そういうわけで、学校の放課後とか休日には、お社のお仕事をお手伝いしてる。
 とはいえ簡単なことしかできなくって、今日も叡那さんと同じ服へ着替えて、境内の掃除とかそういうのをしてく。
 夏のよく晴れた午後、いくら森に囲まれた場所とはいえ外にいるとものすごく暑い…はずなんだけど、厳かな雰囲気漂うこの空間はそのためなのか何なのか、そこまで暑さを感じない。
 いや、元いた時代に較べて今はかなり年間全体の気温が上がってるってこともあって暑いのは暑いんだけど、他の場所に較べたら全然ましで、かなりたすかる。
 そんないい場所なんだけど、今日もやっぱり人の姿はなく…特殊な場所だから外からは入れないとかいうわけじゃなく、実際稀に人はくるみたいなんだけど、まぁものすごく町はずれにある場所だししょうがないか。
「…で、あんたはそこで何してるのよ?」
 誰もいない、といいつつも社殿前にはあの子、閃那が座ってこっち見てきてたの。
「何って、ティナさんのこと見てるんです」
「まぁ、そうなんだろうけど、どうしてそんなことしてるのよ?」
「どうしてって、そんなの巫女さんの装束着てるティナさんがとっても神秘的で素敵だからに決まってるじゃないですか。あ、このティナさんを絵に描くのもいいですね」
 閃那はあたしに較べてずっと多趣味で、絵を描くのも好きみたいで実際とっても上手…って。
「いや、言い過ぎだし、それに描かなくってもいいから」
「ぶぅ、全然言い過ぎじゃないんですけどねぇ」
 閃那に描いてもらうのは嫌ってわけじゃないんだけど、何ていうか…やっぱり恥ずかしい。
 それはそうと、趣味っていったら…
「そういえば、今日は剣の稽古してなかったか。一段落ついたし、今からしておこうかしらね」
 これを趣味っていっていいかはあたし自身疑問になることもなくはないんだけど、ともかく現状あたしの唯一っていっていい趣味は剣の稽古。
 で、これを毎朝するのが昔…一人で旅してた、あるいはアーニャと一緒にいた頃からの日課なわけだけど、今朝は起きるの遅くなってできなかったものね。
「ティナさんは相変わらず真面目ですねぇ。そんなのしなくってももう十分…剣の腕だってそうですし、魔法のほうだってままたちに匹敵するくらいなのに」
「いや、それは言い過ぎだってば」
 あたしも弱くはないって思うけど、あの二人はちょっと桁が違う。
「頑張り屋さんのティナさんも大好きですけど、そこまで毎日頑張らなくってもいいと思いますよ」
「ん、ありがと。でも、まぁ日誌みたいなもので、しないとかえって落ち着かないのよね」
 あの子はあたしが暑さに弱いって知ってるから気を遣ってくれてるのね。
「ま、今のこの世界でこういう力はまず必要ないって思うけど、もしもってことがあったときに後悔はしたくないし、ね」
 そう、アーニャを失ったときだって、あんなのが現れるなんて思ってもみなかったんだから…本当、何があってもいい様にしときたい。
「っていっても、閃那ならあたしなんかが護ったりしなくっても心配ないとは思うけど」
「そんなことないです、いざとなったらティナさんにかっこよく護ってもらいたいですー!」
 あんなこと言ってるけど、彼女は叡那さんとエリスさんとの子供ってこともあって、その力はまぁあたしより上でしょうね。
「…あ、ティナさん、今、自分よりそっちのほうが強いくせに、とか思いましたね」
「な…何よ、本当のことでしょ?」
 あの化け物との再戦だって、閃那がいなかったらどうなってたことか…。
「ティナさんは強くてかっこいいんですから、もっと自信持ってください」
「んなっ、それはこっちの台詞でしょ? 閃那こそ、強くてかわいいくせにそんなこと言って」
「むぅ〜っ、ティナさんのほうがずっとですっ」
「んなわけないってば、閃那のほうがずっとすごいわよ」
 何か、お互いにらみ合う感じになっちゃって。
「…解りました。そこまで言うんでしたら、一回手合わせしてみましょう」
 で、さらにそんなことまで言われちゃった。
「手合わせって、あたしと閃那とで勝負する、ってこと?」
「はい、剣も魔法もありで勝負してみましょう。そうすれば、どっちの言っていることが正しいかすぐ解りますよね」
 こんな方向に話が流れるとは思ってなかったけど、今まで彼女とは一度も手合わせとか一緒に稽古とかしたことなかったし、いい機会かもしれない。
「解ったわ、じゃあやってみましょ」
 だから、あたしもそれを受け入れることにしたの。


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