第四章

 ―あたしが今の時代へ飛ばされてきたとき、はじめて会った少女。
 あたしを消そうとし、でもたすけてくれた彼女は、あたしと逆の時間から今の時代へやってきた人だった。
 はじめて会ったときの印象は冷たい人、だったんだけど、実際は全然違って。
 でも、何かが引っかかるのよね…それが何なのかは解んないから、ひとまずは考えないでおくことにしたけれども。

「そういえばティナ、最近森の中で誰かと会ってるでしょ」
 すっかり四人での食事も普段の風景になったんだけど、夕食取ってるときにエリスさんがそんなこと言ってきた。
「へ? うん、まぁ、ちょっとね」
「ちょっとって、結構ただ者じゃない気配感じる気がするんだけど」
 あの子、一応気配を隠してるっぽいんだけど、やっぱエリスさんは鋭いわね…。
「ティナさん、こちらの世界でお友達ができたのでございますか? よろしゅうございました」
「友達、か…一応、そうなるのかしらね」
 思えば、こっちくる前からあたしには家族だけじゃなくって、友達も…そう呼べるのは、アーニャしかいなかった。
 あの子とは変な出会いかただったけど、友達か…うん、悪くないかも。
「ティナの友達、ねぇ…魔法力持ってるみたいだし、気になるわね。今度会わせなさいよ」
「へっ? う〜ん、それは…あの子、人見知りみたいで」
 どうも彼女、ここにいる三人に会いたくないみたいなのよね…あの態度だけ見てるとあたしの返しもあながち間違ってない気がする。
「なーんか怪しいわね。別に向こうが会いたくないっていうならこっちも気にしないけど、友達とかいって、実はこっそり付き合ったりしてるんじゃないの?」
「何よそれ、どういう意味?」
「どういうって、解んないの? 恋人なんじゃないの、って」
「…んなっ! こっ、恋人って、変なこと言わないでよ、んなわけないでしょっ?」
 いきなり何言い出すかと思えば…ごはん口にしてたら吹き出しちゃってるところじゃない。
「全く…食事は静かに取りなさい」
「うっ、ご、ごめんなさい、叡那」「えと、ごめん…」
 叡那さんに鋭い目を向けられちゃったけど、何であたしまで…。
 でも、そんなあたしたちをねころさんは幸せそうに微笑みながら見てて…何かいいわね、こういうの。

 受験が終わったっていってもあたしはまだまだこの世界のことを知らなくって、だから毎日勉強の時間は作ってる。
 あとはお社のお手伝いもする様になって、だいぶこっちの日常にもなじんできた気がする。
「…たぁっ! やぁっ!」
 で、お社のお手伝いを終えた後の午後のひとときは、森の中で剣の稽古。
 それは朝も叡那さんに稽古をつけてもらうかたちでやってるけど、昔から時間あるときは一人でやってたし、趣味みたいなものかしらね。
 別にお社の境内とかでやってもいいんだけど、それをあえてここでやってるのもそれなりの理由がある。
「わぁ、巫女装束で剣を振るティナさん、やっぱりかっこいいですね」
「って、現れるなりいきなり変なこと言わないでよ、もう」
 あたしのそばに一人の女の子がやってきたから、動きを止めて手に出してた光の剣も消す。
「それって魔法ですよね…魔法少女ティナさん、うん、かわいい」
「だから、意味解んないってば…」
 現れるなりこちらを戸惑わせるのは閃那さん。
 彼女があたしと会うならこの森の中がいい、なんて言ってきたからこうして今くらいの時間はここにいるってわけ。
 別に待っててあげてるってわけじゃないけど、まぁ意味解んないことは言ってくるけど悪い子じゃないし、あたしなんかに会いたいっていうなら会ってもいいかなって。
「ティナさんは毎日剣のお稽古をしたりして、えらいですねぇ」
「そんなことないってば、こんなの趣味みたいなものだし」
 彼女、何かこっちが恥ずかしくなる様なことよく言ってくるのよね。
「うーん、でもお稽古が趣味って、真面目というか、ちょっとさみしい気もします。もっと他に趣味を見つけてみてはどうですか?」
「そんなこといきなり言われてもね…例えば?」
「私のお勧めは何ていってもアニメやゲームとかですね。声優さんに興味持ってくれたらなおいいです」
「…は? 何よそれ、はじめて聞くんだけど」
 閃那さんも今の時代のこと色々教えてくれたりするんだけど、やっぱりまだ解んないことが多い。
「…あ、そういえばお社のお家にはテレビとかないんでしたっけ。じゃあこれはまたいずれ、ですね」
 テレビは聞いたことある、勉強してたときに出てきたものね…実際に見たことはなくって、どういうものなのかはいまいち想像できてないけど、今の彼女の言葉でそれより気になることが強くなった。
「…ねぇ、貴女って叡那さんやねころさん、エリスさんの関係者?」
「…はひっ? なっ、なな何です突然、ど、どどどうして?」
 あたしの問いかけにものすごく慌てられちゃったけど、これはちょっと前から気になってたこと。
「いや、貴女ってお社のこととかずいぶん知ってるみたいだし」
「そ、それは、え〜と…」
「それに、あの三人のこと随分避けてるでしょ。エリスさんは貴女の気配に気づいてるし、叡那さんも多分気付いてると思うから、問題ないなら会ってもらいたいのに」
 この子、あたしを引き渡したときにねころさんには会ってるのよね…でも、そのときもなるべく顔を合わせたりしない様にしてたみたいだし、何かあるのは間違いない。
「いえ、それは、その…どうして、私をその皆さんに会わせたいんです? やっぱり、別の時間からきた存在だからってことでですか?」
「う〜ん、それもなくはないけど、何て言ったらいいかしらね…その三人、あたしにとっては家族みたいなものだから。それで、閃那さんのこと紹介しときたいな、って」
「か、家族に私のことを紹介したいっ? そ、そそそそれって…!」
 何かものすごく顔を赤くされちゃったんだけど。
「え、え〜と、その…この世界でできた、はじめての友達、ってことで…」
 うぅ、こうやって面と向かってこういうこと言うの、恥ずかしいわね…。
「あぁ、友達…友達、ですか…」
 なのに、あの子のほうはといえば、何かがっくりしてる?
「な、何よ、その反応。あ…もしかして、友達とか勝手に言って、気を悪くした? なら、ごめん…あたしが、勝手にそう思ってるだけだから」
 そうよ、だから別に悲しいとか、そんなわけないんだから。
「わわっ、そ、そんなわけないです、友達って言ってもらえて嬉しかったです。ただ、私としては、ティナさんとは…ごにょごにょ…」
 最後のほうは何言ってるのかよく聞こえなかった。
「何よ、あたしに気を遣って無理しなくってもいいわよ?」
「無理なんてしてませんっ。私、もっとティナさんと仲良くなりたいって思ってますからっ」
「そ、そっか…う、うん」
 まっすぐこっちを見つめる彼女の強い口調に、あたしは圧倒されちゃってうなずくしかなかった。
 何なのよ、もう、ちょっとどきどきしちゃったじゃない…。
 しかも叡那さんたちの関係者なのかも聞けなかったし…でも、会ったりすると未来に影響しかねないから避けてる、って考えると、つまりそういうことになりそうなんだけど…?


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