終章

 ―大切な人と一緒に過ごす、はじめての夏…夏休み。
 暑さはやっぱり大変だけど、八月に入って中頃には彼女に誘われて人の熱気までもが激しい場所へ行ったりした。
 それがあたしたちにとって、二度めの旅行…いや、一度めは色んな意味で特殊過ぎたし、この今の世界の乗り物に乗ったりしての旅行ってことなら、はじめてのこと。
 そういう手段で街の外へ出たのもはじめてだったから、色々新鮮だったわね。

 ―激しい熱気に包まれた場所に行った旅行も終わり、そこから帰ってきて。
「ただいまー…って、わっ、あ、暑いです」「ただいま…さすがに何週間も閉め切ってたんだし、しょうがないわね…」
 部屋へ戻ってきてまずそんな声上げちゃうけど、あたしたちが戻ってきたのは夏休みの間過ごしてるお社の家じゃなくって、終業式の日以来の学生寮にある部屋。
「ふぅ、エアコンエアコンっと…」
 手にした荷物を置いたあの子がそう呼ばれる機械のスイッチを入れる…お社に家にはないそれはかなり強力な冷暖房装置。
 お社のほうはこれがなくってもなぜかそこまでしんどくならず過ごせるんだけど、やっぱり特別な場所だからなのかしらね…。
「さてと、それじゃ夕ごはんの時間には神社に行くとして、それまでに戦利品の確認…荷物の整理しちゃいますね」
「ん…? え、ええ、解ったわ」
 今はお昼を少し回ったくらい、そんな中でどうしてこっちへきたのかというと、旅行先であったイベントで閃那が買った荷物をこっちに置いて、さらに整理するため。
 あのイベントではあたしも行列に並んで買うのを手伝ってあげたし、そんなことするくらい彼女は結構たくさんの同人誌っていう薄い本を買ってたものね。
「あたしも何か手伝う?」
「あ〜…いえ、私だけで大丈夫です。ティナさんにはちょっと刺激の強いものもありますし」
「…ふーん」
 あのイベントで解ったんだけど、彼女はどうも、年齢的に制限かかる様な…その、過激な内容のものを買ったりしてるみたいなのよね。
「え、え〜と…あっ、そ、そうです。じゃあティナさん、私が整理してる間、ゲームしてみませんか?」
 あたしの冷ややかな視線に目を逸らす彼女、話も逸らすかの様にそんな提案してきた。
「ゲーム? 何かいきなりね…しかも、あたし一人でするの?」
 そういうの閃那がやってるの見させてもらったりしたことはあるんだけど、正直うまくできる自信ない。
「大丈夫です、アクションとかRPGとかじゃありませんから、ゲームしないティナさんでもできるはずです」
「ま、閃那がそう言うなら別にいいけど、でもどうして急に?」
「あっ、はい、イベントでアサミーナに会ったじゃないですか。そのアサミーナ、それに恋人なかなさまのデビュー作なゲームがちょうど今の時代で発売したばかりですから、それをしてもらおうかなって」
 彼女が名前をあげたのは、先日お会いした、彼女がファンとして好きだっていう声優な人…彼女の元いた世界ではこの先大変なことになるそうだけど、それはそれとして。
「あぁ、なるほど、自分の好きなものを知ってもらいたい、ってこと?」
「そういうことです。それじゃ…」
 その彼女、自分の机の側にある棚に収められた一つのゲームソフトだっけ、それを取り出すけど、この数ヶ月でこの部屋もずいぶん変わったわね。
 あたしの私物って呼べるものは何もないっていっていいくらいなんだけど、それに対して閃那はこの数ヶ月でそのゲームソフトってものとか映像や音楽、音声の収録されたものなど色んなものを部屋へ置いてく様になったの。
 最近じゃフィギュアっていうずいぶん精巧にできた人形まで飾りはじめたりしてて、何ていうか…賑やか、って感じる雰囲気になってきたかも、ね。
「…これですこれです。これをセットして、と…」
 で、その閃那は色々準備を進めてて、コントローラってのをあたしへ渡してきてその操作方法を説明してくれる。
「それじゃ、私は同人誌の整理に入りますから、ティナさんはそれを自由にやってみてください」
「ん、解ったわ」
 あたしの机の上にそのゲームの映像が表示され、一人でそれをやってみることになった。


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