「うぅ、せっかくの夏休み初日なのに、ティナさんと離れ離れになっちゃうなんて…さみしいですー!」
 ずっと一緒に、とはいえ一時の別れってのはあるもので、そういう機会が思いのほかはやくやってきた。
 彼女の言葉通り、今日から学校は夏休みっていう一ヶ月以上にもなる長い休みに入り、同時に梅雨も明けていよいよ本格的な夏が訪れることになっちゃって、今いるお社の境内はまだ比較的ましとはいえ、それでもかなりの暑さ…学校が休みなのは正直たすかる。
 で、彼女がどうしてあんな声上げちゃったのかといえば、この夏休み初日、朝ごはんを食べ終えて早々に元の世界へ帰ることになってるから。
「もう、そんなこと言ったってしょうがないでしょ。そういう約束で、閃那はこっちの学校通わせてもらってるわけだし」
 あたしはそんな彼女を見送るために一緒に境内に出てきてる。
「それはそうなんですけど…ううぅ、やっぱり何日もティナさんと離れ離れになるなんて、つらすぎます」
 あたしたちがこんな関係になって以降、あっちに彼女が日をまたいで帰るってのははじめてかもしれないわね。
「大げさなんだから…ずっと離れるわけじゃないし、それに家族と一緒に過ごすわけなんだから、それはそれでいいでしょ」
「そ、それはそうですけど…いつ帰ってこられるか、ちょっと解らないですし…」
「…は? どうしてそうなるのよ?」
「いえ、それは、そのぅ…」
 言いづらそうにもじもじされちゃった。
「解んないわね。今回帰るのって、一学期の間ちゃんと勉強してたかって確認してもらうためなんでしょ? 特に問題になる様なことはないと思うんだけど」
 その学期が終わったところで帰って成績を報告するとともにテストもする、ってのが閃那がこっちで学校へ通うにあたり出された条件。
 まぁ、親の目の届かない状態になるわけだから、このくらいは当たり前なのかなって感じる…と。
「じ、実は、成績あんまりよくなくって…出されるテストも自信なくって、だからなかなかこっちに帰してもらえないかもしれないんですぅ…」
「…は? ちょっと、成績表見せなさいよ」
「は、はいぃ…」
 おそるおそるって様子で鞄からそれを出して差し出してくる彼女…これは名前のとおりなものなんだけど、そういえば閃那のは見させてもらってなくって、それどころかテストの結果も見たことなかったっけ。
 あたしと一緒にテスト勉強とかもしてたから特に問題ないでしょって思ってたんだけど、その彼女の成績表を見てみると…。
「…何よこれ、何でこんな…。いや、閃那のこと悪く言いたくないけど、でも…どうしてよ?」
 思った以上にその、よくない感じになってて言葉を詰まらせちゃう。
 美術とかの成績はさすがってとこなんだけど、一般科目が…あたしと一緒に勉強もしてたはずなのに、どうしてそのあたしよりかなり悪いのよ…。
「え〜と、それはですね、その、元々勉強は苦手っていうか…。それに、毎日ティナさんと一緒なので浮かれちゃって…てへっ」
 かわいく微笑まれちゃうけど…いやいや、さすがに誤魔化されないから。
「はぁ…気持ちは解るけど、でも閃那の親なあのお二人が信じてこっちで生活させてくれてるのに、それじゃダメでしょ」
「はぅ、返す言葉もありません〜…」
「これからはもっとしっかりしてもらわなきゃだけど、でも今はもうどうしようもないから、帰ってお二人に現状を正直に見てもらいなさい」
「え、えぇーっ、でもエリスままはこういうことすっごく厳しいですし、帰してもらえないかもですよ〜」
 教育に関してはそうなんだ…ちょっと意外かもね。
「それは…ちゃんとしてこなかった閃那が悪いんでしょ? 待っててあげるから、しっかりやってきなさいよね」
「は、はいぃ…」
「それと、帰ってきたら毎日ちゃんと夏休みの宿題もやるから。この分だと、そっちも疎かになりそうだしね」
「え…えぇっ? うわーん、ティナさんが厳しいですー!」
 泣き言言われちゃったけど、こんな成績になる状況で放っておいたら彼女の世界のお二人に申し訳ないから。
「じゃ、気をつけて行ってらっしゃい」
「あぅ…い、いってきます〜」
 しょんぼりした様子で光に包まれ、姿を消す彼女。
 ちょっと言い過ぎたかな…でも閃那のためなんだし、本当、しっかりしてきてよね。


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