エリスさんの気配は学校の敷地内、でも外からしたから校舎の外へ出ることになった。
 雨の多いこの時期、今日もずっと雨が降ってて、閃那が傘を差してあたしがそこへ一緒に入る…いや、あたしも一応傘は持ってるんだけど、閃那がこうしたいっていうから。
 で、エリスさんの気配だけど…林の中から感じられる?
「こんなとこで、雨の中何してるっていうのかしらね…」「行ってみましょう」
 ぬかるみに気をつけて林の中を歩いてくと…やがて、木々の間に傘を差した数人の人影があるのが目に留まった。
 その中の一人はエリスさんだったんだけど…そこでの光景に、あたしたちは思わず少し離れたところで足を止めてしまう。
 いや、だって、エリスさんを数人の生徒が取り囲んでたかと思うと、その間に一人の生徒が傘も差さずにエリスさんをかばうかの様に割って入って、取り囲んでた生徒たちは立ち去ってったものだから。
 で、残されたエリスさんとその生徒はしばらく何か話してたみたいだけど距離があって内容までは聞き取れず、そのうちにエリスさんが走り去っちゃった。
 ただ、別に言い争いの結果とかじゃなくって、むしろその二人からは親密そうな雰囲気すら感じられたの。
「…どうやら、私たちが何かしなくってもよかったみたいです」
 閃那も同じ様に感じたみたいで、残された人が歩き去ってくのを見届けながらそう言ってくる。
「みたいね。まだ変な嫌がらせとかあるなら考えないといけないけど、もう大丈夫な気がする」
 取り囲んでたのが変なことしてた人たちだろうけど、割って入った人に言い聞かされた…様に見えた。
「あとからきた人、エリスさんの友達かしらね」
 学校でのエリスさんの様子全然知らないわけだけど、変なことされてる一方でいい友達もいるみたいで、そこはよかったわね。
「うーん、友達以上に見えた気もしますけど、でもあの人、どっかで見たことある気がします…」
 一方の閃那はその人についてなにか思い当たるところがあるらしく考え込んでしまう。
 友達以上って、親友ってとこなのかしらね…ともかく、さっきの人はずいぶんかわいらしい印象受ける人だったけど、今まで会ったことはない人だったはず、多分。
「…あ、あーっ! そうです、さっきの人、あのかたですっ」
「んなっ、何よ、突然」
 不意に大声出されたものだからこっちもびっくりしちゃう。
「あっ、ごめんなさいっ。でも、さっきの人が、間違いなくあのかたみたいで…!」
「もう、落ち着きなさいってば…誰だっていうのよ」
「誰って、声優の松永いちごさんですっ。エリスまま、いちごさんと友達だって言ってましたけど、この頃からだったんですねぇ…」
 ちょっと感動した様子な彼女だけど…えーと?
「…あ、ごめんなさい、一人で盛り上がっちゃって。つまりですね、今の人は私の時代ではアサミーナの後輩という意味でも有名な声優になっている、そしてエリスままと友達だっていうかただったんです」
 戸惑うあたしに気付いてちゃんと説明してくれた。
「なるほどね、作家の人と同じ様な人ってことか。でも、エリスさんと未来でそんな関係だっていうのなら、閃那も実際に会ったことあるんじゃないの?」
「あ、はい、少しだけですけど。だからこそ、藤枝先生より直接顔を合わせづらいかも、こっちでは」
「そんなものかしらね…」
 で、声優ってのはアニメとかで声をつけてる人のこと、なんだっけ。
「…なら、エリスさんがアニメとか好きになったきっかけって、あの人なんじゃないの?」
「あ…言われてみれば、その可能性あります、むしろ高いくらいです…どうして 今まで気づかなかったんでしょう」
 全く、やっぱりちょっと抜けてるとこがある気がするわね。
 でも、そんなことが解ってちょっと気がすっきりしたし、何よりエリスさんのよくない問題もその人のおかげで解決したみたいで安心したわ。


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