朝ごはんは雪乃さんが作ってくれて、起きてきた冴草さんも入れた四人で取る。
 食後の片づけはあたしも手伝うけど、その後雪乃さん、それに九条さんは今まで着てた服とは全然違った、しかも完全にお揃いな、どっかで見た様な気もする、でも思い出せない服に着替えてきたの。
「では、今日から学校が再開されるから、いってくるわ」「今日は始業式でございますので、お昼には戻ってまいります」
「ん、いってらっしゃい」
 二人が出ていくのを冴草さんは普通に見送ってるけど、どういうこと?
「あぁ、まだこの世界、この国の学校について特に言ってなかった? しょうがないから教えてあげる」
 今回のことに限らず、この世界についての知識は冴草さんに教えてもらうことが一番多い…まぁ、九条さんや雪乃さんに較べて、彼女は自由にしてる時間が多いからなんだけど、ありがたいのは確か。
 で、二人が行った場所は学校っていう同年代の人たちが集まって勉強を受ける場所で、今の時代は教育がちゃんと行き渡ってるみたい。
 九条さんがそういうところに行く必要、あるとはちょっと思えないんだけど…
「じゃあ、あたしも学校に行ったほうがよさそう?」
「あんたの場合、この世界の文字を覚えないとどうにもなんないわね」
「…そ、そうよね」
 でも、それをしっかり覚えられれば…この世界で生きてくために、それも真剣に考えなきゃ。
 そんなあたしと冴草さんは十五歳と同い年だったみたいで、この年齢の人は数ヶ月後から九条さんたちも通ってる高校ってのに通えるものの、その前に受験ってものをしてそれに合格しないといけないらしく、しかもそれが行われるのはおよそ一ヶ月後だというの。
「私はしばらくこの世界にいることにしたから、叡那やねころさんが通ってる学校を受けるつもりよ」
 冴草さんはそう言うけど、あたしはどうしたらいいのかな…。
 本音を言えば、あたしも…なら、はじめから諦めるっていうのは、おかしいわよね。
「えっ、あと一ヶ月で文字を全部覚えたうえで受験勉強もして受けてみる、って? あんたそれ、本気なの?」
「うん、自分でも無茶言ってるなって解ってるけど、それでもこの世界で生きてくためにも…やってみたいの」
「ふーん…どうやら本気で言ってるみたいね」
 じぃっとこちらを見つめる彼女にうなずく。
「じゃあ、今からどうすればいいか、解るわよね?
「そ、そうね、はやく勉強はじめなきゃ」
 そこまで焦らず文字とか覚えていけばいいかな、って今の今まで考えてたんだけど、こうなっちゃったら話は別。
「で、あんた、叡那たちと同じ学校行こうとしてるの?」
 さっそく部屋へ戻ろうとしたあたしにそう声がかけられる。
 受験できる学校はたくさんあって、その中でも九条さんたちが通ってる学校ってのはかなり難易度が高いらしい。
 正直、どこへ通えばいいかなんて解んないわけだけど、あの二人が通ってるっていうのは安心感あるし、できるならそうしたいかも。
「しょうがないわね、じゃあ私が勉強見てあげるわよ。一応同じとこ受けるわけだし、時間もあるしね」
「…へ? そんな、いいの?」
「あによ、別にいいから言ったのよ。ただ、そうするって決めたからには、あんたには受験まで勉強以外の時間はないと思いなさい?」
 力が完全に戻ったらこの世界のこと見て回ろうって思ってたんだけど、しょうがないわね…それは後でもできるし。

「そう…ティナさん、受験をすることにしたのね」「あと一ヶ月ほどしかございませんけれど、大丈夫でございましょうか…」
 お昼、その学校から帰ってきた二人に受験のことを話した…ちなみにお揃いの服はその学校へ通う人が着ることになってる指定の制服だとのこと。
「私が勉強を見て差し上げましょうか?」
「あぁ、いいのいいの、それは私が見てあげるから、叡那とねころさんは気にしないで」
「エリスさんが? そう…貴女がそう言うならば、何も心配はいらないわね」「でも、もしも何かございましたら、どうぞ遠慮なくおっしゃってくださいましね?」
 そういうわけで、お昼ごはんを食べた後からあたしの部屋で冴草さんと二人で勉強することになった。
 あたしの部屋あった食事で使ってるものよりも一回り小さいテーブルを使うことにして、あたしと冴草さんがそれを挟んで向かい合って座る。
 床に座るのはまだちょっと慣れないけど、そこは我慢。
「言っとくけど、ねころさんがああ言ったからって二人に甘えたりしちゃダメだから、そこは極力遠慮しなさいよね?」
 午前中にテーブルの上に用意しておいた本やノートを開こうとしたところで冴草さんがそんなこと言ってきた。
「まぁ、そうよね…お二人にはかなりお世話になってるし、これ以上迷惑をかけるってのはよくないか」
「解ってるならいいのよ、それになるべく二人きりの時間を多く作ってあげたいし」
「…へ? どうして?」
 ちょっとよく解んなくって聞き返しちゃう。
「あによ、解んないの? そりゃ…ほら、あれよ。叡那とねころさんは、その、好き合ってる関係だから」
「あぁ、恋人ってことね、そうだったんだ…って、んなっ? 何それ、本当っ?」
 少し顔を赤くして言いづらそうにしてた彼女の言葉を聞き流そうとして…できなかった。
「あ、あによ、驚きすぎじゃない? べ、別にあの二人なら、お似合いだし、いいじゃない…」
「い、いや、でも、二人とも女性だし…!」
「あによ、ティナってそういうの気にするの? 私も、それにあの二人も、好きならそういうの関係ないって思ってるんだけど」
「気にするっていうか、そんなの今まで考えたこともなかったし…」
 本当、恋愛とか今まで考えもしなかった。
「ふーん、まぁティナも恋の一つでもしたら解るかもね」
「そんなものなのかしらね…じゃあ、そんなこと言う冴草さんは恋したことあるの?」
「ぎくっ、わ、私は…あぁっ、もうっ、とにかくだから叡那たちには気を遣いなさいってこと! 解った!?」
 完全に誤魔化されちゃったけど、彼女の勢いを前にうなずくしかなかった。
 でも、あたしが恋、か…ちょっと想像できないし、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


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