で、それから三日が過ぎたんだけど、あの子はまだ帰ってこなくって。
 思った以上にあっちでのテストとかが難航してるのかしらね、ってなるけど…この数ヶ月ずっと一緒にいた大切な人がいなくなると、自然と嫌なこと考えちゃう。
 もしかすると、このまま帰ってこないんじゃ…って。
 成績が悪かったからこっちで過ごすのはやっぱりダメになっちゃったとか、厳しいこと言うあたしのこと嫌いになっちゃった、とか。
「…そんなこと、ないわよね」
 悪いこと考えちゃうたびに自分へそう言い聞かせるけど…本当に大丈夫、よね。
 アーニャと離れ離れになったときみたいに、また一人になるとか…そういう暗い夢を昨日とか見ちゃったけど、本当にまたそんなことになったりしない、わよね。
「あっ、ティナさん、お昼御ごはんができましたので、どうぞおいでくださいまし。その…元気、出してくださいましね?」
「…あ、うん、ありがと、ねころ姉さん」
 そうね、今のあたしにはねころ姉さんたちがいるから、一人に戻るってことはないけど…やっぱ、元気ない様に見えちゃうのか。

 ちなみに、閃那が元の世界へ帰ったそのすぐ後にエリスさんも元いた世界へ里帰りしちゃったから、今このお社にいるのはあたしとねころ姉さん、叡那さんの三人。
 エリスさんにはあの松永いちごさんもついていったみたいだけど、エリスさんの故郷って全く別の世界ってことよね…大丈夫なのかしらね。
 その別の世界はあたしの持ってるみたいな力が普通に存在してたりするそうで気になる…けど、ついていけるなら、やっぱり閃那の世界へ行ってみたいかしらね。
 もはや別の歴史をたどってるらしいとはいえ未来ってこともあって、同行は控えてるわけだけど…いずれは、どんな理由になるにせよ行かなきゃいけないと思う。
 そう、閃那とこれからもずっと一緒にいるなら…なんだけど、本当にそうなれる、のよね…?
「…はぁ」
 お昼ごはんを食べた後、お社の境内で掃除をしてたんだけど、また不安が大きくなってきてため息ついちゃう。
「数日離れ離れになるだけで、こんなにさみしく感じちゃうなんて、ね」
 見送ったときにはここまでこんな気持ちになるとは思ってなくって、閃那のこと大げさに感じてたものだけど…あたしも人のこと言えないか。
 それだけ、あたしにとって彼女の存在が大きいってわけで…。
「もう、さっさと帰ってきなさいよね…」
 空を見上げ、あの子とお揃いの指輪を握りしめながら、そう呟いちゃう。

 彼女にはやく会いたい。
 その気持ちが抑えられなくって、あたしの足は自然と森の中へ向かってた。
 そこはあたしたちがはじめて出会った場所で、その後も彼女が素性を隠して堂々とお社へこられなかったときにはよくそこで一緒に過ごした。
 また、異なる時間や世界からこの世界へくるときにはかならずこの森へ出ることになってるから、彼女も戻ってきたらここへ現れるはず。
「もう、閃那、あたし…」
 はやく会って、閃那がそばにいるってこと、感じたいのに…。
「閃那、会いたい…んっ…」
 彼女とはじめて出会ったあたりの木の根元へ腰かけて、彼女のことを想う。
 どんどん切なさが溢れてきて…それを埋めようと、彼女と一緒にいた時間を思い出しながら、普段しない様なことをしてしまう。
「せん、なっ…あ、んっ」
「…私が、どうしたんですか?」
 不意に、想い焦がれてた人の声が届く?
「えっ…せん、な?」
 顔を上げると、そこにはずっと会いたいと願い続けてきた人の姿が、すぐそばにあった。
 これって、幻…じゃ、ないっ?
「…んなっ!? な、なななな…!」
 どうしてこんなことになってるのかわけが解んなくって、思わず立ち上がって慌てて後ずさるけど木に阻まれてしまう。
「ティナさん…えっと、こんなところで何してたんですか?」
 そこにいたのは間違いなく閃那だったわけだけど、よりにもよってこんなとこ…!
「ちっ、違うってば…何にもしてないわよっ。せ、閃那こそ、こんなとこで何して…!」
「私は、帰ってきたらちょうどティナさんのこと見つけただけですけど…でも、私には何かをしている様に見えましたよ?」
 うっ、何でこのタイミングなのよ…!
「なっ、だ、だから、何にも…!」
「だったらどうしてそんなに慌ててるんですか? あんなに切ない声で私の名前を呼んだりして、何もしてなかったとは思えないんですけど」
「そっ、それは…う、うっさいっ、何でもないんだってばっ。そ、それより、とにかくあっちでのテストはどうだったのよっ?」
「もう、そんなことは後です…こんな場所であんなことして、私以外の誰かに見られでもしたらどうするんです?」
 話を逸らせようとしたけど通じなくって、さらにこっちへ歩み寄る彼女…あたしを抱き寄せてくる。
「ちょっ、せ、閃那っ?」
「そんなに恥ずかしがらなくっても、いいんですよ…さみしかったのは、ティナさんだけじゃないんですから、ね?」
 彼女のぬくもりを直に感じて、その言葉を素直に受け入れていいって感じる。
「え、ええ…おかえり、閃那」
「はぅ、ただいま、ティナ…」
 それ以上は言葉にならなくって…互いの唇を重ね合わせた。

 お互いのさみしさを埋めるかの様に、どのくらい長く、熱く…口づけしてたかしら。
 閃那はさらに色々抑えられなさそうな様子で、あたしも正直なところ…ではあったけど、さすがにこんなとこじゃあれだし、気持ちを落ち着けて。
「…で、テストとかのほうはどうだったのよ?」
 森の中をお社へ向け戻る中、手を繋いで歩きながらそうたずねる。
「あはは、それは何とか…帰りが遅くなったので察してください」
 やっぱり遅くなったのはそういうことだったのか…全く。
「はぁ…これはやっぱり、夏休みはしっかり勉強しなきゃダメかもね」
「えぇーっ、やめてください、夏休みはティナさんと一緒にいっぱい楽しい思い出作りたいですー!」
「…ま、ずっと勉強とかはさすがに言わないから。あたしだって…閃那と楽しいこと、したいしね?」
「ティナさん…はいっ」
 嬉しそうに腕にぎゅってしがみつかれちゃって…暑いけど、でも幸せって気持ちが伝わってくるからいいか。
 うん、これからも一緒に、幸せに過ごせていけるといいわね。
「えへへ…それに、さっそく夏休みのいい思い出、できちゃいました」
「ふぅん、そうなの?」
「はいっ。さっきはびっくりしましたけど…うふふっ、あんなティナさんが見られるなんて」
「…んなっ? あ、あれは…さ、さっさと忘れなさいっ」
 もう、ものすごく嬉しそうに何を言い出すのかと思えば…!
「無理です、私の心のアルバムに永久保存しましたから、絶対忘れませんっ」
「や、やめなさいってば…!」
「もう、そんな向きにならなくっても…大丈夫です、帰ったら私のも見せてあげますから」
「んなっ、ばっ、バカなこと言わないのっ」
 本気でそんなことしないわよね、もう…!
 でも…こんな変なこと言い合ってても楽しいって感じるあたしがいて、不思議だけどそれだけ彼女のことが好きってことなのかしらね。
 これからの長い夏休み、そしてその先も…よろしくね、閃那、大好きなんだから。


    (第7章・完/終章へ)

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