第三章

 ―島から帰ってくると、夏休みももう最終日。
「久しぶり…って言って早々に二人は学生寮に帰るのね。ま、色々楽しんだみたいで何よりね」
 里帰りから帰ってきたエリスさんにそう言われた通り、あたしと閃那はまた学生寮での生活へ戻ることになって。
「えーん、ティナさん、お休みが終わっちゃいましたー! ずっとお休みが続けばいいのに…えぐえぐ、慰めてくださいー」
 閃那は夏休みの終わりを大げさに悲しむんだけど、あたしは…学校があっても休みでも、どっちでもいいかなって思うのだった。

「うーん、久しぶりな制服姿なティナさんも、やっぱりいいですねぇ」
 ―翌朝、久しぶりな学校へ行く準備をしたわけだけど、あの子はあたしを見て目を輝かせちゃったりして。
「全く、大げさなんだから…にしても、昨日あんなに休みが終わるのを嘆いてた割には元気ね」
 もちろんそのほうがいいに決まってるんだけど、もっと落ち込んだりしてるんじゃないかって思ってたからちょっと意外。
「もう終わったことをいつまでも嘆いていてもしょうがないですから」
 ふぅん、前向きなこと言うのね…そういうの、いいことだと思う。
「それに、学校もティナさんと一緒なら、勉強以外とっても楽しくって幸せですから」
「そ、そっか、そりゃよかった…いや、よくないか。勉強もしっかりしなさいよね」 「えぇーっ」
「そんな声あげない、もう」
 ちょっと呆れちゃうけど、でも…それ以上にかわいいとか思っちゃうとか。
「えへへ、でも二学期は勉強以外の大きなイベントがありますからより楽しみです」
「ん、そうなの?」
「はい、体育祭…は実力を隠さなきゃいけないティナさんにはつらいかもですけど、学園祭がありますから。アニメとかの日常ものだと恒例のイベントですけど、ティナさんと一緒となると、自分自身のも楽しみになってきます…しかも今年のは特にで、こんな年にこの学校にいられるなんて素敵すぎますっ」
 何だろ、話は全然見えないけどものすごく目を輝かされちゃった。
「は、はぁ、よく解んないんだけど、今年は何かあるの?」
「そうなんですっ、今年の学園祭はアサミーナとかなさまがライブすることになってるんです。それを生で見ることができるなんて…あぁ、やっぱり今から楽しみですっ」
 あぁ、なるほど、彼女が好きだっていう声優に関することか。
「で、それっていつあるのよ?」
「はい、えーと…十月の半ばくらいだったはずです」
「…何それ、まだ先のことじゃない。今からそこまで楽しみにしてるってのも気が早すぎる話だし、さっさと学校行くわよ」
 昨日までの夏休みと同じだけの時間を挟んだ先のこととか、ちょっとね…。
「あ、ティナさんってばもう…はぁい」
 とはいえ、毎日彼女と一緒に過ごしてると、そのくらいの時間はあっという間に感じそうではあるわね。

「はぁ、やっぱまだまだ全然暑いわね。こんなんなら、もう一ヶ月くらい休みにしといたほうがいいんじゃない?」
 二人で学生寮から外へ出たんだけど、校舎へ向かう道すがら思わずそんな言葉が出ちゃう。
「ほら、やっぱりティナさんももっとお休みが続けばいいって思ってるんじゃないですか」
「いや、あたしは勉強したくないとかそんなんじゃなくって、ただこの暑さの中ってのが…いや、もう言ってもしょうがないことだけれども」
 夏休みってのは暑い時期に無理しない様に、って意味があるみたいで、今日からの九月は八月よりは暑くないから休みも終わりってことっぽいんだけど…暑さ、変わんないわよね、これ。
「あぁ、そういうことですか…でも、大丈夫ですよっ」
 この暑さの中数ヶ月過ごしたけど全然慣れるとかないっていうのに、あの子はなぜか自信たっぷりにそう言い放つ。
「…は? 大丈夫って、何がよ」
「はい、暑くて汗かいちゃっても、ティナさんの汗はいいにおいですから全然気にしなくってもいいってことです、むしろどんどん汗かいちゃってください」
「んなっ、ちょっ…は、離れなさいっ」
 何言い出すかと思ったらとんでもないこと言われたうえ顔を近づけにおいをかごうとしてくるものだから、慌てて引きはがす。
「もう、ティナさんったら、本当のことなのに」
「う、うっさい、んなわけないでしょ…それに、まわりの人たちに見られちゃうから、変なことしないでよね」
 あたしたちは高等部校舎へのびる並木道を歩いてて、もちろん登校する他の生徒の姿もある。
「ティナさんは恥ずかしがり屋さんですし、しょうがないですね。二人きりのときは、あんなことやこんなこともしてますのに」
「んなっ、う、うっさい、黙りなさいっ」
 他の人たちとはちょっと距離あるから聞かれてないとは思うんだけど、にしたって…!
「慌てるティナさんもかわいいです」
 も、もう、わざとああいうこと言ってあたしの反応見て楽しんでるとか、そんなんじゃないでしょうね…!


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