結局、閃那さんを叡那さんたちに会わせたりすることはなく時は過ぎて。
 今日は受験の日以来になる、エリスさんとお揃いの制服…っぽい服を着て、その二人でお出かけ。
 向かう先もその日と同じ…今日は、受験の合格発表があるの。
「こんな日に限って雪が降るとか、ついてないわね。まさかついてないついでに…」
「…受験も落ちてる、とか? どうかしらね、あたしはこっちきて雪を見るのはじめてだし、ついてないとは感じてないんだけど」
 学校へ向かう途中そんな会話しちゃうみたいに、今日は雪が降ってて少し積もってもきてる。
 エリスさんの話だとこのあたりで雪が降り積もるのは比較的珍しいそう…どうもやっぱり、あたしがいた時代に較べて今の時代はかなりあったかくなってるみたいね。
 そうして雪を踏みしめつつたどり着いたのは、私立明翠女学園という学校。
 叡那さんたちも通ってるそこは、正門から敷地内へ足を踏み入れるとそこからはかなりの長さの並木道が伸びていたりと、どうもあたしのいた国のお城かそれ以上の広さがあるみたい。
 並木道をまっすぐ歩いた先、学校の中心部には講堂っていう建物があって、そこの入り口前に受験結果が掲示されてる。
 受験時に渡された番号と同じ数字が書かれてたら合格、なわけだけど…
「…あ、私とティナ、どっちも合格みたいよ」
 掲示板から目をそらして緊張して近づいてたのに、まだちょっと距離があって足も止めてないのに、隣を歩くエリスさんがそんな声上げてきた…。
「ちょっ、エリスさんっ? はやすぎるってば…もう見ちゃったの?」
「しょうがないじゃない、私もこんなあっさり解っちゃうなんて思ってなかったんだから」
 彼女の言葉にあたしも掲示板へ目をやり、そして足を止めるけど…あぁ、これは目にした瞬間から結果が解っちゃってもしょうがないか。
 だって、掲示板には三人分の数字しか書かれてなくって、そのうちの二つがあたしたちのものだったんだから。
「合格者って三人ってこと? 学校って、そんな小人数しか入れないものなのね…」
「そんなことないわよ。ここが例外ってだけで、普通は百人単位で受験してるわよ」
 この学校は小学校…初等部からあたしたちの受けた高等部までそのまま同じ学校で自動的に進学してく人がほとんどで、こうやって途中から入るって人はわずかなんだそう。
 でも、受験したとき部屋には十人以上はいた気がしたし、あたしはその中の三人には入れたのか…。
「そっか…一ヶ月くらいの勉強でここまでこれたなんて、ちょっと信じられないかも…」
 あの日々は大変だったけど、この結果は…まだ、ちょっと実感わかない。
「…ま、あんたはよくやったわよ」
「ううん、やっぱエリスさんが勉強教えてくれたからよ…その、ありがと」
「べ、別に…ほら、寒いからもう帰るわよ?」
 照れられちゃったけど、本当、エリスさんには感謝しなきゃ。
 でも、これで終わりじゃなくって、むしろはじまりなんだから、学校でもしっかり勉強しなきゃ。
 ただ、これでこれからのことが見えてきたし、そろそろしたいと思ってたあのことをしてもよさそうね。

「…ん? 貴女、何してるのよ?」
「見たとおり、雪だるま作ってたんですよ」
 森の中のいつもの場所…そこはあたしたちがはじめて出会った場所でもあったんだけど、そこへ行くと閃那さんが先にきてて、しかも積もった雪をあたしたちの身長とそう変わらない高さの、二つ積み重ねた大きな雪玉にしてたの。
「久しぶりの雪にテンション上がっちゃいました。これが私、こっちがティナさんです」
 その雪だるまっていうのが二つ作ってあって、彼女がそれぞれに目を向けつつ笑顔でそう言ってくる。
「あぁ、雪で作った人形みたいなものか、こういうのあるのね…でも、どうしてあたしまで作ってるのよ」
「だって、ティナさんと私を並べたかったですから」
