないいけない、はじめからこうしとくべきだったわね。
「ふぅ、うまくいったわね。叡那さんとエリスさんに教えてもらって、練習で一回使ってみただけだったんだけど、よかった」
「えっ、ままたちが…じゃなくってっ。え、えっと、これは?」
「…え? 閃那さん、今何て言った?」
「で、ですから、この魔法は何なんです、って! それだけ、ですっ」
 相変わらずあたしにしがみついたままながら、かなり強い口調で言われちゃった…いや、よく解んなかったし、いいか。
「え〜と、うん、あたしたちのまわりに空気を維持できる膜を張ったのよ。これで理論上は宇宙空間に出ても大丈夫、らしいわ」
 あたしの力がしっかりしてればそんな場所や海底でも大丈夫だそうで、あと重要なこととしてこれを張っておけばこの膜の中にいるあたしたちのことを外部から見たり気配を感じたり、っていうのを遮断できるそう。
 もちろんある程度の力を持った相手には通じないっていうけど、今の世界はあらゆるところにあたしみたいな力とは違う機械による監視の目が張り巡らされてて、これを使わずに飛んだりしてると肉眼なら絶対大丈夫な位置からでも姿を見られたり、最悪の場合には攻撃されちゃったりする危険性があるっていうんだから、怖いものよね。
「えっ、ティ、ティナさん、宇宙に出る気なんですか?」
「そんなわけないでしょ、この力で宇宙に出られたとしても戻れるか解んないし…それに今の世界を見て回る、って言ったじゃない」
「そ、そうですよね、でもそれじゃ…どうして、こんな高さまできちゃったんですか?」
 なおもあたしにしがみついたままな彼女が足元へ目をやるから、あたしも改めてあたりを…特に足元を見回す。
 あたしたちは地表、さらには雲よりもはるか上空で静止してて、空はもう青くなくって夜みたいに真っ暗でかえって眼下に広がる世界のほうが明るい。
 その眼下にはあたしたちのいる地球が見えるわけだけど、かなり上空から見てるから球状だってことがよく解って、それに海や地上、雲とかが幻想的ともいえる美しさを見せてる。
「うん、あたしがいたお社とかが、この星のどのあたりにあるのか見ておきたくって」
「えっ、でもそういうのって地図で見れば…」
「地図も見させてもらったけど、でもやっぱ自分の目で直接、実際に見てみたかったのよ。こっちに来る前は何年か世界を見て回ってたし、そのとき見た場所と一致したりするかもしれないし」
「そんなことしてたんですか…昔の日本列島にティナさん、きたことありましたか?」
 眼下に見える、四つの大きな島が目立つとこがお社のある日本列島ね…その上にあったり、あるいは小さな島々の先にある大きな島も関係ありそうに見えるけど、それらは別の国らしい。
 一方には大陸、反対側には大洋があり、これに似た地形はどっかで見たことある気がする…けど。
「どうだろ、あたしの記憶とは地形が合わないのよね…」
 …ん、待って、確かこれって勉強した内容にあったわよね。
「…あぁ、なるほど、納得したわ。あたし、こっちにくる前にもこのあたりにきたこと、あるわ」
「あ、そうなんですか?」
「うん、今とはずいぶん地形違うけどね」
 歴史の勉強のときにあった通り、あたしがかつて見たこのあたりは大陸の一部になってて、大陸と島との間にある海は大きな湖だった。
 それはこの日本って国のはじまりのことだったし、そんなのを実際に見たことあるとか、あたしって本当に大昔って呼べるほど昔のこの世界からきたのね…今になって実感した。
「あたしが生まれた時代とは、やっぱりかなり変わってるのね…うん、やっぱ自分の目で色々見てみたい、って気になったわ」
「はい、私もご一緒させてもらいますね」
「うん、それはいいけど…いつまでしがみついてるのよ」
 彼女は相変わらず私の身体にぎゅってしてる。
「だって、こんな高いところにいるんですよ? それでティナさんから離れたら…そう思うと、怖いじゃないですか」
 別にあたしの身体に触れてれば、手をつなぐ程度でも問題ないんだけど、この高さだしもしものことを考えたら怖くなっちゃうのも当然なのかも。
「しょうがないわね…それじゃ、今から降りてくけど、離れたりしない様に気をつけなさいよね?」
「はいっ」
 随分元気な返事で怖がってるみたいには思えなかったけど、見たいものは見られたから降りてくことにした。
 あんまり速度をはやめると重力に引っ張られそうで怖がらせそうだし、適度にゆっくり…。
「…ティナさんのお胸、大きいです。気持ちいい…」
 あたしの胸に顔をうずめるかたちでしがみついてきてたあの子がそんなこと呟いて…?
「…んなっ、な、何言ってんのよっ! もうっ、離れてよっ!」
「えぇーっ、嫌です、怖いです」
「何よ、本当は怖くないんでしょっ?」
「そんなことないです、ティナさんの大きなお胸にぎゅってしてると安心できるだけです」
 もうっ、全然離れようとしない。
 あたしの胸なんて、叡那さんやねころ姉さんに較べたら全然だって思うのに、この子は…いやいや、そんな問題じゃないし!
 …あぁもうっ、変なこと言うから変に意識してきてしまったじゃない!
「あれっ、ティナさん? 胸の鼓動が…」
「う、うっさい! 一気に降りるからねっ」
 恥ずかしさを誤魔化すために、自由落下とそう変わらない速度で降下してくことになっちゃった。


    (第4章・完/第5章へ)

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