第3.6章
―今日も無事に学校が終わって。
「…ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。今日もおいしかったです、ティナさん」
今日は学生寮の自室であの子と二人で夕食…お社でみんなと食べる日も多いけど、先のこと考えるとたまには、ね。
「そんなことないでしょ…ねころ姉さんのに較べたら全然」
「それは較べる対象が間違ってます、ねころさん以上にお料理上手な人なんていないかもってくらいなんですから」
「まぁ、それはそうかもしれないけど…」
こういうとき、料理はあたしがすることになってる。
ちょっとは慣れてきたとはいえ、まだまだ…っていっても、彼女に作らせるよりはましっていうのも事実か。
「じゃ、片付けるわね」
「もう、それは私がします。私だって、ティナさんのためにできることはしたいんですから」
彼女は料理が全然できないのを気にしてるみたいだけど、そこは二人でいるんだし、旨く役割分担していけばいいわよね。
「…ん、ありがと」
「はいっ…えへへっ」
だからあたしはうなずいて、それに彼女は笑顔で応じてくれた…っていっても、あたしが彼女のそばにいたいって気持ちもあって、結局一緒に片づけるんだけどね。
夜のひととき、閃那は彼女の趣味…本を読んだりゲームをしたりして過ごす。
あたしもそれに付き合ってあげることもあるけど、今日はふと外の空気に触れたくなって、彼女へ一声かけてから外へ出た。
九月になってまだお昼はかなり暑いとはいえ、夜になるとちょっとは涼しさを感じるくらいにはなってきてる。
冷房の効いた部屋ってのも確かに快適だけども、外の空気ってのはやっぱり違うものなのよね。
「…静かね」
学生寮のまわりはきれいに整備された林みたいになってて、学校の敷地がとっても広いことも相まって、小さな虫の音くらいしか耳に届かない。
お社といい、こういう空間は落ち着くけど…。
「…昔も、こうだったか」
星空を見上げながら、ふとそんなことをつぶやく。
思い出すのは、一人で過ごしてきた何年もの日々。
あの頃は、それが永遠に続くかと思ってた…そんな一人きりでの静かな日々に、何を思ってたかしらね…。
少なくても、今みたいな日がくるなんてことは、夢にも思ってなかった。
「…ティ〜ナさんっ。こんなとこで、何やってるんですか?」
いつの間にか、あの子が隣に歩み寄ってきてた。
「…よくあたしのいる場所が解ったわね」
「大好きなティナさんのいるところなんて、私にかかったらすぐ解ります」
「…そっか」
こんなにもあたしなんかのことを想ってっくれる人がいるなんて、今でも夢みたいに思えてしまう。
「…現実が、夢よりも夢みたいになるなんてこと、あるのね」
「ふぇ? どういうことです?」
「…閃那の存在が、あたしにとって夢みたいってこと」
「それを言うなら、ティナさんがこうしていてくれることこそ、私にとって夢みたいです…けど」
彼女はそう言うと、あたしの前に立って。
「これはけっして夢なんかじゃないです。夢なら覚めちゃいますけど、そうじゃないですから…私とティナは、これからもずっと一緒ですっ」
そうしてあたしに抱きついてきちゃう。
「夢で見るよりも、もっとティナのこと、幸せにしてあげますから…」
「…ん、あたしも閃那のこと、幸せにするわ」
それを誓い合うかの様に、あたしと彼女は星空の下、口づけを交わしたの。
-fin-
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