主に服とかを売ってる、色んなお店の入ってる建物の一角。
 結構広い場所なそこが水着売り場らしく、たくさんのそれらしいのが並んでた。
「さーて、着きました。それじゃ、さっそくティナさんに似合うのを探してきますよー!」
 あの子は相変わらず張り切ってて、それはまぁ別にいいんだけど…。
「ここ、人いないわね。他の場所はそうでもないのに」
「あ〜…まぁ、もう時期が過ぎつつありますからねぇ。人がいないほうが、思う存分選ぶことができていいですけど」
 言われてみればそうか、もうすぐ休みも終わりだものね…一ヶ月くらい前がちょうどいい時期、だったのかしらね。
「そうね、あたしもあんま人いないほうがいいわ。どうも、他の人に見られてるって視線、感じるときあるし」
 この間の旅行のときもだけど、そういう気配を感じてどうも、ね…殺気とかじゃなかったから気にしない様にはしてたけども。
「それはしょうがないです、ティナさんみたいな素敵な人がいたら誰だって気にするに決まってますから。ツインテールおろしたほうがよりかっこよさが出ると思いますけど、しょうがないですね…私が選んだ今の服でも十分かっこよさ引き出せてますしよしとしましょう」
「何か大げさね…そんなのって、どうなんだろ」
 他の人の外見を気にして歩くとか、ないわね…そりゃ、ただ者じゃないって気配感じたら気にするだろうけど、そういうのもないし。
「これで水着姿になって海水浴場とかに行ったりしたら、さらに注目の的です。スカウトとかされちゃうかもですね」
「…は? 嫌なんだけど、そんなの…っていうか、海って他に人のいるとこ行くってことだったの?」
「時期はずれてますけど、海水浴場とかまだ人はいるはずです。そんなとこにティナさんが行ったら…」
 そんなこと言う彼女、何か考え込みはじめた。
「…うわっ、そんなの私も嫌ですっ。ティナの水着姿は私だけのものです、他の人に見せたりしたくないですし、変な虫も寄らせたくないですっ」
 と思ったら、今度は顔を青くしながら慌てられちゃった。
「え〜と、よく解んないとこもあるけど、とにかくそういうことなら…海に行くの、やめにしとく?」
 ここにある水着、下着みたいなの多いし、こんなの着て他の人に見られるのも…こんなの着た閃那が他の人に見られるのも嫌だしね。
「それも嫌ですっ。あっ、そういえばアサミーナとかなさまがまさにこの時期に同じ様な悩みを持ったことがあるとか言ってましたっけ…あのお二人はどうしたんでしたっけ…」
 また考え込むあの子だけど、そんなのどこで聞いたのかしらね…彼女のいる未来ではそのお二人かなり有名になってるそうだし、記録か何か残ってたりするっていうのかしら。
「あ、そうでした、アサミーナがプライベートビーチ持ってたんでしたっけ。でも私たちにそんなのないですし、うーん…」
 どうも個人所有で他に人のこない場所ってのをその人、っていうかこの前イベント会場で会った人は持ってるそう。
「海に行くのをやめるのは嫌ですし、人がいない場所なんて贅沢考えるのはやめましょうか…」
 う〜ん、あんなしゅんとした彼女を見ると何とかしたいと感じるし、あたし自身できるなら人のいない場所のほうがいいんだけど、何か手はないものかしらね…。
「えーと、海ならどこでもいいの?」
「そんなわけないです、水着になって泳いでも平気なくらいあたたかい、それから白い砂浜は必須です」
 砂浜の何がそんな重要なのかはよく解んないけど、ともかく…。
「そっか、なら誰も人のいない島とかでいいんじゃないの? 太平洋とかには結構あったと思うんだけど」
「それはそうですけど、でもそんな場所どうやって行けば…」
「あたしの力で飛んでけばいいでしょ。世界一周一緒にしたことあるし、問題ないと思うけど」
 学校へ入学する少し前に、あたしの力を使ってそんなことしたのだった…もう半年くらい前のことか。
「はっ、確かに…でも、いいんですか?」
「だから、あたしは別に何も問題ないってば、あたしも人のいる場所は嫌だし。閃那がいいなら、いいんじゃない?」
「はい…はいっ。さすがティナです、ありがとうございますっ」
「別にこんなの…んなっ」
 勢いよく抱きつかれて言葉を続けられなくなっちゃう。
「これでティナと海を満喫できるんですね、本当によかったですっ」
「解った、解ったから落ち着きなさいってば。ここ、お店だから…!」
 お客さんはいないとはいえ店員さんはいるわけで、そんな状況だからより目立っちゃうし、何とか彼女を引きはがす。
「あ、ごめんなさい、つい。とにかく、これで心置きなくティナさんの水着を選べるってことですね…さっそくはじめましょう」
「…ま、まぁ、ほどほどにね」
 身体を離しつつも気合十分な彼女に、あたしはちょっと覚悟を決める。

 こういうとこにくると毎回そうなるわけだけど、今回も案の定っていうか…色んな水着を試着させられた。
 やっぱ下着とそう変わらない、下手するとそれよりもっと露出の多いのもあって、これをたくさんの人のいるとこで着るっていうのは避けたいとこね。
 閃那に見られるのだって、やっぱ恥ずかしいくらいだし。
「今まで色んな服装、コスプレまで見せてくれましたのに、まだ恥ずかしいんですか?」
「う、うっさい、恥ずかしいに決まってるでしょ…!」
「うふふっ、でもそんなティナさんもかわいくっていいです。とはいえ、これじゃどれにしようか迷っちゃいます…う〜ん、全部買っちゃいましょうか」
 一通り試着を終え、ようやく服を着て試着室を出たとこでそんなやり取り…閃那ってば平気で試着室の中へ入ってきたり抱きついたりしてくるから余計恥ずかしい。
「もう、実際海行くときは一着しか着ないんだし、そんな無駄なことしないの…そもそもお金は大丈夫なの? 自分のだし一着分だけならあたしが買うけど、それ以上は買わないからね?」
「はうっ、ここのところ出費がかさんで厳しいです…うぅ、しょうがないです、今回は何とか一着に絞ってみます!」
 今回は、ってのが少し引っかかるけど、ともかく彼女は水着を手にしたりして考えこむ。
 随分真剣な様子で邪魔しちゃダメな雰囲気だけど…でも。
「まぁ、あたしのはいいとして、閃那の水着はどうするの?」
 このことが気になったから声をかけてみた。
「えっ? 私のなんて別にいいです、スク水着てきますから」
「…は? 何であたしのはそんな真剣に考えてるのに自分のは適当なのよ。あたしの買うなら自分のも買いなさいよね」
「でも、私の水着なんて何だって…」
「よくないわよ。閃那、かわいいんだし…なら、あたしとお揃いのにしときなさいよね」
 あたしが選ぶ、と一瞬言いそうになったけど、こういうの選んだことないからそんな提案になっちゃった。
「え…えぇーっ? そんなの…サイズ全然違いますし、ものすごく限られちゃうんですけど」
「数が多くて迷ってるんだから、それでいいじゃない。そういうことで、さっさと決めなさいよね」
「は、はぅ、ティナさんとお揃いなのは嬉しいですし、解りました〜」
 ちょっと強引だったかもしれないけど、人のことばっか持ち上げて自分の魅力を解ってないあの子が悪いんだからね。


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