第3.5章

 ―一年の中にある特別な日。
 あたしはそういう概念が今までなかったんだけど、今の世界だと定められた祝日っていうのがあるみたいで。
 そして、そういう多くの人にとっての特別な日じゃなくって、個人の単位で…ってのもあるみたいね。

「はぅ、疲れました…ティナさん、癒してください〜」
 ―一日を終え、学生寮の自室へ戻ってきたんだけど、一緒にいた閃那がそんなこと言いながらあたしに抱きついてきちゃう。
「んなっ、ちょっ、帰ってくるなりいきなり何するのよ…!」
「いいじゃないですか、ここは二人だけの世界なんですし…ティナさんの大きなお胸、やっぱり気持ちいいです〜」
 彼女、そんなこと言いながらあたしの胸に顔をうずめてきたりして、そんなことされたらこっちが変な気持ちになっちゃうじゃない。
「も、もうっ、やめなさいってば…! 第一、疲れたって…普通に授業受けただけでしょ?」
 このままぎゅってしたくなる衝動を抑えて、何とか彼女を引きはがす。
「ぶぅ、その授業が疲れるんじゃないですか…」
 無理に引きはがされたこともあってあの子は不満げ。
「いや、特に疲れる様な内容はなかった気がするんだけど…放課後のアルバイトで疲れたっていうんなら、まだ解んなくもないけど」
「もうっ、ティナさんは真面目だから何にも感じないのかもですけど、一日授業を受け続けるのって疲れるものなんですっ」
 力説されちゃったけど、そんな今日は二学期がはじまってからはじめの午後まで授業が普通にあった日だったってわけ。
「はぁ…はやく冬休みにならないものですかねぇ」
 で、今度はため息交じりにそんなこと言ってくる。
「何よ、二学期は学園祭ってのとかがあるから楽しみ、って言ってたじゃない」
「それはそうなんですけど、冬休みにはクリスマスとかありますし…はっ、ティナさんとはじめて一緒に過ごすクリスマスですね、ますます楽しみになってきました」
「何よ、それは…」
 ものすごくうきうきされちゃったけど、クリスマスって何…いや、前にした話で少し出てきたか。
「…え〜と、閃那、それに叡那さんの誕生日なんだっけ?」
「あっ、はい、そうです…覚えててくれたんですね、嬉しいですっ」
「んなっ、ちょっ…!」
 ますます嬉しげになったあの子、またあたしに抱きついてきちゃった。

 また閃那を引きはがしてなだめることになったけど、誕生日の話は以前、あたしが風邪をひいたとき…エリスさんの誕生日だっていう日に聞いたこと。
 あたしの元いた国ではそれを祝う習慣はなかったんだけど、今はその人にとって大切な日になってるってことは認識できてる。
「ティナさん、もしかして私の誕生日、お祝いしてくれるんですか?」
「そんなの…当たり前でしょ?」
 だから、ベッドの端に隣り合って腰かけた彼女の言葉にもうなずく。
「えへへっ、それは楽しみです」
 まだ三ヶ月以上先のことだから具体的なことは何も考えてないんだけど、ああも期待されちゃうとしっかり考えなきゃいけないわね…。
「…でも、ティナさんのお誕生日をお祝いできないのは残念です」
 と、あの子の表情がちょっとくもる。
 前に話してある通り、そもそもそういう習慣なかったからあたしの誕生日ってのは全く解んなくって、あの子のああいう顔を見るのはつらいけどどうしようもない。
「…う〜ん、やっぱりこの際、ティナさんの誕生日、決めちゃいましょうよ。誕生日がないなんて、そんなのさみしいです」
 って、そんな提案されちゃった。
 これって前にも言われて、そのときはうやむやにしたんだったか。
「…閃那がそうしたいってなら、あたしはいいわよ」
「えっ、ほ、本当ですかっ?」
 予期しない返事だったからか驚かれちゃう。
「まぁ、あんたがあたしの元いた時代に行って確認してくる、なんて無茶なこととかしないで決めてくれるなら、ね」
 実のところあたしは別になくてもいいんだけど、そんなことで彼女が喜んでくれるならいいかな、って。
「解りました、それじゃ考えますっ。いつがいいでしょう…」
 嬉しそうに考え込むあの子を見て、なおのことそう感じる。
「…あっ、それじゃ、私とティナさんがはじめて出会った日、はどうです? それってつまりティナさんが今の時代にきた日でもあることですし」
 で、しばらく考え込んでたあの子がそんなこと言ってきた。
 なるほどね、そうきたか…確かに、その日はあたしにとって一大転機な、色んな意味で人生が一変した日だっていえる。
「…ん、そうね、いいんじゃない?」
 だからあたしもうなずき返す。
「はい、じゃあティナさんのお誕生日は一月十一日ですねっ。私よりちょっと後になりますけど、しっかりお祝いしますよ〜」
「…って、そうなの? よくぱっと日付が出てくるものね…」
 あたしはこっちにきた経緯があれだけに解るわけなかったんだけど、にしてもちょっと驚いた。
「ティナさんと巡り会った記念すべき日なんですから、忘れるわけありませんっ。そんな日がお誕生日なんですから、素敵ですよねっ」
「…そ、そうかもね」
 そういえば、閃那はあたしに一目惚れしたとか言ってたっけ…それが改めて感じられて恥ずかしい様な、でも嬉しい様な感覚を受けたのだった。

 で、話が落ち着いたとこでクリスマスっていうものについても聞いてみたりして。  どうも元は宗教、しかも異国のものな行事らしいんだけど、少なくても今のこの国だと大切な人と一緒に過ごす日、って意味合いが強くなってるそう。
「ふぅん、ならその日は別に特別意識しなくってもいいんじゃないの?」
「ふぇ、ど、どうしてですか?」
 さっきの態度からその日を楽しみにしてそうなあの子はちょっと悲しそうになった。
「いや、だって、あたしと閃那は、そんな日じゃなくっても一緒にいるでしょ? そんなのより、閃那の誕生日を祝うほうが大切でしょ、ってこと」
 言い終えて、もしかして恥ずかしいこと言っちゃったんじゃ、って気づく。
「ティナさん…ティナっ」
 そのときにはすでに遅く、あたしは感激した様子の彼女に押し倒され、そのままあつい口づけをすることになったのだった。


    -fin-

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