今日のところは、当初の予定通りに例の魔法少女なお話の続編を観ることになった。
 お話としては前のものの数ヶ月後、ってとこか…お話が終わった先の登場人物の様子が見られるってのは興味深いかもね。
 前のお話で敵対してた子とは仲良くなって、でもそこへ新たな敵が現れたりと、なかなか先の気になる展開…。
「…あれっ、あんたたち。それって」
 と、内容に集中してたら背後から不意に声がかかってきた?
「わ、わわっ、エリスま…え、エリスさんっ?」
 あたしはびくっとしたくらいだったんだけど、閃那のほうはかなり慌てちゃいながら映像を止めてた。
「あによ、そんなにびっくりすることないじゃない。ずいぶん集中してたってことなのかしら」
 扉を開けてこっちを見てきてたのはエリスさん…時間軸とか違うとはいえ閃那の親になる人だから、突然現れたらそうなっちゃうのもしょうがないのかもね。
「は、はひっ、そ、それで、何かご用でしょうか…!」
「ああ、いやね、あんたたちの部屋からいちゃいちゃしてるのとは違った声とか音楽とか聞こえてきたものだから、ちょっと気になって。まぁ、いちゃいちゃはしてたみたいだけど」
 エリスさんの視線にあたしたちは慌てて身体を離す。
「いやいや、別にいちゃいちゃしてるの文句言ってるわけじゃないし離れなくっても。あんたたち恋人同士なんだし」
 ああ言われても、やっぱ人前で…ってのは恥ずかしいわよね。
「それより、それ…立体映像?」
 と、そのエリスさん、今度はさっき閃那が止めて静止状態になってる映像へ目を向ける。
「はひっ、こ、これは…!」
「慌てなくってもいいわ、どうせあんたの時代のモニタの類、ってことなんでしょ? そこは深く追求するつもりないから」
 エリスさんは別の世界からきたって人のはずなんだけど、それでも理解はあたしよりずっと、比較にならないくらいはやい。
「それより、その映ってるものって…あの魔法少女アニメよね。あんたたち、そういうの観るのね」
「…へ?」
 と、続いての言葉にあたしが戸惑っちゃったけど、いや、だって…。
「エリスさん、このアニメ知ってんの?」
「ま、ちょっとね。あんたたちが観てたのは意外だったけど」
 いや、こっちとしてはエリスさんがこれ知ってることのほうが意外なんだけど。
「じゃ、お邪魔して悪かったわね。二人で続きでも楽しんで」
 でも、エリスさんはそう言うと部屋を出ていっちゃって、それ以上話すことはできなかったの。

「はぁ、ちょっとびっくりしたわね」
「ちょっとどころじゃないです、すっごくびっくりしちゃいましたよー!」
 エリスさんが出てって扉を閉じたとこで一息ついたけど、閃那はそんなどころじゃない様子。
「何よ、そんなびっくりしたの?」
「あ、当たり前です、エリスままがいきなり声かけてくるとか…こっちにいるエリスままは別人って考えていいのかもですけど、それでも心の準備なしにいきなりとか…!」
 あぁ、そっちか…そりゃ、彼女にとってはそうよね。
「ま、アニメの声とか、もう少し小さくしといたほうがいいんじゃない? エリスさん、それが気になって様子見にきたみたいだし」
「そ、そうですね、気をつけます。でもでも、ノックくらいはしてもらいたいかも…このあたりは向こうのままと変わらないです」
「ふぅん、そうなんだ…って」
 今思えば、あのときのエリスさんの言葉に引っかかるものを覚えて固まっちゃう。
「ティナさん、どうしたんです? 急に顔色変えたりして」
「いや、さっきのエリスさん、この部屋からいちゃいちゃしてる声とは違う声とかがしたから気になって、とか言ってたけど、それってつまり、あたしたちのその…そういう声とか、外に聞こえちゃってるとかないでしょうね、って…」
 よく考えなくってもここって学生寮よりそういうの外に漏れそうだし…うっ、胸が苦しくなってきた。
「えぇー、どうでしょう? こうして普通に話してるくらいのはちょっと外に漏れてるかもですけど…そういう声って、どういう声です?」
「う…うっさいっ。そんなの、言えるわけないでしょっ?」
「もう、あんなに激しく求めあってますのに、変なティナさん」
「んなっ、も、もう、だから…う、うっさいっ」
 何でこの子はそんなこと堂々と言えるのよ…!
「でも、このお部屋でそういうことしてるときは声抑えてますし、外に気配感じたりしませんし、多分大丈夫ですよ」
「そ、そうよね…」
 ちょっと安心…いや、そもそも、そういうことしなきゃいいんだけど、ね?
「まぁ、家族にそういうの見られたりするのって確かにものすごく気まずいかもですし、気をつけるに越したことはないです」
「ま、まぁ、そうね」
「私も一度、ままたちがそういうことしてるの見ちゃったことありましたけど、ばれてたら気まずいどころじゃなかったでしょうしね…」
「でしょうね、あたしたちも気をつけないと…ん?」
 いや待って、今とんでもないこと言ってなかった?
「ちょっ、ま、待ってっ? せ、閃那、あんた…な、何を見たってっ?」
「はい? 何って、エリスままと叡那ままが身も心も一つにしてるところです。自分の親のそういうとこ見ちゃうのって気まずいですけど、でもとっても激しくってどきどきしちゃいました」
 聞いてるこっちが気まずいどころじゃないわよ、もう…!
「ティナさん、私がこうして存在してるんですから、ままたちがそういうことしてるのも当たり前で…」
「そ、そりゃそうかもしれないけども…!」
 閃那にとって親なお二人だけど、あたしにとっても家族であって…時間軸とかが違うとはいえ、やっぱそういうの聞かされるのって、ね…?
「…に、にしても閃那、よくあのお二人に気付かれずに済んだものね」
「えっ、それは特に何も言われてませんし…い、いえ、確かに、ままたちが気付いてなかったとか不自然かも、ですね…。じ、実は気付いてて何も言ってこないだけなのかも…」
 あ、今度は彼女の顔色が悪くなってきちゃった。
「ど、どうしましょう、ティナさん…! 次に帰って顔を合わせるのが怖くなってきちゃいました…!」
 で、あたしにぎゅって抱きついてきたけど、本当に怖がってるみたいで震えちゃってる。
「だ、大丈夫でしょ、もし気づかれてたとしても、今まで何にも言われてないんだから…こっちから何にも言わなきゃ問題ないと思うわよ、多分」
「うぅ…は、はい、ティナさん」
 さっきと立場が逆転しちゃったけど、あの子が安心できる様にそっと抱きしめてあげるの。


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