第二章

 ―一ヶ月以上にわたる長い休みももう終盤。
 暑さは相変わらずで、あたしなんかははやく夏なんて終わってほしいって思うんだけど、閃那はそうじゃないみたいで。
 休みを続けたいってのもあるみたいだけど、暑い時期だからこそできるってことも、あるみたいなのね。

「うぅ、ティナさ〜ん、もうそろそろ休憩にしてもいいですか?」
 ―実家にあるあたしの自室、低くて大きめな机の向かい側に座る閃那が少し情けない声を上げた。
「ちゃんと目標まで進んだならいいけど、どうなの?」
「それは…えへへ、もうちょっと」
「…なら、もうちょっと頑張りなさいよね」
「うわーん、ティナさんがいじめてきますー!」
「いじめてないっ。あんたのためを思って言ってるんじゃない、全く」
 そんなやり取りするあたしと彼女との間にある机の上にはノートとか教科書とかが広げられてる。
「夏休みの宿題は計画的に、って休み前に先生も言ってたでしょ。なのにどうしてまだこんなに残ってんのよ」
「それは…夏休みですから、休息を優先したんです。それに、もう終えちゃってるティナさんが真面目過ぎるだけです」
「はぁ、何言ってんのよ…あたしはただ、面倒ごとは残しときたくなかっただけよ」
 こんなやり取りしてるとおり、今やってるのは夏休みの間にする様にと出された課題、宿題ってやつ。
 長い休みで勉強を全くしないのはどうかってことなのかこういうのが出るわけで、あの子はもう休みも終盤に差し掛かってるのにそれを結構残しちゃってた。
「ほら、あたしも手伝ってあげるから、もう少し頑張りなさいよね」
「うぅ、はい〜…」
 渋々、っていった様子で宿題に手を付けてく彼女。
 まぁ、あれよね…あたしが宿題終えてるのはすることがあんまりないから、ってのが一番の理由で、それに対し閃那は多趣味だからね…。

「ふぅ、疲れました〜。宿題なんてなくなっちゃえばいいんです」
「全部すませたらなくなるわよ」
「もう、そういうのじゃなくて、元からなくしたらいいんです」
 ねころ姉さんが気を遣って飲み物を差し入れてくれたから、ちょっと一息。
「冗談は置いといて、閃那の宿題が終わる頃には夏休みも終わりそうね」
「うぅ、そんなのいやです、もっともっと続いてほしいです」
「そんなこと言ったって、しょうがないでしょ」
 まぁ、気持ちは解んなくもないけど。
「この休みの間、一緒に色々したんだし、満足したでしょ?」
「それはそうですけど、でもティナさんとは何やっても完全に満足ってことはないんです、もっといっぱいって思っちゃいます」
「まぁ、解んなくはないけど、でもこの夏休みが終わっても、あたしたちはずっと一緒でしょ? この先色々また一緒にやってけばいいだけだってば」
「ティナさん…うふふっ、はいっ」
 またちょっと恥ずかしいこと言っちゃったけど、彼女の反応見たらまぁいいかなって思える。
 でも、この夏休み、本当色々あったっけ…荷物持ちだとはいえ旅行もしたし、先日はねころ姉さんと叡那さんも入れて花火ってのをしたりもしたっけ。
「ま、これでもう、この夏休みで思い残すことは閃那の宿題くらいか」
「はぅ、もう、そんなの思い残す様なことじゃないじゃないですか〜! でも、そんなのじゃなくって、もっと大切なもの忘れちゃってる様な…」
 あの子、あんなこと言うとそれを思い出そうと考えこんじゃった。
 宿題よりずっと大切なもの、ねぇ…あたしには思い浮かばない。
「…あ、あぁ〜っ! そ、そうです、ものすごく大切なこと、まだしてませんっ」
 でも、あの子には何か心当たりがあったみたいで、突然大声上げてきちゃう。
「な、何よ…何をしてなかったっていうの?」
「海ですよ、海っ。ティナさんと一緒に海に行ってません…もう、こんな大切なこと忘れてたなんて、私のバカっ」
 ものすごく一大事みたいな様子、なんだけど…。
「え〜と、海って…あの海、よね? そんなとこ行くのが、そんなに大切なの?」
「何言ってるんです、大切に決まってますっ。水着姿のティナさんと砂浜で…こうしてはいられませんっ」
 言葉の勢いのままに立ち上がる彼女。
「ちょっ、な、何よ?」
「決まってます、今から水着を買いに行きましょう!」
「…は? いやいや、ちょっと待ちなさいってば」
「いいえ、待てませんっ。はやくはやくっ」
「い・い・か・ら、落ち着いて座りなさい」
「…はぅ、ごめんなさい、ちょっと舞い上がっちゃってました」
 あたしの少し強い口調で我に返ったみたいで、素直に座ってくれた。
「…で、閃那は海に行きたいっていうの?」
「はい、もちろん、ティナさんと一緒に行きたいです」
「でも、まだ宿題、残ってるじゃない。そんなことしてたら、夏休みが終わる前に片づけられなくない?」
「はぅ、それは…でもぉ…」
 うっ、ものすごくしゅんとされちゃった。
「…よ、要するに、よ。さっさと宿題すませて、休みがまだ残ってたら別にいいんじゃない、ってことよ」
 そんな彼女見たら、完全否定することは言えなくなっちゃう。
「えっ…本当ですかっ? 宿題終わったら、一緒に海へ行ってくれます?」
「ま、まぁ、終わってまだ日が残ってたら、の話だけど」
「終わらせます終わらせます、もうそんなのすごい勢いであっという間に終わらせます。ですから一緒に海も約束ですよ?」
「わ、解ったわよ…」  目の色変えられちゃった…そんな海に行きたいのかしらね、あたしにはぴんとこないんだけども。


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