 冷たさを感じさせる顔立ちなのに、そんなこと言って笑うさまはとってもかわいく感じられて、少しどきっとしちゃう。
「あれっ、ティナさん、少し顔が赤いですよ? もしかして、嬉しかったですか?」
「う、うっさい、何でもないわよっ」
 何か恥ずかしくなっちゃってぷいってしちゃう。
「あぁもう、やっぱりティナさんは…」
 そんなあたしを見た彼女はますます笑顔になっちゃったし、何なのよもう。
「えっと、貴女がきててよかったわ。ちょっと言っておきたかったことがあるの」
 調子狂わされちゃったけど、仕切り直し。
「わぁ、ティナさんから私に? 何です何です?」
「うん、明後日からしばらく会えないから。だから、ここにきても意味ないからね」
「え…えぇ〜っ、そんなぁ。どうしてですか?」
 うわ、ものすごく残念そうにされた…何でそんなにあたしに会いたそうにするのよ。
「こっちにもすることがあるのよ」
「すること? 何ですか?」
 まぁ、ここまで親しくなったんだし、この子には話していいか。
「うん、こっちの時代にきて、落ち着いてきたし時間もあるから、この目で今の世界を見てこようと思ってるの」
 そう、あたしがこっちの世界で生きていくって決めたときから、いつかはそれをしようと思ってた。
 で、受験の結果も出て、でも学校がはじまるまでにはまだしばらくある今がそのときだって考えて、すでにお昼ごはんのときに叡那さんたちには話してて許可も取ってある。
 あとは、ここでよく会ってる彼女に話して無駄足を踏まさせない様にしよう、ってわけ。
「そうなんですか…それ、誰かと一緒に行くんですか?」
「ううん、あたし一人よ」
 エリスさんは興味ありそうだったけど、でもやっぱりいいやってなっちゃったし、元々一人で行くつもりだしね。
「よかった、じゃあ私もご一緒させてもらえませんか?」
「…は? 閃那さん、が?」
 思いもよらない提案をされて戸惑っちゃう。
「はい、ダメ…です、か?」
 うるんだ目を向けられちゃったけど…どうしよ、こういうの予想してなかった。
「え〜と、ダメじゃないけど…」
「やった、じゃあ決まりですねっ」
「ま、待ちなさいってば、そんな簡単に決めないのっ。もうちょっとよく考えなさいよねっ?」
「えぇ〜、でもティナさんと一緒に世界を回れるんですよ? 何も迷うことなんてないです」
「いやいや、貴女の予定とか…」
「そんなの、他の予定なんてみんな空けちゃいます」
 う〜ん、これはどうも本気で言ってきてるみたいね…あたしはちょっと特殊な方法で世界を回ろうとしてて、そこはこの子なら大丈夫そうだけど…。
「何でそこまでしてあたしについてきたいのよ?」
「はい? ティナさんと一緒にいたいからですけど…あっ、それに、ティナさんってかなり昔からきたんですよね? 今の時代ってティナさんのいた時代と色々変わってるって思いますし、私のいた時代とはそこまで変わってないですから案内ができると思います」
 そういえば、彼女が未来からきたのは事故で、ってことだっけ…態度に深刻さは見られないけど、でもやっぱ不安とかあって、この世界でこうして知り合った、しかも境遇が似てるあたしに親近感を覚えてたりしてるのかも。
 それに、過去と現在との変化っていうのは彼女の言った通りで…
「…まぁ、いいわ。そこまで言うなら、好きにしたら?」
「わぁ、ありがとうございます。それじゃ、好きにさせてもらいますね」
 ちょっと冷たかったかも、って思った返事にもものすごく嬉しそうな反応されて、あんなに喜んでもらえるならまぁいいかな、って思えた。
 それに、あたし自身も、閃那さんと一緒にいるのは嫌じゃない…いや、こうして一緒にいるのは嬉しいかも、だし。


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