迎えた体育祭当日は快晴、運動日和って言っていいのかどうか…やっぱ暑いのよね。
 そうした暑さ対策ってことで、待機してる生徒、それに一応お祭りみたいなものっていうことで保護者、少なくない生徒の親などが見学にきてたりするんだけど、そういう人たちは運動場沿いに張られた大きめのテントの下にいたり、運動場の見える校舎、教室にいてもいいってことになってる。
 あたしたちの出番はまだ先っていうこともあり、開会式で運動場に出た後は教室に戻ってる。
「ずっと体操着姿で教室にいるっていうのも意外と新鮮でいいかもしれませんねぇ」
 窓際なあたしの席、その前の席を借りてそこに座ってるあの子が外じゃなくってこっち見ながらそんなこと言ってくる。
「まぁ、制服よりはこの服のほうが動きやすくて楽かもね」
「そういうことじゃないんですけど、まぁいいですか」
 これまでの彼女の諸々の言動や行動から言いたいことは解りそうな気もするんだけど、深くは考えないでおこうかしらね。
「体操着姿のティナさんが色々な競技に出てる姿を見たかった気もしなくもないですけど…」
 そんなこと言いながら外へ目をやる彼女、今はちょうど短距離走をしてるところで、アナウンスなども放送を通じて聴こえてくる。
他の競技か…別に出てもよかったんだけど、本気出せないからあんま乗り気でもなくって、それに閃那と一緒にペアで出るってなったら他のみんなも気を遣ってそれだけに絞ってくれたのよね。
 だからほとんどの時間をこうしてのんびりしてるわけだけど、まぁいいわよね。

 そうこうしてるうちにあたしたちの出場する二人三脚の時間になるから、二人で一緒に運動場へ向かう。
「やっぱ、ちょっと…ううん、かなり暑いわね」
 思わず呟いちゃうけど、ただ真夏と較べればましになってるのは確かで、それにお社ほどじゃないにしてもこの学校もかなり森に包まれた場所だから多少涼しくなってたりするという。
「まぁすぐ終わりますから大丈夫ですよ」
「ま、そうね」
 ちょっと前なら魔法使えばいいとか言ってくることもあった彼女だけど、最近はさすがにそういうことは言わなくなった。
 だいたいの競技は一年生から順に学年別で行われる様になっていて、二人三脚もそうなってるからあたしたちがはじめに走ることになる。
 練習のときとは違って他のクラスの人たちと一緒に走ることになり、さらに場所も広い運動場、そして他の少なくない人たちの見てる前でってなるけど、そう気にすることはないわね。
 そんなこと思いながら閃那と一緒にスタート地点に向かうんだけど、テントの下にいる生徒たちから歓声が上がって、それに校舎からもかなりの生徒が見物してるのが解る。
「あぅ、やっぱりティナさんが出るっていうことで注目されてるみたいですね…緊張します〜」
「何言ってるのよ、それは閃那が出るから、の間違いでしょ」
 確かに他の競技にはなかった歓声が上がってて、しかも…閃那やあたしの名前を言ってる声まで聞こえてくる?
 う〜ん、普段のみんなの態度からしても、あたしたち二人に注目してきてるってわけか…。
「別に気にすることなんてないから、練習の時通りにやりましょ」
「は、はひっ、そうですね…!」
 ちょっと緊張気味になっちゃったあの子を連れて、スタート地点へ…しゃがみ込んで足を紐で縛ることになるけど、そこでも彼女はまだちょっと落ち着かない様子だった。
「全く…ほら、周りのことなんかより、あたしとのことに集中しなさいよね」
「ティナ…はいっ、そうですよねっ。ティナさんに集中しますっ」
「そ、そうね」
 ちょっと恥ずかしい言いかたしちゃった気がするけど、でもそれで閃那の気持ちが切り替わったみたいだからよしとしよう。
 準備もできたし、あとは練習通りにやるだけのことね。

 閃那が緊張を脱してくれたおかげもあり、二人三脚の本番は特に問題なく終えることができて。
「えへへっ、私とティナさんが一位です、よかったですねっ」
「ええ、そうね」
 結果も上々、そこまで目立つ様な走りなどでもなく一番いい成績を取れたんだから申し分ないわよね。
「やっぱり、私とティナの絆が一番深いからこの結果になったんです、大好きですっ」
「んなっ、ちょっ、落ち着きなさいっ」
 感極まったかの様子であの子が抱きついてきちゃって、周囲から大歓声が上がったりしてきちゃう。
「せ、閃那ってばやめなさいよね、他のみんなの前だし、それにあたしも暑くって汗かいてるし…!」
「いやです、周りのことなんかよりティナさんに集中しろって言ったのはティナさんなんですし、それにティナさんの汗なんですからいいにおいですよっ」
 そんなこと言って離れるどころかますますぎゅっと抱きついてきちゃうあの子、ど、どうしたものかしらね…。
「ティナさんに閃那さん、お疲れさま」「お、お疲れさまでございました」
 そんなあたしたちにかかってくる涼しげな声とかわいらしい声…って。
「あっ、叡那さん、ねころ姉さん、ありがとうございます」
「は、はひっ、そ、そそその…!」
 お二人の登場にさすがの閃那も慌ててあたしから離れてお二人へ頭を下げる。
「仲がよくて何よりね」「あ、あの、では、失礼いたします」
 どうやらお二人は三年生の二人三脚に出られる様子で、そうしてお二人がスタート地点へ向かうとあたしたちのとき以上かもしれないほどの歓声が上がるのだった。
「はわ〜、やっぱり叡那ま…いえ、姉さまとねころさんはすごいですねぇ」
 感心した様子でそれを見る閃那も落ち着いてくれた様子でよかった、かしらね。


    (第4章・完)

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