どのくらいそうしてたかしらね。
「閃那、もう大丈夫?」
「はい、ティナさん…えへへ、幸せです〜」
あの子、微笑みながら甘える様に頬をすり寄せてきたりして、さっきの不安は消えたみたい。
「えへへ、このままずっとこうしていたいです」
そうね、あたしもとっても幸せを感じてるし、そうしていいんだけど…。
「ん〜、じゃ、あのアニメを観るのはまた次の機会にしとく?」
静止状態なままの映像が目に留まったからそうたずねてみる。
「そうですね、ちょっとそんな気分じゃなくなっちゃいましたし、またにしときますか」
彼女、ちょっと身を起こして映像を消しちゃう。
「にしても、さっきはちょっとびっくりしたわね」
「…って、ティナさんったらまたその話ですか? 私はちょっとどころじゃ…」
「あぁ、いや、そのことじゃなくって。エリスさんがあの魔法少女なアニメのこと知ってたことがよ」
そう、これが意外でちょっとびっくりした…んだけど。
「えっ、エリスままでしたらそのくらい知ってて当たり前ですよ」
「…は? 当たり前って…」
彼女の反応がまた意外なもので戸惑っちゃう。
「エリスまま、アニメとか大好きですもん。特に魔法少女…っていうよりあのシリーズが好きなんですよ」
「え、そ、そう…なの?」
「はい、私がこういうの好きになったの、エリスままの影響ですし」
で、続けての彼女の言葉にさらに驚かされちゃう。
閃那が誰の影響で今の趣味を持ったか、って謎が解けたのはいいんだけど、まさか…ねぇ?
「エリスさん、そんなにアニメとか好きなの?」
「はい、それはもう。いい大人になってもアニメキャラのコスプレとかしちゃうくらいですし…まぁ、コスプレは叡那ままの気を惹くためって理由もあると思いますけど。あ、ティナさんもコスプレしてみませんか?」
「何よ、それは…意味解んないけど、とにかく閃那と同じかそれ以上にアニメとか好きってことか、意外ね」
「もう、ティナさん、コスプレ…ぶぅ、また次の機会にしときます。でも、そんなに意外なことですか?」
あたしが話題をスルーしたからかちょっと不満げな様子をされた…いや、だから意味解んないんだってば。
「ええ、だって少なくても今さっきまでエリスさんがアニメとか知ってることすらあたしは知らなかったし、それにここってテレビとかもないでしょ? だから触れる機会ない気がしちゃうんだけど」
「あぁ…そういうことですか。私の時代のエリスままはそんなですけど、今の時代だとまだ好きになる前かもしれない、ってことですね」
う〜ん、エリスさんってあたしがこっちにくる少し前にこっちにきたみたいで、こっちにいる期間は案外あたしとそうかわらないくらいみたいなのよね。
ならそういうの好きになったのはもっと先のことか…ん?
「でもエリスさん、今の時点であのアニメのこと知ってるのよね」
「あっ、そういえば、エリスままがアニメとか好きになったの、高等部へ入学してからだって聞きましたっけ」
「そうなの? まだ入学して二ヶ月もたってないくらいなんだけど、もう何かあったりしたのかしらね」
閃那のいた時間軸とは流れが変わってるっていうし、もしかするとそのあたりも変わってるかもしれないけど、あのアニメのこと知ってたってことはもう何かあったって考えていい気がする。
「そのあたり、詳しく聞けてないんですよね…今までそこまで気にしたことなかったですし」
「ふぅん、そっか…」
閃那にとってはそれが自然だったわけだし、どうしてそうなったのかとか気にすることもなかったってことね。
「気になってきちゃいましたけど…あんまり気にしないでおきましょう」
「…へ? どうして?」
「いえ、私があんまり気にしちゃうとエリスままに感づかれて変なことになっちゃうかもしれませんから。私って存在を知られてる時点であれなんですけど、でも極力エリスままたちの人生に介入したくないです」
「ん、解ったわ、なら気にしないでおこうかしらね」
そんなすぐ割り切れるものでもないかもだけど、エリスさんがアニメとかいつ好きになっても、そんなの本人の自由だしね。
それにまぁ、今の時点で歴史の流れは変わってるとはいえ、彼女の気持ちも解る気がしてまた尊重したいし。
「でも…ティナさんの人生にはどんどん介入しちゃいますから、覚悟してくださいねっ」
と、あの子はそんなこと言うとあたしへ改めて抱きついてきちゃう。
「も、もう、しょうがないんだから…」
口ではそう返すんだけど、でもあたしの人生に閃那はいなくちゃいけない存在なんだから…だから、どんどん入り込んできていいんだからね。
別の時間軸で別の人生を歩んでて、今後閃那が生まれる展開にはならない、この世界のエリスさんと叡那さん。
それでも閃那にとっては特別に意識しちゃう存在だってのは確かで、夕ごはんを一緒に食べたりとかはするもののそれほど積極的に関わるってことはしてない。
それは学校でも同じで、学校ではお二人やねころ姉さんに会うってことまずなかったりする…ま、これは叡那さんとねころ姉さんとは学年が違い、エリスさんもクラスが違うって点も大きいかしらね。
だから、彼女たちの学校での様子ってのはあんまり解らないわけなんだけど、エリスさんは放課後結構長い時間どっかに立ち寄ってるみたい。
部活ってわけでもなさそうで、でもあたしたちが気にすることじゃないってことで特に意識してなかったんだけど、最近そうも言ってられなくなってきた。
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