第二章

 ―あたしが今いる場所と、かつていた場所。
 それは同じ世界…同じ星なのは確からしいものの、別の世界なのとほとんど変わらない。
 だって、あたしが今いる世界は、あたしが今まで生きてきた世界の、はるか未来だっていうのだから。
「…ねぇ、アーニャ。どうして、あたしをこんな世界に送ったの?」
 その事実を知った後、あたしは一人森の中にたたずんでそうつぶやく。
 その手には、あの子が渡してきたものを握って。
「こんなよく解らない世界に一人でくるくらいなら、あたしは…」
 最後までアーニャを守って死んだほうがよかった、そう思えてしまう。
「でも、貴女は…あたしに、生きていてもらいたかったの?」
 だから無茶をして、あたしをここに飛ばしたの?
「あたしに…この世界で、生きろっていうの…?」
 だから貴女は、あんなことを言ってあたしにこれを渡してきたの…?
 手に握りしめていたものへ目をやるけれど、それは一つの指輪。
 布団で横にされているときになくなってて少し焦ったけど、服を着替えさせられたときに雪乃さんが一時的に預かっててくれてたみたいでその後返してもらえた…あたしとアーニャの、友情の証。
 同じ指輪の一つをあたしが、そしてもう一つを彼女が持っていて、互いの想いを込めていたのだけれども…それをあの子は私にこうして渡してきてしまった。
 しかも、大切な人に渡して、幸せになって…なんて言って。
「あたしにとって大切な人は、貴女なのに…!」
 それなのに、他に…しかもあたしや貴女がいたはるか未来の世界で大切な人を見つけたりするなんて、とても考えられない。
「はぁ…あたしは、どうしたらいいのかしらね…」
 思わず天を仰ぎ見ながら、目を閉じて…ついさっきの、九条さんとの話を思い返す。

 ここがあたしの世界の未来だと告げてきた九条さん。
 しかも、数年とかそんな単位じゃなく、数万年単位だという、人の寿命が数十年だとして、途方もない未来にやってきてしまった、というの。
 もちろん、時間移動なんて普通は…あたしの世界でも、今のこの世界でも考えられないことで、事故でそうなることがごく稀にあるかどうか、くらいのことらしい。
 ましては人為的な力によるものというのはまず起こりえないはずだっていうんだけど…それが起こっちゃったのが、今回のあたしの件だっていう。
 あたしはただわけも解らないうちに飛ばされただけだから、その力を発現したのは…アーニャ。
 彼女があたしの持ってる様な力…九条さんは魔力と表現したけど、それに加えて力を発現した者の全生命力、さらに別の何かまでをも使ってこの奇跡と呼ぶしかない事象を起こしたのでは、と九条さんは推測した。
 つまり、アーニャは自身を完全に犠牲にして、あたしをたすけた…ということになる。
 あの状況からそうなんじゃないか、とは感じてたけど…改めてそれが事実っぽいってなると、やっぱりショックは大きい。
 そんなあたしを気遣ってか、九条さんはそこで話をやめた。
「貴女がこの先どの様に生きていくか、それが決められるまで、ここにいて構わないわ」
 そしてそんな言葉をかけてくれたりと、彼女は声音や表情とかは冷たさを感じさせるもののやさしい人だっていうのが解る。
 行く当てなんてもちろんあるわけないあたしにとって、ああ言ってもらえたのはとってもありがたいことなんだけど…
「それはありがと。でも、聞かせて…どうして貴女には、あたしがこの世界から見て過去からきたとか、そういうことが解るの?」
 当事者であるあたしが全然解んないことをほぼ断言してきたんだから、気にならないわけがない。
 確かにこの人からはあたしよりずっと上だって思う力を感じるけど、それとこれとは別の問題の気もするし。
「…私は、この世界を見守る存在、だから」
「えっ、それってどういう…」
「…私が言ったことを貴女が信じられないのであれば、それは別に構わない。どの様に考え、行動するも、貴女の自由よ」
 で、九条さんはそう言うと家の中…じゃなくって、それとは違う建物に行っちゃったの。


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