日の出てる間ずっと横になって休んでる、とかこれまで他にはこっちにきた直後くらいかもってくらいで。
 そんな甲斐あってか、夜には体調もずいぶんよくなってた。
「あっ、ティナさん、外に出たりして…大丈夫なんですか?」
 夜のお社、境内はまだ涼しいほうだから外に出てたんだけど、そのそばの森から閃那が出てきたの。
「あぁ、閃那、おかえり。大丈夫、もう問題ないわよ」
「本当ですか? 油断は禁物ですけど…でもティナさんに少しでもはやく会えて嬉しいです、ただいまっ」
 あたしの側へ歩み寄って微笑んできたりし、かわいいんだから。
「で、向こうでちゃんとエリスさんの…誕生日だっけ? そのお祝いしてきたの?」
「はい、それはもちろん、ままたちも相変わらずラブラブでした」
「ふ、ふぅん、そっか」
 どうにも、未来…閃那の元いる世界なあのお二人の様子、ってのが想像できないのよね…。
「ちょっと帰りが遅くなっちゃいましたけど…こちらのエリスままのお誕生日パーティ、もう終わっちゃいました?」
「あぁ、ちょっと前に終わったみたいね。途中から参加するってのも気が引けたから、あたしは出なかったけど…この前の、松永いちごさんだっけ? その人もきてたみたいね」
「えっ、いちごさんが? こちらのお誕生日パーティにもきてくれましたけど、それはちょっと気になるかも…あぁ、でもやっぱりちょっと顔は合わせづらいかも」
 向こうでも面識あって、でも事情を説明できない人に対してはそうなっちゃうものなのかしらね…。
「パーティには出られませんでしたけど、あとでお祝いはしに行きましょう」
「ん…ま、そうね」
 と、あの子、あたしのことじっと見つめてくる?
「…な、何よ?」
「昨日から感じてたんですけど…ティナさん、お誕生日を祝うって習慣、なかったりします?」
「あ…あぁ、そのことか。そうね、あたしの元いた国じゃ、そういうのなかった…生まれた日付、ってのも特に記録したりしてなかったし」
 正確な日付解んなくっても年齢は大体数えられるし、特に困ることないしね。
「うーん、それはもったいないです…誕生日はその人にとって年に一度の特別な日なのに。ということは…ティナさんの誕生日、って全然解らないんですか?」
「そうね、解んないわ」
「うぅ〜っ、せっかくお祝いしようと思いましたのに、やっぱりもったいないですー! いつくらいだとか、大体でも解りませんか?」
「…まぁ、解んないわね」
「そんなぁ…もう適当に決めちゃうしかないでしょうか。あ、そうです、私がティナさんの生まれた日に時間移動して確かめてくれば…!」
「んなっ、いくら何でも、そんなことのためにそんな無茶するのはやめなさいってば」
「そんなこと、じゃない問題ですけど…でも、さすがにそれは冗談です」
「そ、そうよね…」
 数万年単位の時間移動なんて正確な時間へ移動できないわけだし、そもそもあたしがいつ生まれたのか解んないわけだから…まぁ、無茶な話。
「あぁ、でも小さい頃とかのティナさんも見てみたいです、きっとものすごくかわいいんでしょうねぇ」
「何言ってんのよ…」
 本当に、冗談よね…ちょっと不安になってきたかも。
「解んないものはしょうがないんだから…それより、閃那の誕生日はいつなの?」
「えっ、私のですか? 私は十二月二十五日です…えへへ、クリスマスな上に叡那ままと同じなんですよ」
「ふぅん、そっか、ありがと…まだ当分先か」
 クリスマス、ってのは解んないけど、母親と同じってのはかなりの偶然な気がする。
「私の誕生日を聞いたりして…もしかして、お祝いしてくれるんですか?」
「…ま、そりゃね? 特別な日、なんでしょ?」
 あたしの知らない習慣だったけど、でも話を聞いてみれば祝う感覚は解るし…解るからこそ、大切な人の生まれた日はしっかり祝わないと、ね。
「わぁ…ありがとうございます、ティナっ」
「別に…って、ちょっ」
 あの子ってば、勢いよくあたしへ抱きついてきちゃった。
