六月も中頃に入って、梅雨っていう雨の多い時期になって。
 暑さも厳しくなってきて、だから制服も夏服っていう多少涼しいのに変更されたけど、気休めよね。
 この先もっと厳しくなるっていう暑さもかなり気がかりだけど、今はもっと気がかりなことがあるの。
「エリスさん、やっぱ何かあったのかしらね…気になる」
 学校での休み時間、そんなこと呟いちゃう。
「そう、ですね…ティナさんや叡那ま、お姉さまがたずねても何もないとは言ってきてますけど、ここ最近元気ないのは明らかですし」
 閃那も気づいてたけど、気がかりってのは最近エリスさんの様子がおかしい、ってこと。
 家では何でもないって言っててそういう風に振る舞ってるけど、何か元気がないっていうか、思いつめてるみたいにも見える。
 でも、家で一緒にいても特に心当たりとかは思い当たらなくって…。
「…ね、ちょっと聞きたいことあるんだけど、いい?」
 学校で何かあったんじゃ、ってことでひとまずクラスメイトに声かけてみた。
 エリスさん自身は何にも話してくれなんだけど、あたしにとって家族みたいな人だから…心配になるのよ、どうしても。
「あっ、はい、ティナさまにお声かけしていただけるなんて嬉しいです」「私でよろしければ何なりと」
 声かけてきた子たちは相変わらず大げさ…あたしと閃那が浮いた存在ってのも変わんないのよね。
「ありがと。貴女たち、別のクラスにいる冴草エリスさんって知ってる? 知ってたら、最近彼女に何か変わったことなかったか教えてもらいたいんだけど」
 本当はエリスさんのクラスに行ってそこの人たちに、がいいんだろうけど、別のクラスなんて行ったことないしだからまずは同じクラスの人に、ってわけ。
「えっ、冴草さん…ですか?」「い、一応、話くらいは…ですけど、ティナさま、あの人と何か関わりあるんですか?」
 妙に戸惑われたわね…他のみんなも一気に聞き耳立てるみたいになっちゃったし。
「ええ、友達だけど、それで?」
 家族って答えると説明が面倒になるからこう答える…これでも間違ってないしね。
 で、もっとややこしい関係な閃那は聞き役に徹してる。
「お、お友達なんですか?」「でも、お姉さまががたとの噂を聞くと、それもそうなのかも…」
 ん、驚かれた上に何やらひそひそと話しはじめられちゃった?
「どうしたのよ? 何かあるならはっきり話してもらえない?」
「は、はい、ティナさま、実はその…」
 ものすごく話しづらそう、っていった様子なんだけど、何だというのか。

「閃那、アルバイトはいいの?」
「はい、それどころじゃないです…ままにいじめを働くとか、そんなの許しておけるわけないですし」
 放課後を迎えたんだけど、閃那はちょっと怒り気味…かくいうあたしも気分悪い。
「嫉妬、なのかしらね…どうにもあたしには理解できないけど、そんなのが原因で嫌がらせとか、もっと意味解んないしほっとけないわね」
 そう、さっきの休み時間にクラスメイトから聞いた話は、ちょっとあたしには理解しがたい、そして不愉快なものだった。
 何でも、叡那さんとねころ姉さんのお二人とエリスさんも一緒にお昼ごはんを食べてるのを見た一年生の生徒が、それを気に入らないってことでエリスさんへ嫌がらせをしているっていう。
 話を聞いた子たちはそんなことしてなくって噂に聞いた程度、そんなことしてるのは一部の人だけだっていうけど…ねぇ。
「エリスままにいじめだとか、絶対許せません。介入はしないって思ってましたけど、こればかりは見過ごせないです」
「そうね、あたしも…絶対余計なお世話だって言われそうだけど、でもほっとけない」
 正直、エリスさんならそんな意味不明の嫌がらせなんて気にしない、あるいは自身で何とかしちゃいそうな気がしなくもないんだけど、話を知っちゃった以上は何もしないなんて考えられない。
 かといって休み時間にエリスさんのクラスに乗り込んで、ってのは色々話が大きくなるから最後の手段として、まずは放課後に何かないか探すことにしたの。
 何かって何、ってなっちゃうけど、エリスさんって放課後学校で何かしてるっぽくって、それも何か関係してるんじゃないかって思ったわけ。
「う〜ん、いませんね…」
 でも閃那がそう呟いちゃう通り、校舎中を一通り見て回ってもエリスさんを見つけることはできなかったの。
「いつもどこ行ってんのか、全然解んないものね…学校にはいないって可能性もあるか」
 ちょっと困っちゃったけど、なら…いつか閃那を探したときと同じ方法、してみるか。
「エリスさんの気配を探ってみましょ。ほら、閃那もやってみてよね」
「えっ、それは…空飛ぶのと一緒で、私そういうの苦手です」
 もう、しょうがないわね…あたしは一人目を閉じ、精神を集中する。
 そんなあたしを応援するってことか、あの子はあたしの手をぎゅって握ってくれて…そのおかげもあり、エリスさんっぽい気配を感じ取ることができた。


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