第四章

 ―一応季節は秋になってるらしいんだけど、とてもそうとは思えない猛烈な暑さの日々。
 話によると近年は気温が上昇してきてるっていうけど、あたしの場合それ以上に気温の上昇を感じてる。
 今の時代の歴史になってたんだけど、あたしが元いた時代は地球全体の歴史の中でもかなり寒冷化が激しい時期だったみたいで、そんなところからこの時代に飛ばされたならなおさら暑さを厳しく感じてもしょうがないわよね。

「今日は来月はじめにある体育祭の出場者について決めたいと思います」
 ――二学期がはじまってしばらくがたったある日、ホームルームの時間が長く取られることになったかと思ったら司会進行役で黒板前に立ってる委員長がそう発言した。
「学園祭でしたら気持ちも高まりますのに、まだ先なんですよね…はぁ」
 で、隣の席に座ってる閃那はそんなこと言ってため息ついちゃってた。
「体育祭なんて面白いところ全然ないですし…はぁ〜」
「…ちょっと、さっきから随分やる気ないみたいだけど、どうしたのよ?」
 そんな彼女の様子が気になったから、少しだけ身を寄せて小声で声をかけてみた。
 ちなみに、何回か席替えがあったりするんだけど、最近は毎回あたしたちは一番後ろかつ隣り合った席になってて、今回はあたしが窓際でその右に閃那の席…完全に気を遣われてるみたいだけど、こっちが頼んでやってもらってるわけじゃないしよしとしておく。
「まずは種目を黒板に書き上げていきますので、皆さん立候補したいものがあるか考えておいてください」
 それに、委員長がそう言って黒板に色々書きはじめて、その間他のみんなも周囲の人と会話をはじめたりしてるし、あたしと閃那が話すのも特に問題はなさそう。
「だってティナさん、体育祭ですよ? やる気なくって当たり前じゃないですか」
「いや、そんなこと言われたって…体育祭って何なのよ。名前のまま受け取ると体育のお祭りってことになるけど、よく解んないし」
 体育は解るわよ、運動する授業なわけだけど、それと祭りが繋がらない。
「その名前の通りですよ、色んな運動を学園の生徒全員でする大会です。といっても人数もありますし高等部は高等部単独でやるんですけどね」
「ふぅん、別にお祭りって感じじゃないのね」
「全然違いますよ…はぁ」
「で、閃那はそれの何が気に入らないのよ」
 あんなにため息つかれちゃったりして、やっぱ気になる。
「そんなの、丸一日運動に費やすとか憂鬱に決まってます…あぁいえ、一人一人の出場項目は限られてますから楽かもしれないんですけど、とにかくあの雰囲気が苦手なんですよね」
「ふぅん…」
 閃那はあんな大きな剣を使ったりと別に運動苦手ってわけじゃなくむしろ身体能力抜群なんだけど、それと運動が好きかどうかってのは別の話になるらしい。
「ティナさんだって、全然実力出せない体育なんてつまらないだけですよね? いえ、ティナさんが大活躍するところを見てみたい気もするんですけど、そうするとあとが面倒になりますし…うぅ〜、そのあたりの加減はティナさんにお任せしますっ」
 …って、そうだった、運動中心のものってなるとあたしも力を抑えないといけないんだっけ。
「…そうね、あたしもいつもの体育と同じ感じで済ませるわ」
 魔法力を抜きにしてもあたしの身体能力は今の世界の普通とはかけ離れてて、それがあたしの実力だとはいえ変に目立ちたくないから体育の授業とかの際は適当に力を抑えて誤魔化してる。
 それを学校全体での大会でもしないといけないってなると、閃那ほどじゃないけどちょっと憂鬱か、面倒に思えちゃうかも。
「開催日もまだまだ暑い日の中でしょうし、やっぱり憂鬱です。こんな気候のためか体育祭を別の時期にした学校も結構あるみたいなんですけどね…」
 そうよね、暑さの問題もあるか…まだあと一ヶ月以上は暑い日が続きそうっていうし、水泳ならともかく他の運動を外でするっていうのはいいことじゃないわね。
「なら、どうしたものかしらね…何にも出ないってわけにもいかないんでしょ?」
「それはそうです、最低でも一種目は出ないといけません。それをどうしようかなってなると…う〜ん、難しい問題です」
 そうして考え込む彼女だけど、あたしもどうしようか考えないといけなくって黒板に書き出された種目に目をやる。
 いくつかあたしにはよく解んない種目もあるけど、だいたいは走ったりとかそういうのよね…別に少し走るくらいで暑さにやられるほどじゃないし、そういうので済ませようかしらね。
 でも、やっぱ本気は出せないし、かといってそんなやる気がないっていっていい人が積極的に枠を埋めるのもね…最後まであまったところに入ればいいかもしれない。
「…あっ、そうです、あれがありましたっ! ティナさん、あれを一緒にしましょう!」
 色々考えてたら、突然あの子が何かを思いついた様子で声を上げてきた。
「な、何よ突然、それにあれって何なのよ」
「それはですね…私とティナさん、二人で一緒に出られる競技です。まぁ、私に任せておいてください」
「あたしと閃那の二人で? ふぅん…そういうことなら、任せてみるわ」
「はい、任せてくださいっ」
 あそこまで胸を張って言ってきてるんだし、変なものじゃないんでしょう。

 それから程なくして、各種目の立候補者を募ることになって。
「はいっ! 私とティナさんは二人三脚に出場します!」
 真っ先に閃那がそう声を上げるからそれがあたしたちの出場競技になったの。
「閃那さまとティナさまの二人三脚…素敵ですわ」「ティナさまにはぜひ徒競走などに出ていただきたかったですけれど、これは閃那さまとの二人三脚に集中していただかなくてはいけませんわね」
 他のみんなもそんなこと言ってきたりして、あたしたち二人の出場競技はそれだけでよくなったの。
 あっさり出場競技が一つだけに決まって、それはよかったんだけども。
「で、二人三脚って何なのよ?」
 それがあたしの知らない競技で、しかも体育祭を嫌がってた閃那が妙に乗り気になってたのも気になって、放課後、アルバイト先へ向かうあの子ついて行きながらそう訊ねてみた。
「あっ、ティナさんは知らなかったんですね。二人三脚っていうのは、競技する二人の片方ずつの足をひもで結んで一緒に走るものなんですよ」
 で、そういうものらしく…二人が密着した状態で、息を合わせて走るものってことみたい。
「ふぅん…ま、あんたが妙に積極的になったのか、解った気がするわ」
 あたしとしても、力を抑えて何かに出場するより、あの子と一緒に出たほうがまだ色々といいし異論はない。
「えへへっ、ティナさんと一緒に二人三脚できるんでしたら、今までずっと憂鬱で嫌いでした体育祭もとっても楽しみになってきました」
 あの子も随分嬉しそうにしてるし、本当によかった。
 にしても、閃那ってやっぱり元いた時代での学校にいい思い出がなさそうなのよね…集団行動の中で浮いた存在で気の許せる人がいなかったとか、そういうことなのよね。
 でも、今ここにはあたしがこうしてそばにいるから、そんな思いはさせない様にしないとね。


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