世界を回るにあたって前日に色々準備をしてく。
 今のこの時代、色々な乗り物があるから旅行ってかたちである程度世界中の行き来ができるみたいだけど、色々制約が掛かったり、あとお金とか言葉とかの問題もあって、やっぱり当初考えてた通りの方法で回ることにした。
 ただ、そのままそれをすると問題になる場合があるそうで、それを防ぐための方法を叡那さんやエリスさんに教えてもらった。
 そのついでにいくつかの、戦いじゃなくって旅したりするときに有用な力…お二人の言うところの魔法を教えてもらったけど、こういう力の使いかたもあるのねって感心しちゃった。
 そうして迎えた翌日、出発の日。
 朝食後、出発するために外へ出たあたしに続いてあの三人も見送りのために出てきてくれた。
「ティナさん、どうかお気をつけていってらっしゃいまし」
「うん、お弁当もありがと、ねころ…ね、姉さん」
「あっ…は、はい、こちらこそ、ありがとうございまし」
 お礼言われることじゃないんだけど、まだ慣れないっていうか…恥ずかしい。
「姉に心配かけちゃダメよ? まぁ、ティナなら心配いらないでしょうし、一緒に行くって子も大丈夫そうね」
「まぁ、あたしより強そうだし、そうね…」
 結局、閃那さんをエリスさんたちに会わせられなかったわね…エリスさんたちも会いたいとか言ってこなかったからいいんだろうけど。
「…ティナさん。貴女の行動次第では、貴女は過去と向き合うことになるかもしれない」
「…へっ? それってどういう…」
「できれば無理はしないで戻ってきてもらいたいけれども…もしもの際には、これに魔法力を込めなさい」
 叡那さんはそう言うとあたしに…少し不思議なかたちをした、そして何か力も感じる小さな宝石みたいなものを手渡してきた。
「えと、これって…?」
「ええ、それは貴女の魔法力を増幅させるもの」「私と叡那とで用意してあげたんだから、ありがたく思いなさい?」
「う、うん、ありがと」
 お礼言ってしまっておくけど、正直どういうものなのかよく解んない。
「あと、貴女とともに行動をするかたへ…いえ、やめておきましょう。ただ、思う通りに行動して構わないと、お伝えして」
「あ、う、うん、解った」
 これって、閃那さんが未来からきてる存在ってことを叡那さんは完全に把握してる、ってことよね…そのうえで、彼女が何か大きな行動しても未来は変わらないっていうこと?
 その前に何を言いかけたのか、それにあたしの過去についての言葉も気になるし、何かあるのかしら…いや、そんなのは行ってみないことには解んない。
「じゃあ、ねころ姉さん、エリスさん、叡那さん…いってきます」

 本当は三人に見送られてそのまま出発、なんだけどその前にあたしはお社のまわりを包む森に入ってく。
 まだ残雪のあるそんな中へ入ってくのは、もちろんあの子との待ち合わせのため。
「あっ、ティナさーん!」
 二つの雪だるまの前に立っててこっちに手を振るのは閃那さん。
「もうきてたのね、待たせちゃった?」
「いいえ、全然…って!」
 彼女へ歩み寄ってくあたしだけど、その彼女はといえばなぜか固まっちゃった。
「何よ、どうしたの?」
「あ、いえ、えっと…ティナさん、その服装は…?」
 まだ驚いた様子なその子だけど…あぁ、そういうことか。
「うん、この服はあたしがあっちの時代にいたときに着てたやつ。はじめて会ったときにも着てたはずだけど…まぁ、今の時代の服とは全然違うし、やっぱり変よね」
「そんなことないです、よく似合ってます!」
「…へ? そ、そう?」
 彼女の力強い言葉にこっちが戸惑っちゃう。
「この前はティナさんの怪我とかのほうが目につきましたし、服も汚れてたからあんまり気にしなかったんですけど、こんな服だったんですね…まさに魔法少女ティナさん、って感じでとってもいいと思います」
「そ、そう? よく解んないけど…」
 魔法少女、ってこの前も言ってた気がする…そりゃ、一応あたしはそういう力を使えるけど。
「でも、どうしてその服装にしたんですか? 私は嬉しいですけど、目立っちゃいません?」
 何で閃那さんが嬉しいのかは解んないけど、その疑問はもっとも。