「今から誕生日が楽しみです…えへへ、やっぱりティナさん、大好きっ」
「わ、解ったから、落ち着きなさいってば…!」
 まさかこんなに喜ばれるとは、ちょっと想像してなかった。
「も、もう、ほら、今日のところはエリスさんの誕生日でしょ? 学生寮へ帰る前に声かけないと…!」
「…あ、そうでしたっけ。ティナさん病み上がりですし、しょうがないですね」
 抱きつかれるのは嫌じゃないけど、落ち着かせるってことで引きはがしちゃう。
「じゃ、さっそく…」
「…あっ、待ってください。その前に…そら、あそこの短冊に願いごと書いていきましょう」
「あぁ、そういえばまだ書いてなかったっけ。当日になっちゃったし、そうね」
 彼女が目を向けた先…境内の一角に切った竹が立てかけてあって、そのそばには色鮮やかな短冊の置かれた机が設置されてるの。
 ちょっと前に説明してもらったところによるとこれは七月七日、つまり今日行われる七夕っていう伝統行事で、竹…笹に叶えたい願いを書いた短冊を吊るすのだそう。
「クリスマスが誕生日な叡那ままもですけど、七夕なエリスままも素敵ですよね」
「でも、閃那だって叡那さんと同じ日が誕生日なんでしょ?」
 短冊のある机へ向かいながらそんなやり取り。
「それはそうなんですけど、ね…そういえば、アサミーナは三月三日でかなさまは八月八日でしたし、結構ぞろ目な誕生日のかたいますね。ティナさんもぞろ目にしちゃいます?」
「いや、そんなの別にどうでも…」
 しかも誰よ、その人たちは。
 そんなやり取りしてる間に机の前にたどり着いて。
「意外と短冊ついてますね」
「そう、みたいね」
 足を止めた彼女の言葉通り、笹にはどうかしらね、十を越えるくらいの短冊がついてた。
 一人一つのはずだから、お社にいるみんな以外の人も何人かここにきて、ってなるか…ここってほとんど人こないけど、でも全然ってわけでもなかったりする。
「せっかくですし、ちょっと見てみましょうか」
「いやいや、それはダメでしょ」
「もう、ティナさんはやっぱり真面目なんですから」
 そうはいったって、自分の書いた短冊が知らないうちに誰かに、って考えると嫌だし。
 さて、それはともかく、願いごとか…もちろんいかに叡那さんのお社といえど、書いたことが何でも叶うとかじゃなくって願掛けってとこよね。
 とはいえ、あたしって今の時点でもう十分、望みうる限りで最大限に満たされてるし…そう、ね。

「ティナさんは願いごと、何て書いたんですか?」
 お互い短冊に願いごとを書いて、笹にそれをつけて…あの子がそうたずねてくる。
「ん…ま、内緒かしらね」
 別に隠す必要はなかったんだけど、ちょっと恥ずかしかったこともあってそう返す。
「えぇーっ、そんなぁ…いいです、書いたの直接見ますから。えっと…えっ、もうっ、あんな高いところにつけたりして、ひどいですー!」
 別にそういうつもりはなかったんだけど結果的にそういうことになってて、背伸びをして取ろうとした彼女が頬を膨れさせちゃう。
「全く、かわいいんだから…そういう閃那は何て書いたのよ?」
「えっ、もう、かわいいだなんて、そんなのでほだされませんから…えへへ。私は決まってます、ティナさんとずっと一緒にいられます様に、です」
「ふ、ふぅん、そっか」
 ま、そうよね…考えることはやっぱり一緒か。
「…ティナさん? どうしました?」
「べ、別に、何でも…ほら、あんまり遅くなっちゃうといけないし、そろそろエリスさんのところ行くわよ」
「わっ、ま、待ってください、ちょっと心の準備を…!」
 家へ向かうあたしの後を慌てて追ってくるあの子…ちょっと冷たい態度しちゃったかもだけど、でも内心では嬉しさや幸せでいっぱいだったりする。
 あたしと彼女、同じことを願いごとに書いちゃうくらいなんだから、この先もずっと一緒にいられるわよね。


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