「こんなの用意してくれてたんだ…えと、ありがと」
 翌日、ついに受験をしにいくことになったわけだけど、朝食後に渡され着替えた服を見ながら、それを用意してくれた雪乃さんへお礼を言う。
「いえ、よくお似合いでよろしゅうございました」「エリスさんとティナさんとで、同じ学校からきたことにすればよいわ」
 あたし、それに冴草さんが着たのはお揃いの、でも九条さんたちがいつも着てるのとは違う制服…受験は中学校の制服を着てくのが普通で、でもあたしたちにはそれがなかったから、目立たない様にって雪乃さんが作ってくれてたの。
「それとティナさん、貴女には苗字がなかったから、受験の手続きをするのを機につけさせていただいた。雪乃ティナ、と名乗るとよいわ」
 そっか、今のこの世界の人にはみんな苗字があるっていうし、それがないと不自然、不自由だものね…って?
「雪乃、って…雪乃さんと一緒じゃない。何で…?」
 まさか耳が同じだから、とかいわないわよね?
「あの、ねころがそうしてくださいまし、ってお願いをしたのでございます。その、お耳が似ておりますし、ねころの妹ということに、なんて…ご、ご相談もなしにごめんなさいまし。い、嫌でございましたか…?」
「い、嫌じゃないっていうか、むしろ雪乃さんが嫌じゃないの? あたしみたいなのが妹だとか…」
 耳も理由の一つだったみたいだけど、それ以上に思いもよらないこと言われて戸惑っちゃう。
「そんな、ティナさんはもう大切な家族の一員と思っておりますから。ですから、叡那もお許しくださったんです」「ええ、ここを貴女の実家だと思ってくれて構わない。もちろん、貴女が嫌ならば、苗字の変更も不可能ではないけれども」
 あれっ、雪乃さん、いつの間にか九条さんのこと「さま」じゃなくって呼び捨てにしてるんだけど、そんなことより…
「え、えと、あたしなんかに、そんな…あ、ありがと…。本当、あたしなんかにはもったいないくらいだけど、えっと…じゃあ、あたし、『雪乃ティナ』って名乗らせてもらうことに、するから」
 いけない、少し涙が出そうになっちゃった…家族とか、あの日以来あたしにはないもの、って考えてたし。
「ふーん、よかったじゃない、ティナ」
「あら、エリスさんも私たちの家族よ」「はい、もちろんでございます」
「…へっ? そ、そそそうなんだ、べ、別にいいけど」
 あたしをからかおうとした冴草さんだけど、かえって赤くなることになっちゃった。
 でも、あたし…この世界へ飛ばされて、そしてこの三人に会えてよかったって、本当に思う。
 まさか、家族って呼べるものができるなんて…アーニャはこうなるって解っててここに飛ばしたわけじゃないと思うけど、それでも本当に、ありがと。
「えと、じゃあ…叡那さん、ねころさん、いってきます。エリスさん、絶対合格するわよ」
 三人のこと、名前で呼んでいいわよね…ねころさんのことを「姉さん」とか呼ぶのは、さすがに急すぎたしそれに恥ずかしいから今はまだちょっと無理だけれども。


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