あたしたちが降り立った、青い海に囲まれた絶海の孤島。
 そこは以前、あたしたちが世界を一周した旅で、帰る前日に立ち寄って休んだ場所。
 閃那の言う通り、色々あってあたしたちの想いが重なった直後に過ごした場所だから印象に残ってて、今回ここを選んだのも…まぁ、それが一番大きい。
「さぁティナさん、さっそく水着になってくださいっ」
 他に誰もいないこともあって開放的な気分なのか、あの子はずいぶん張り切った様子…いや、こういうときの彼女はだいたいこんな感じか。
「わ、解ったわよ、あっちで着替えてくるから」
「えぇ〜、ここでやっちゃえばいいじゃないですか、他に誰もいないんですし」
 そう言われても、何となく恥ずかしいっていうか、抵抗感あるわよね。
「う、うっさい、別にいいでしょ…そっちこそ、着替えたら?」
「ふふーん、私はすぐです、なぜなら服の下に水着を着てますから」
 いやいや、そんなことで胸を張られても…微笑ましいけども。
 ともかく、そんな閃那を置いて一旦森の中へ入って、先日買った水着へ着替えて。
「…ま、待たせたわね」
「もう、ティナさんってば遅いです…って、わぁ〜」
 砂浜ですでに水着姿になってたあの子へ歩み寄って声かけたんだけど、そんなあたしの姿を見たあの子、目を輝かせてくる。
「…な、何よ」
「水着姿のティナさん、やっぱりいいです、素敵ですっ」
「な、何言ってんのよ、昨日お店で見たばっかだし、それに閃那も同じの着てるんだから、そこまで言うほどのことないでしょ?」
 そう、あたしたちは同じデザインのもの着てるわけだけど、学校で着てるのと較べると布地がものすごく少なくって、そんな恰好で外にいるとか、かなり落ち着かない。
「太陽の下、こんなきれいな砂浜で見るとまた格別なんですっ。それに、私とティナさんとじゃスタイル違い過ぎて同じ水着って感じあんまりしないじゃないですか」
「そ、そんなもんかしらね…」
「そうなんですっ、ティナさんの水着姿、私をどきどきさせちゃうんですから…!」
 あの子はあんなこと言うけど、それを言うならあたしだって…閃那のそういう姿をこういう環境で見て、どきどきしてる。
 自身の格好は恥ずかしく思っちゃうんだけど、とにかく色んな意味で他に人がいなくってよかったわ。
「と、とにかく、着替えたんだけどどうするのよ?」
「はい、まずは日焼けしない様に日焼け止めを塗りましょう。ティナさんのきれいな肌が痛んだら大変ですから」
 だからそれを言うなら、ってのはともかく言ってることは解る…んだけど。
「そんなの、日焼け防ぐだけの膜を張っとけばいいでしょ、閃那も使えるでしょ?」
 それくらい効果を限定した力の使いかたもできたりする。
「…ぶぅ、そんなのつまんないです。せっかく、ティナの身体の隅々までしっかり塗ってあげようと思いましたのに」
「え、え〜と、遠慮しとくわ…」
 何か嫌な予感というか、身の危険を感じちゃった。
「と、とにかく…海水浴だっけ? こんな格好してこんなこときて、泳いだりするの?」
 だから、話を逸らすかたちでそう尋ねてみる。
「もう、ティナさんったらそんな解り切ったこと…あれっ? え〜と、そうですね…」
「…何よ、どうしたの?」
「いえ、その、実は私も海水浴ってはじめてで、ここから具体的に何するか、あんまりイメージないかも、です」
「…は? そ、そうなの? あんな張り切ってたのに、そんなのって…」
「うぅ、呆れないでくださいよぅ。今まで、こんなこと一緒にできる人、家族以外にはいなかったんですから…」
 ちょっとしゅんとされちゃった。
「い、いや、呆れてはないんだけど…ちょっと驚いただけで、ね」
「いいんです、ティナさんの水着姿見たさに勢いだけで言っちゃったことなんですから。海にきてすることっていっても、アニメとかでのイメージしかないですし…」
 まぁ、確かに勢いと思いつきで行動してそうな雰囲気は、あったけども…。
「なら、そのアニメとかのイメージ、ってのを思う通りにやってみたらいいんじゃない? あたしなんて何するのか全然知らないわけだし、それにそんな難しく考えることもないでしょ」
「ティナさん…はいっ」
 元気に笑顔を返してくれた…かと思ったら勢いよく抱きつかれちゃった。
「やっぱりティナさん、大好きですっ」
「わ、解ってるから、そんなの…も、もうっ」
 こんな格好で抱きつかれたりしたら、いつも以上にどきどきしちゃうじゃない、もう…!

「さてと、それじゃ遊びますよー! まずは何しましょうか…あ、そうです、これを」
 改めて張り切った様子になった彼女が取り出したのは、スイカっていう植物の実…結構大きい。
 何でもそれを砂浜へ置いて、目を隠した人が手にした棒でそれの場所を当てて叩き割る、って結構乱暴なのが定番の遊びなんだとか。
「で、あたしがやるわけね…ま、いいけども」
 目隠しされて、その場で回らされて方向感覚を失わされる…といってもこのくらいなら大丈夫で閃那が声で誘導してくれたこともあって、相手は気配がないとはいえ問題なく割ってみせる。
「わぁ、さすがティナさんです」
「それはいいんだけど、割ったこれ、どうすんのよ? 二人で食べるには、ちょっと多い気もするんだけど」
「…あ〜、半分食べて、残りは明日にしましょう」
 砂浜に腰かけてそれを食べてみたけど、なかなかおいしい…力で保存できなかったらちょっと大変だったと思うけど。
「砂でこうやって…お城を作ってみましょう。こういうの自信あるんです」
 きれいな砂浜の砂でお城を作ったりして…あたしはちょっと不器用だからお手伝い程度にしといて、閃那がかなり立派なものを作ってく。
「えへへ、どうです、なかなかのものじゃないですか?」
「いや、かなりすごいと思うわよ、さすがね」
 完成したそれは、さすがに大きさはそれなりながら、あたしが昔いたお城にも負けないくらい立派なもの。
「じゃあ、いよいよ海に…うんうん、ちょうどいい感じですよ」
 穏やかな波の打ち寄せる、きれいに澄み切った海へ足を踏み入れて…ん、確かに気持ちいいかも。
「こういうところでボールを打ち合ったりしてみましょう」
 さっきのスイカくらいな大きさの、空気で膨らませたボールを打ち合うことにした…んだけど。
「…あ、ご、ごめん」
「いえ、うーん、魔力で耐久性を上げておくべきでしたね」
 つい力が入ってボールを割っちゃった…学校での運動ではうまくやってるつもりなんだけど、今は閃那と二人っきりってことでちょっと油断しちゃったか。
「本当にきれいな海ですねぇ…もっと沖へ行って、潜ってみませんか?」
 そう促されて、遠浅な先へ…以前、海の底にあったあたしの元いた国の遺構へ行った際は深海ってくらいの深さだったけど、今回は日の光が水中に届いてきれいな景色。
 あのときは周囲に膜を張って空気のある状態で海の中に入ったわけだけど、今回は純粋に泳いでいくことにする…水泳の授業が役に立ったわけね。
 そこで泳ぐ魚とかをみて楽しそうな様子見せる閃那だけど、あたしはそんな彼女を観てると幸せになってくる。


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