危うくそのまま流されそうになっちゃったけど。
「と、ところで、結局今日は何の用があってここに帰ってきたのよ」
 何とかあの子を落ち着かせて、引きはがして改めてたずねてみる。
「あっ、そうでしたそうでした、このままティナさんといちゃつくのも捨てがたいんですけど、今日はせっかくですのでそれに一工夫しようと思います」
「…は? どういうことよ、それ」
 結局いちゃつくってことなのかしらね…ま、まぁ、嫌ってわけじゃないけど…!
「先日のイベントでちょっとだけコスプレエリアに行きましたよね? 覚えてます?」
「…え〜と、何だっけ?」
 あのイベント、知らない単語だらけでああたずねられてもぱっと出てこない。
「覚えてなくってもしょうがないです、今回は同人誌買うのをメインにしてましたしアサミーナに会うなんてものすごいこともありましたから、さっと見ただけのコスプレエリアのことなんて抜けてしまってもしょうがないです」
「で、つまり何なのよ?」
「あぁはい、えぇとですね、アニメとかゲームとか、そういうのに出てくるキャラクターの格好をするのをコスプレっていうんです。で、そういう人たちが集まってたエリアに立ち寄ったと思うんですけど…」
「…あぁ、思い出した、そのことか」
 閃那の説明した人や場所は確かに記憶があって、ほんのちょっと見ただけだったけど結構印象に残ってる。
「あたしの元いた時代で着てたのに似た格好の人なんかもいたしね」
 それはただの偶然だろうけど、とにかく普段の生活では見ない格好の人たちが集まってたから印象に残るわよね。
「で、それがどうかしたの?」
「はい、今からティナさんにコスプレをしてもらおうと思いまして」
 笑顔であんなこと言われたけど…。
「…は? いや、待って、意味解んないんだけど、何だって?」
「ですから、ティナさんにコスプレしてもらうんです。魔法使うときの服装や制服、巫女さんの格好とかどれも本当に素敵ですから、もっと色んな格好してみてもらいたいです」
 閃那って、あたしが色んな服装したのを見るの、本当好きだものね…それはもうこの数ヶ月でよく伝わってきてる。
「え〜と、要するにあたしに色んな服を着させたいってんでしょ? そんなの、今まで結構やってきたと思うんだけど」
「違います、今回はコスプレをしてもらうんですっ。私の好きなアニメとかのキャラクターな格好をティナさんに…うふふっ、想像しただけでわくわくします」
 あぁ、何となく理解したし、あたしはあんまり楽しくなさそうだけど彼女があんな楽しみにしてるなら止めはしない、けど…。
「そんなこと言ったって、あんな服ないでしょ。どっかに売っててそれを買ってきたりでもしてる、っていうの?」
「あっ、いいえ、ああいうのって自作が多いんですよ」
「自作、って…すごいわね。でも閃那、まさか自分で作ったの持ってるっていうの?」
「はいっ」
 笑顔で返されたけど、彼女って料理はダメだけど裁縫は上手だったから変な話ってわけでもないのか。
「…え〜と、じゃあ、閃那がコスプレってのをする趣味持ってて、そのために作ってた、ってこと?」
「えへへ、そうなりますね」
 また新たな彼女の趣味を知ることになって、それはまぁいいんだけども…。
「…でも、閃那が着るために作ったんなら、あたしには無理じゃない? サイズとか」
「むぅ〜っ、どうせわたしはちんちくりんですっ」
 あ、ふくれちゃった…かわいいんだから。
「ごめんごめん、でも…実際、そうじゃない?」
「まぁ、解ってますそのくらい。でも大丈夫です、ちゃんとティナさんサイズのものをいっぱい用意してありますから」
「いっぱい、って…いつそんなの用意したのよ。そんなの作ったりしてるの、あたしは見たことないんだけど」
「あ、最近は作れてないです。主にティナさんに会う前、元の時代で作ったのと、あとはままから借りたのも」
「…ますます解んないわね。あたしに会う前からどうしてそんなの…それに、ままって?」
「それは…いつかこういう日がくるかも、って思ったからです。あと、エリスままもコスプレ好きですから」
「…は? そうなの?」
 言葉を詰まらせちゃうあたしだけど、あの子は笑顔でうなずく。
「ふ、ふぅん、そっか」
 何言ってんの、って言いそうになったけど、実際今日そういう日がきちゃったわけだし、エリスさんにしても意外には感じるけど前にこれと繋がる話は聞いてたしね。
「でも、エリスさんの、って…そっちもサイズは合わない気がするんだけど」
 少なくとも、今この時代のエリスさんはどっちかっていうと閃那に近い体型…なわけなんだけど。
「あっ、大人なエリスままはティナさんくらいスタイルよくなりますよ。叡那ままと並んでも見劣りしないくらいです」
「そ、そうなの…」
 このくらいの年齢から急成長ってあんまない気もするけど、エリスさんは異なる世界の人だし、そういうとこも違うのかしらね。
「ですから、私だってこの先どうなるか解りませんよ〜? 数年後にはティナさんくらいスタイルよくなりますから、覚悟してくださいね」
 大きくなった閃那、か…叡那さんみたいな感じになるのかしらね。
「何を覚悟しとくのか解んないけど、まぁいいわ…ま、成長してもいいけど、あたしは今の閃那、好きだけどな」
「…ティナさん」
 うっ、しまった、思わず恥ずかしいこと言っちゃったか。
「嬉しいです、ティナがそう言うなら、私はこのままでいてもいいです」
「そんなの、本人の意思でどうにかできることじゃないでしょ…って、ちょっ」
 あたしが言葉を続けるより先に彼女が抱きついてきちゃった…本当、しょうがないんだから。


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