「あぁ、うん、大丈夫よ。今回は他の人に会うつもりはないし、それにこの格好のほうが力を使うのに調子出る気がするから」
「えっ、他の人に会わないって…それじゃ、どうやって世界を回るんです? 誰にも会わずにとか、無理だと思うんですけど…」
「…あれっ、話してなかったっけ?」
「はい、聞いてないです。ティナさんと一緒に行けるんですし、お金はちゃんと用意しときましたからそのあたりの心配はいらないですよ?」
 あぁ、いけないいけない、そのあたりのこと何にも説明してなかったっけ…この子も何も聞かずによくここまできたわね。
「お金はいらないわよ? 今回は自分の力で見て回るから…じゃ、そろそろ行こっか?」
 今からならもう説明するより実際にやってみたほうがはやいわよね…ってことで、あたしは力を使ってゆっくりと地面から身体を浮かす。
「え…えっ? ティ、ティナさん、もしかして…自分で空を飛んでいく、ってことですか?」
「うん、そういうこと。だから、閃那さんも行きましょ?」
「え、えーと…」
 あの子、ずいぶん困ったみたいな様子になっちゃった。
「何、どうしたの?」
「…ティナさん。その、私…飛べません」
「…は?」
「ですから、私…飛ぶことができないんです」
 つまりそういうことだそう…力で空を飛べるってことは彼女も知ってて、でも人には得手不得手ってものがあって、彼女の場合空を飛ぶ力を使うのが苦手で、現状全然ダメだそう。
「うぅ、ごめんなさい…」
「い、いや、貴女が謝ることじゃないわ。ちゃんと確認しなかったあたしのせい」
 事前に説明しなかったこともそうだし、彼女に力があるんだから飛べるでしょ、って何にも考えずに決めつけちゃってたものね…。
「うぅ、ティナさん、どうしましょう…?」
「どうするったって…」
 今更他の方法を考えるのもあれだし、彼女を置いてあたし一人で行けばそれが一番問題ない…元は一人で行くつもりだったんだし。
「私、ティナさんと一緒に行けないんですか…? とっても楽しみにしてたのに…」
 でも、今にも泣き出しそうなほどしゅんとしちゃってる彼女を見るととてもそんなことは言い出せないし、あたし自身…この子と一緒に行けるの、少し楽しみにしてたかもしれない。
 なら…こうしてみるか。
「…閃那さん、あたしの手を取って」
 少し空に浮いたまま、彼女へ右手を差し出す。
「えっ、ティナさん…?」
「いいから、さっさとしなさい」
「は、はい…!」
 少しびくってされちゃって、さらになぜか緊張した様子であたしの手を取る彼女だけど、その瞬間彼女の身体もゆっくりと浮かびはじめた。
 誰か他の人を一緒に飛ばすって昔アーニャにしたくらいだったんだけど、どうやら問題ないみたいね。
「えっと、ティナさん…?」
「…こうすれば、一緒に行けるでしょ? 問題ないわよね?」
「でもそんな、これじゃティナさんにご迷惑とかご負担とかかかりませんか…?」
「別に、このくらい全然大丈夫よ。まぁ、閃那さんが嫌だったりしたら、やめとくけど」
「そんな、嫌なわけありません、とっても嬉しいです…ありがとうございます、ティナさんっ。じゃあ、そうさせてもらいますねっ」
 本当に嬉しそうな声を上げる彼女、あたしの腕にしがみついてきた!
「ちょっ、何してんのよ!」
「だって、とっても嬉しくって…ティナさん」
 な、何なのよ、とってもかわいいとか、感じちゃったじゃない…。
 でも…そうね、こうやってしがみついててくれたほうが安全か。
「…閃那さん、しっかりつかまってなさいよね。振りほどかれたりしたら、大変なことになるんだから」
「はいっ、絶対離しませんっ」
 あたしのことまっすぐ見つめながら微笑んで、さらにぎゅってされた。
 あぁもうっ、やっぱりこの子の反応が…初対面時と印象全然違うんだけど、なぜだか少しどきどきしてくる。
 でも、ああ言ってるなら…
「解った、じゃあ…行くわよっ」
 上空を見上げたあたし…そこ目がけて、力を一気に解き放ったの。


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