突然声をかけてきた冴草エリスさん。
 話を聞かせてもらったけど、彼女もまたこことは別の世界からここへやってきたという。
 でも、この世界の過去からきたあたしとは違って、彼女は時間移動はしてなくって…文字通りの別世界からきたっていう。
 そんな彼女やあたしみたいに世界間を移動する際には門って呼ばれる特殊な通路みたいなのを開く必要があるそうで、この世界へくるための門は全てこの場所に開くらしい。
 だから、あたしがこっちに飛ばされた先にあった森は、やっぱりここの周囲を包んでる森の中だった、ってこと。
 九条さんは何者なのかっていうと、その門を見守り世界の安定を守る存在、なのだという。
「別の世界があるなんて普通の人は知らないし、門を使う様な奴なんて普通じゃないくらいの力を持ってるのが当たり前だしね、叡那はそういう奴らが現れても余裕なほど強いわよ」
 なぜか自慢げになる彼女だけど、九条さんの存在があるからこそ邪な考えの持ち主がこの世界へ飛んでくることはないっていう。
「そうなんだ…じゃあ、最近その九条さんにやられたりした人とか、いるの?」
「は? そんな奴、いるわけないじゃない。あんただって、別に叡那と戦ってぼろぼろにされたってわけじゃないんでしょ?」
「ま、まぁね…そっか」
 森の中であたしの前に現れた少女…彼女もどっかから門を通ってこの世界にやってきた存在だと思うんだけど、九条さんが動いた気配がないってことは別に邪な存在ってわけじゃないのね。
 その割にあたしを消そうとしてきたけど…あ、でもたすけてくれたのもその人っぽいしね…。
「で、改めて聞くけど、あんたはどっからきたの?」
 話がさっきに戻ったけど、あたしが気になったことは教えてもらえたものね。
「う、うん、あたしは数万年前の過去からきた、らしいの」
「…はぁ? か、過去、しかもそんな大昔からって…本当なの、それ?」
「いや、あたし自身じゃ確認しようがなくって…でも、九条さんがそう言ってきたのよ」
「叡那が? ふーん、叡那がそう言うなら、間違いないんでしょうね…」
 さすがに驚かれたけど、でも九条さんのことは無条件で信じるみたい。
「でも、そんな長すぎる時間移動とか、あり得ない気がするんだけど…あんた、そんな大昔から何しにきたのよ?」
「何しにきた、って言われても…あたしは、別にきたくてきたわけじゃないし…」
「…は? あによそれ、もしかして事故で飛ばされてきたとか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
 あたしはどうやってここへやってきたか簡単に説明する。
「それはそれで事故みたいなものじゃない。あんたの親友が何でこの時代を選んだのかも解んないんでしょ?」
「まぁ、ね…」
「まぁ、数万年単位の時間移動なんて、たとえ生命を懸けたって精密に行うことなんて無理だって思うから、特にここに飛ばそうとかは考えてなかったんじゃない?」
「そう…かも、ね」
 うん、アーニャはあたしを安全なところに逃がそうと、ただそれだけを考えて遠くの時代に飛ばしたんじゃないかな、って思える。
「…あんた、これから大変ね」
 と、冴草さん、ちょっと真顔になっちゃった。
「な、何よ、いきなり」
「だって、もう帰るとこもなくって、この時代で生きてかなきゃいけないでしょ?」
 あぁ、それは、彼女に声をかけられる前に考えてたこと…。
「生命を張ってあんたをたすけた人に恥ずかしくない生きかたしないといけないでしょ?」
「…っ!」
 彼女の続けての言葉に、あたしは声を詰まらせる。
 …そうだ、アーニャがそこまでしてあたしを生かしたのは…アーニャ、自分でも言ってたわよ、ね。
 なのに、あたしは今こうして冴草さんに言われるまで、アーニャの気持ちを全然考えてなかった気がする。
 むしろ、もうどうなってもいいとか、そんなことまで考えそうになったりして…。
「…ありがと」
「あによ、いきなり。お礼言われる覚えがないんだけど」
 ううん、本当にお礼を言っても足りないくらいのこと、気付かせてもらえた。
「ま、そんなすぐどうするかなんて決められるわけないし、焦ったりしないでここにいればいいと思うわよ。叡那もねころさんも迷惑だとか思ってないだろうし、特にねころさんはあんたに親近感持ってそうだしね」
 そうかな、今は迷惑しかかけてないわよね、確実に…そこはちょっと不安、だけど。
「…雪乃さんがあたしに親近感? 何で?」
 あの穏やかで悪意一つない様な純粋な人があたしにそんな気持ちを持つとか、ちょっと考えづらい。
「そりゃ、同じ猫耳してるからでしょ」
「何よ、猫耳って…」
 あんなこと言う彼女の視線はあたしの頭の上のほうを向いてて…
「数万年前の地球には猫耳した種族がいたのね、正直びっくりしたわ」
 猫耳って、あたしや雪乃さんにあるこの耳のことか。
「今の時代にはいないの?」
「天然ものはねころさん以外いるわけないじゃない」
 ちょっと気になる表現だけど、即答されてしまったあたり、あたしの国の住人は絶滅してしまったってことか…でも。
「じゃあ、雪乃さんは何なのよ?」
「ねころさんは何ていうか、特別なのよ…私の口からは言えないけど。少なくても、あんたと同じ種族、ってわけじゃないのは確か」
 またよく解んないけど、深く詮索することじゃないか…。
「…ちょっと長く話し込みすぎたわね、身体が冷えてきたわ。真冬にこんなとこで話すもんじゃないわね…私は家の中戻るから」
 冴草さんは身を震わせて家の中に入っていった。
 まぁ、確かにちょっと肌寒さは覚えるけど、真冬っていうにはまだあったかいんじゃないかな…ま、別にいいけど。


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