第7.5章

 ―夏休みを迎えて、そして閃那が戻ってきてちょっとたって。
 叡那さんの家のほうで過ごしてるから、暑さも何とかなってるかしらね。
「ティナさんティナさん、今日は町のほうでお祭りがあるんですよ」
 朝食を終えて宿題をしてると、起きてきた閃那がそんなこと言ってきた。
 ちなみに、あたしは普段通りに起きてるけど、彼女はお昼前まで寝てることもある…まぁ、休みだしゆっくりしたいってのをあえて止めたりはしない。
「何よ、いきなり…っていうより、何よそれは」
 初耳なことだったからそう聞き返すけど、それに対して彼女が説明してくれたところによると…っていっても詳しくは話してもらえなくって、要するに特別な催しっぽいわね。
「せっかくですから一緒に行きましょう」
「ま、別にいいけど」
 断る理由はなかったからうなずき返す。
「えへへ、よかったです。じゃあさっそく、浴衣を用意しないといけませんねっ」
「何よ、それは」
「お祭りといったら浴衣、って決まってるんですっ」
 力説されたけど、そんなの知らないってば。
「…あ、でもいきなり用意するってなっても、ちょっと急すぎて持ってないです。うかつでした、今から買いに行きますか?」
「…は? よく解んないけど、ないならそんな無理しなくってもいいんじゃない?」
「そういうわけにはいきませんっ。あっ、そうです、もしかしたら…」
 何か思いついたみたいだけど、あそこまでこだわってるんだし、まぁ任せてみようかしらね。

「えへへっ、何とかなってよかったです。ねころさんに感謝です」
 嬉しそうなあの子だけど、そんなあたしたちはすでに浴衣ってのに着替えてて。
「確かに、そうね…まさかこういうときのために準備してたとか、サイズとかも相変わらずぴったりだしやっぱさすがね」
 自分で着てみた浴衣に目をやるけど、サイズとかそういうのは違和感なくって、裁縫とかそういうことに関するねころ姉さんの手際の良さには本当感心する。
 で、浴衣ってのは何なのかってとこなんだけど、いつも叡那さんが着てたりする和服よりちょっと薄手で涼しげな感じな服ってとこかしらね。
 デザインも結構鮮やかできれいに感じるもの、なんだけどもそれだけに… 「…これ、あたしが着てても大丈夫? 似合ってないとかありそうなんだけど」
 ちょっと不安になったことを思わず口にしてしまった。
「もうっ、そんな心配いりませんっ。ティナさんとってもよく似合ってます、かっこかわいいですっ」
 それに対してあの子は熱い視線を向けてきながら熱弁してきたりして…
「う、うっさい、そんなこと言う閃那のほうがずっと似合っててかわいいでしょっ?」
 恥ずかしさのあまりちょっと語気が荒くなっちゃったけど、あの子に浴衣がよく似合ってるってのは間違いない。
「そうでしょうか、私みたいなちんちくりんが着てると子供っぽく見えるんじゃないかなって思っちゃうんですけど…」
 相変わらず、閃那は自分の容姿に自信がないみたいね…いや、それはあたしも人のこと言えないのか。
「でも、ティナさんの浴衣姿は本当に素敵で期待どおりです」
 あの子、そんなこと言いながらあたしに近づいてくる。
「そ、そう、えっと、ありがと」
「いえいえ、でもこんな素敵なティナを目の前にするとちょっと我慢できそうにないかも…」
 さらに近づいてくるあの子の息がちょっと荒くなってる…って!
「ちょっ、お、落ち着きなさいよねっ? 今からお祭り行くためにこれに着替えたんでしょっ?」
「…あ、そうでした。しょうがないですね…何とか我慢します」
 我慢するじゃないわよ、全く…あたしだって、浴衣姿の閃那に迫られてちょっとどきどきしちゃったんだし。


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