ともかく浴衣に着替えたあたしと閃那の二人、時間も十分あって急ぐこともないから歩いて町へ向かうことにした。
 叡那さんとねころ姉さんは行く予定はないみたいで、エリスさんは夏休みに入ってからは里帰りしてることもあって二人きり。
「家族以外でお祭り行くのはじめてですし楽しみです」
 他に人の姿のない田畑の間にある道を歩く中、手を繋いで隣を歩く閃那がそんなこと言ってくるんだけど、あたしは完全にはじめてになる。
「お祭りといえば…あぁ、残念です」
 って、いきなりため息ついてきた?
「何よ、いきなり」
「いえ、ちょっと…ううん、とっても残念なこと思い出しちゃったんです。私が返ってくるのがほんのもうちょっとはやかったらアサミーナとかなさまの初ライブのあるお祭りに行くことができたかもしれないのに、って」
「…誰よ、それは」
「誰って、私が一番大好きな声優さんたちですっ。ちょうどこっちの時代でまさに今発売したゲームがデビュー作でして…」
 熱弁する彼女だけど、そういえば何かゲームってのを最近熱心にやってたっけ。
「…まぁいいです。それは返す返すも残念ですけど、来月会えるはずですからそっちを楽しみにしておきます」
「ふぅん…」
「何他人事みたいな反応してるんです、ティナさんも一緒に行くんですからね」
「…は?」
 ちょっと戸惑っちゃったけど、どうも来月一緒に行くって約束した東京方面への旅行に関係するみたい。
 世界一周したときは魔法で空飛んでったけど、それはそんなことせず今の世界の手段で行くことになってるからはじめての遠出ってことになるのかしらね。

 今日はそんな遠出じゃなくって、いつも通ってる学校のそば、今の世界の基準では小さいらしい町の一角。
 お店などの建ち並んでる、あたしもこれまで何度かきたことのある場所が普段とは違った様子になってた。
「何かさらに小さなお店ができてる?」
「はい、あれは屋台っていってお祭りのときに出る出店ですよ」
 普段のお店の前にそんなものがたくさん並んでた。
「人も結構いっぱいいるわね…こんなたくさん人がいるの、全校集会とか以外だとはじめて見るかも」
 お店のある通りは普段は歩道と車道に分かれてて車道はもちろん自動車の走る場所になってるんだけど、今日は歩道が屋台で潰れてるためってわけでもないだろうけど車道を人が歩く様になってる。
 で、そこを歩く人や屋台を見る人たちでかなり賑やかになってて、こんな賑やかなの見るのはそうそうなかったことかも。
「何ていってもお祭りですから。でも、来月私たちが行く場所はもっとずっと、比較にならないくらい人ごみになりますからここでちょっと慣れといてくださいね」
「そ、そうなの…」
 東京のほうは人が多いってのは解ってるんだけど、それでもそれはどんなのなのか…今までのあたしの送ってきた過去もあって、人が多い場所ってのは確かに慣れてないしちょっと苦手かも。
「大丈夫ですよ、こうやって私が一緒にいますから」
 そんなあたしの気持ちを見透かされたのか彼女がぎゅっと手を握ってきた。
「浴衣姿のティナさんは素敵で周囲の視線も集めちゃいがちですけど、私が一緒ですからそんな人たち近づけさせませんし!」
「…は?」
 確かにここにきてからちょっと視線を感じたりするけど、それは閃那のこと見てるんでしょ…。
 それに、そういう視線も感じるだけでそれ以上のことは何も起こらなさそうだし、もしも何かあってもあたしが閃那を護るから…ってちょっと目が鋭くなりすぎたみたいで、こっちを気にしてきてた人の一人と目が合ったら逃げる様にどっか行っちゃった。
「…そういえば、これだけ人がいるけどあたしたちの学校の生徒はいなさそう、かもね?」
 普段の学校での様子からいたら声かけられそうな気もするんだけど、そんなこともない。
「それはそうかもですねぇ…学校の皆さん、寮生がほとんどですし、そんな人たちはほとんど帰省してたりしますからこっちにいる人はほとんどいないと思います」
 そうそう、みんな結構遠くからきてるみたいで、そのために学生寮に入ってっるみたい…あたしみたいに家がこの町にあるのに学生寮に入るってのは珍しいのかもね。
「まぁ他の人のことはどうでもいいじゃありませんか、お祭りを楽しみましょう」
「…ま、それもそうね」
 とはいえ、私にとってはじめてとなるものだから、何をどうすればいいのか全然解んない。
「じゃ、閃那、何するかは任せるわ」
「はい、任されましたっ」
 満面の笑顔を向けられた…けど。
「…でも、さっきも言ったみたいに私も家族以外の人とお祭りとかくるのはじめてで…」
 ちょっと顔を曇らせてしまう。
 彼女が元いた時代だとかなり特別扱いされてたみたいであたしほどじゃないにしても孤独だったみたいだものね…。
「…そんなの気にしないで閃那がしたい様にすればいいでしょ。あたしも付き合ってあげるから」
「ティナさん…はいっ。それじゃさっそく…」
 彼女はまた笑顔になって、繋いでる手を引っ張ってくるのだった。


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