結局、九条さんが何者なのか、ってのは解らないまま。
 あれは言いづらいってことなのか、あたしには言えないってことなのか…でも、いいわ。
 あの人が本当のことを言ってる、っていうのは感覚として解るし、それに…あたしの国とも、数年間見てきた外の世界とも全然違う文化を見たら、ここは未来か過去か、さもなくば全然違う世界か、ってあたりにならざるを得ない。
 だから、それは受け入れる…けど。
「あたしがこの先、どう生きてくか…か」
 ひとまず雪乃さんの作ってくれたお昼ごはんを食べた後、あたしはまた家の外に出て、そう呟いちゃう。
 一度部屋に戻ったとき、久しぶりにあたしがこっちにくる前に着てた服に着替えて…あの化け物との戦いで破れたり汚れたりしてたんだけど、それを全部雪乃さんが繕ったり洗濯してくれたりしてくれたみたい。
 その雪乃さんは家で家事をしてて、九条さんは別の建物に行ってて、森に囲まれたこの厳かな空気を感じる静かな場所にはあたし一人。
 気持ちを落ち着けて色々考えるにはいい場所なわけだけど、あたしのこれからは…少し考えたくらいじゃ、とても決められなさそう。
 もう少し力が回復したらここの外の世界をこの目で見に行ってみるのもよさそうだけど、でもそれでも決められるとは思えない…この世界に、あたしの居場所なんてないんだから。
 それは元々いた世界でも大して変わらなかったかもしれないけど、最後の拠りどころとしてアーニャがいたから…その彼女もいなくなった今…。
「はぁ…ここにも、あんまり長くいるわけには、いかないわよね」
 九条さんはああ言ってくれたけど、それに甘えさせてもらい続けるっていうのもダメよね。
 そのためにもこれからのことを決めなくっちゃいけないわけだけど…せめて、力が回復するまでは、迷惑になるって解ってるけどここにいさせてもらおうかな…。
 そんなこと考えてたそのとき、突然背後から異質な気配が感じられてくる…!
「んなっ…な、何よっ?」
 あまりに突然のことに悪寒を覚えながら慌てて振り向く。
「ふーん、私の気配に反応するなんて、確かにただ者じゃなさそうね。珍しい服着てるけど、何かあれっぽいし」
 あたしの少し前に立っててそんなこと言うのは一人の女の子。
 あたしと同い年か少し下くらいの、背はあんまり高くなくって少し目つきの鋭い、長い金髪をツ―テールにした子…あの森で会った人もそうだったけど、その髪型流行ってるのかしら。
 髪型だけじゃなくって瞳の色もあの少女と同じ不思議な色をしてたりと何となく印象が重なるけど…人をただ者じゃないって言っておきながら、その当人がただ者じゃない気配出してる。
 …何なのよ、この世界は、こっちにきてからあたしが会った人、雪乃さん以外の三人全員があたし以上っぽい力を持ってそうな人ばっかなんだけど。
「え、えっと、貴女は何者…?」
 その気配に圧倒されそうになりながらも、警戒しながら声をかける…何かあたし、こっちきてからこんなのばっか。
「人にそういうのたずねるときは、そっちから名乗ったら?」
 ちょっときつめな口調でそう言い返されてしまった。
「まぁ、そうね…あたしはティナっていうの」
「ふぅん、私はエリス・メラン…じゃなくって、冴草エリスよ。あぁ、あんたには本名言っても問題なかったっけ…ま、どっちでもいっか」
 何よ、勝手に納得したりして、よく解んないわね。
「で、あんたはどっからきたの?」
「…へ?」
 しかも唐突なこと言われて変な反応しちゃった。
「だから、どういう世界からこの世界にやってきたの、って聞いてんの」
「えっ、貴女、どうしてそんなこと…」
「叡那から聞いたから、あんたも門を通ってきたってこと。それに魔法力もあるみたいだし、ちょっと気になったのよ」
 いや、今のこの人の言葉だけで、こっちが気になることがたくさん出てきたんだけど。
「待って、待ってってば…門って何よ? それに、あたし『も』って…どういうこと?」
「はぁ? そんなことよりそっちのことを先に教えなさいよね?」
「そんなこと言われたって、こっちは多分そっちより解んないこと多いし…」
 あたしはまだ戸惑ってることが多いし、できれば向こうのことを先に聞きたい…色々知ってそうだし。
「あによ、でもまぁいいわよ、こっちから声かけたんだしね。特別に、あんたが聞きたいってことに答えてあげる…ただし、同じことは二度とは言わないから」
 何かきつそうな正確に感じられたからダメかもって思ったけど、案外すんなり話が通じてよかった…九条さんとはタイプは違うものの、この人も内面はやさしい人なのかも。


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