第七章

 ―あたしがこの時代へやってきてからはじめての夏がやってきた。
 こっちへ飛ばされてきてから一番、とまではいわないけどかなりの不安を感じてた要素、つまり元いた時代よりずっと気温の高い日々が、結構な期間続くことになる。
 これからずっとこの世界で生きてくうえでこれは避けられないから、力とかに頼らずに何とか乗り切るしかない。
 …いや、将来のあたしはこの世界で暮らすのか、あるいは大切な人の生まれ育った世界で暮らすのか、そこはまだはっきりしないけど、暑さに関してはどっちも変わんないってことだそう。

「今日は待ちに待った日、梅雨の合間で晴れてよかったです」
 ―もうすぐ七月を迎えるっていう中での体育な授業、ずいぶんわくわくした様子な彼女。
「そ、そう? 晴れるとより暑いから、あたしはあんまり…」
 外にいるってことで陽射しがきつい。
「大丈夫ですって、もうすぐ水に入るんですから涼しくなります」
 彼女の言う通り、今日の体育はプールっていう大きな水槽で泳ぐ、って授業…夏はこの授業があるらしく、今年はこれがはじめて。
「あたしは泳げるか不安ね…そんなこと、今までしたことないし」
 元いた時代じゃそんな習慣なかったし、こっちへきてまた一つはじめてなことをすることになった。
「大丈夫です、私は少しだけ泳げますから教えてあげます」
「あ、ありがと…でも、少しなの? ずいぶんこの授業楽しみにしてるみたいだから、泳ぐの得意とか大好きとか、そういうことじゃないの?」
「あ〜…そんなの、ティナさんの水着姿を見られるのが楽しみだから、に決まってるじゃないですか!」
「…は?」
 力説された上にじっと見られてこっちが戸惑うんだけど、水に入るのに水着って専用の服…っていっていいのかよく解らない、ともかく今はそんな格好になってる。
「学校指定の水着は地味ですけど、ティナさんが着るとやっぱりかっこいいですねぇ。抜群のスタイルがより際立って見えて素晴らしいです」
「な、何意味解んないこと言ってんのよ…」
 そういえば彼女はあたしが色んな格好するのを見るのが好きだったわね…にしても、熱い視線向けてきたりして恥ずかしさを覚えるくらいなんだけど。
「意味解らないわけないですっ。現に他の皆さんだってティナさんの水着姿注目してますから…そうですよね?」
「は、はい、もちろんです」「閃那さまのおっしゃる通りですわ」「本当、見ほれてしまいます」
「んなっ…」
 他の人たちの反応にあたしはまた固まっちゃう…いや、だから、何か恥ずかしいってば。
「そういえばティナさま、水着の授業でも髪をおろさないのですね」「あ、そう言われると…リボンが濡れたりしますけど、よろしいのですか?」「ティナさまが髪をおろしたところ、そういえば見たことないですわ…」
 で、どうやら今の髪型のまま水に入るのはちょっと不自然らしい…お風呂のときとかはといてるから解らなくもない。
「ま…まぁ、このままでいいわよ」
 でも、あたしとしてはそう答えるしかない。
 あんまり似合わない気もするリボンつけてツーテールにしてるのは、頭のあの耳を誤魔化すためだしね…ねころ姉さんみたいに堂々と出せばいい気もしなくもないけど、ね…。

 色々恥ずかしい思いはしたけど、肝心な水泳の授業は案外問題なくって。
「やっぱりティナさん、運動は何でもできちゃいますね…もう私が教えることは何もないです」
 プールサイドで一息ついたところで閃那がそんなこと言ってくるけど、確かに泳ぎは思ったより簡単だったかも。
 ちなみに、今日ははじめてのプールでの授業ってこともあってかほぼ自由行動になってて、その機会に泳ぎを教えてもらったってわけ。
「ティナさん、泳ぐのどうでした? 楽しかったですか?」
「ん、そうね、悪くなかったんじゃない? 水に入るの結構気持ちいいし」
 暑い中だとよりそう感じる。
「それはよかったです。それじゃ、プライベートでも海やプールへ遊びに行きませんか?」
「ま、別にいいんじゃない?」
「わーいっ、それじゃ今度水着を買いに行きましょうねっ」
 軽い気持ちで返事したのにかなり喜ばれちゃった。
「何よ、この水着でいいんじゃないの?」
「ダメですっ。確かに今のティナさんもいいですけど、そんなのもったいないですっ」
「わ、解ったわよ、全く…」
 妙に力説されちゃったけど、彼女があたしの格好にこだわるのはいつものことだものね…。
「それじゃ、まだ時間ありますし、もうちょっとプールを楽しみましょう」
 彼女、そんなこと言ってあたしの手を取りプールへうながしてくる。
「ま、いいけど、ずいぶんはしゃいでるわね」
「そりゃそうです、今のうちに楽しめるものは楽しんでおかないと、もうすぐ…」
 と、彼女の表情が曇っちゃう?
「何よ、もうすぐどうしたの?」
「いえ、もうすぐテスト…あぁ、言わせないでくださいー!」
 あぁ、なるほど、そういうことか。


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