第1.5章

「ん〜、今日はのんびり、ちょっとゲームでもしましょうか」
 ―旅行から帰ってきて数日、夏休みも終盤に差し掛かろうとしてる日な午後のひととき、あたしの部屋にいる閃那がそんなこと言う。
「ゲームねぇ…どんなのするの?」
「あっ、ティナさんがそんなことたずねてくるなんて珍しいですね、どうしました?」
「ん、いや、今日は時間もあるし、何となく?」
 今日は朝から雨が降っててお社のお仕事も少ないから、ってのもあったりした。
「せっかくティナさんが気にしてくれたんですし、今日はあれをやりましょう」
「ん、何よ、もしかしてこの前あたしがやったゲーム?」
 旅行で行ったイベント会場で会った閃那の好きな声優が出てるゲームを少しやったんだっけ。
「あっ、あれもティナさん、途中でしたっけ。続きやってみます?」
「いや、それはまた今度でいいから、今は閃那がしようとしてたのしなさいよね」
「じゃ、今日のところはそうしましょう」
 ってことで、机の上に出された小さな箱…彼女の時代におけるパソコンって機械が起動され、何もない空間に直接映像が表示される。
「…ん、今回のはずいぶん立体的なのね」
 先日のゲーム、それにアニメとかはあくまで平面的なものを表示してたんだけど、今回のはそれらとは違った感じ。
「はい、このゲームは私の元いる時代に作られたものですから」
 に対してあたしがこれまで見てきたのはちょうど今の時期に作られたものだから今と同じ表示にしかできない、ってことみたね。
 で、そのゲームはキャラクターっを自分で作成して、それを操作して疑似世界な冒険を体感してく、ってものらしく、彼女が作ったっていうキャラクターが表示される。
「どうです、なかなかしっかり作れてると思うんですけど」
「え〜と…うーん、何か、どっかで見たことある人な気が、する様な…」
 表示されてるのは、ちょっと背の高めな、頭にある耳が特徴的な女の…ん?
「当たり前です。だってこれ、ティナさんですもん」
「…あ、やっぱそういうことか、もう」
 そりゃ見覚えもあるはずよね。
「身長から顔立ち、胸の大きさまで精巧にティナさんを再現してみたつもりです。声ばかりはあれですけど、でもそれもティナさんに一番よく似てるのを選びましたから」
 胸を張る彼女だけど…ど、どうなのかしらね。
「う、うーん、あたしとしてはちょっと、見栄えよすぎる気がするんだけど」
「えぇーっ、そんなことないです、むしろやっぱりまだ本物の魅力は十分再現できてないくらいだと思いますよー?」
 それこそ、彼女があたしのこと想ってくれてるからこそな身びいきな気がするわね…。

 名前もそのまま、あたしを忠実に再現したっていうキャラクター、服装とかも好きに設定できるみたいで着せ替えとかして楽しんでるみたい。
「…実際のあたしにしてることと変わらないじゃない」
 この数ヶ月で結構色んな服を、彼女の勧めで着たりしたものね。
「あはは、それはそうかもですけど…こうしてゲームでティナさんを再現したの、ティナさんと今みたいな関係になる前のことでしたから」
 閃那って、あたしに一目惚れしてたらしくって…再会して会って話したりする様になった頃、あふれそうな想いを埋める一助にってことでこれをはじめたそう。
「…あ、さみしいことしてるわね、って思いましたね? あの頃はこんな夢みたいな関係になれるだなんて思いもしなかったんですから、しょうがないじゃないですかー!」
「いや、何にも言ってないでしょ、全く」
 そんな頃からあたしのことを、って気恥ずかしくなったり、全然気づけなかったって胸が痛くなったりはしたけど…。
「とにかくです、こうやって敵と戦ったりするティナさんお堪能したりするのが楽しいんですよー。剣と魔法も使えますしね」
「ま、そうね、剣とか力とかで戦う、ってのは実際の世界じゃ難しいかもね。あの化け物みたいなのがまた現れたら…ってのは、ちょっと考えたくないし」
「もう、あんな危ないこと、もうティナさんにはさせませんよっ。魔法を実際に使ってるティナさんをもっと堪能したい、って気持ちはありますけども」
 う〜ん、先日はじめて手合わせしたとき、動きを止めちゃうことあった彼女だけど、そういうあたしを見たくって、とか言ってたか…。
「あっ、そうです、魔法を使った実戦形式の練習、したりしてみませんか? 的とかはこっちで用意しますから」
「…へ? ま、まぁ、別にいいけど」
「わーいっ、ありがとうございます。じゃあさっそく…って言いたいとこですけど、今日は雨ですし、ゲーム中のティにゃさんで我慢しときますか」
「…ん?」
 よく見たら、表示されてる名前が「ティにゃ」ってなってるんだけど。
 文句言いたくなるのを、まぁそこは我慢…でも、こうやって毎日のんびりしてる彼女見てると、なんか大切なことしてないんじゃ、って不安になったりするけど、何だっけ。


    -fin-

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