第6.5章

「…よし。試着とかしてなかったけど、サイズもちょうどよさそうか」
 ―朝食前、いつも通り学校へ行くために制服へ着替えたんだけど、今日からは先日までとは違うとこがあって、着替え終えたとこでそんな声を上げちゃう。
「ほら、閃那ってば、もう朝だから起きなさい」
「むにゃにゃ…ティにゃさんがおはようの口づけをしてくれたら起きますぅ」
 で、あたしははやくに剣の稽古をしてるってのもあってもう着替えまでしたわけだけど、閃那はといえばまだベッドの中で、あたしが声をかけると起きもせずあんなこと言ってくる。
「も、もう、全く、しょうがないんだから…んっ」
 あたしが起きて剣の稽古へ行く前にもしてるし、起きなくて困るのは閃那自身だし、はずかしくもあるんだけど…でもそんなこと言う彼女がかわいいって感じて口づけしてあげちゃうあたしは甘いのかしらね。
「ティにゃさん…ん、んんっ」
「んっ…って、も、もうっ、こらっ、起きなさいってばっ」
 身体を引き寄せられてあつい口づけにされそうだったのを何とか引きはがした。
「あぅ、ティにゃさん、私と口づけ、したくないんですか…?」
「いや、したいけど…って、そうじゃなくって、起きなさいってば。だいたいティにゃって何よ?」
「えへへ〜、かわいいですよね、ティにゃさんって」
「も、もう、寝ぼけてるの?」
 かわいいのはそっちのくせに、何言ってるのよ…。
「ふわぁ、しょうがないですね…解りました、起きます。おはようございます、ティナさ…あれっ?」
 ようやく身体を起こした彼女だけど、こっち見て動き止めちゃった?
「ん、おはよ、閃那。でも、どうかしたの?」
「ティナさん、それ…夏服ですね。う〜ん、やっぱり夏服のティナさんもいいです、よく似合ってます」
「…へ? あ、あぁ、制服のことか…今日から衣替えってやつだっていうしね。今までの制服だと正直言って暑かったし、ちょっとはたすかるわ」
 六月に入った今日から、学校へ着てく制服が薄手のものに切り替えになった、ってわけ。
「はじめてな夏服姿のティナさんを見られてすっかり目が覚めました。はぁ〜…やっぱり素敵ですねぇ」
 ベッドから降りる彼女だけど、こっちをじっと見てきちゃってる。
「ちょっと大げさじゃない?」
「そんなことありませんっ。ティナさんは絶対トップモデルになれるってくらいスタイルもいい美少女なんですから、もっと色々着てもらいたいくらいです」
「んなっ…」
 やっぱ大げさにしか感じないわけだけど、あの子の勢いに圧倒されてそれ以上は言えなかったの。
 で、その彼女なんだけど、まだこっちをじっと見てきてて、特に胸元へ視線が集中してきてる気がする…。
「…な、何よ、まだ何かあるの? ないならあんたもさっさと着替え…それとも先にごはんにする?」
 はずかしくなってきてこの話を終わらせようとする…と。
「夏服は下着が透けやすいですから気をつけてくださいね? 今日のは問題なさそうですけど、私が選んだ派手なのが透けたりすると…それはそれでありかも、えへへ」
「んなっ…!」
 ちょっとよからぬことを考えてそうなときの彼女の笑顔にはびくってなっちゃうときがある。
「あっ、でも、あらかじめ透けてもいいものを用意して着てもらうのもありかも」
「ん、んなわけないでしょ、もうっ」
「ティナさんったら、冗談ですよ〜」
「そ、そう、ならいいんだけど、とにかくおしゃべりはこのくらいにしとくわよ」
 冗談なのか本気なのか解りづらいってば、全く…。

 閃那も夏服へ着替えて、朝ごはんも食べて。
「じゃあティナさん? 今日も結んであげますね」
「ん、お願い、ありがと…いつも悪いわね」
「いえいえ、私が好きでしてることですし」
 椅子へ座ったあたしの背後にあの子が立ち、あたしの髪を手にする。
「私と同じ髪型なのは嬉しいですけど、ティナさんにはストレートのほうが似合ってる気がしますねぇ」
「そう? 閃那のツーテールは似合ってると思うけど、あたしの場合は頭の耳を隠すためにしてることだしね…」
 そんな会話になることからも解る通り、彼女はあたしの髪を結んでくれてるの。
「ねころさんは隠してませんし、ティナさんもそのままでもいい気もしますけどね。あ、でも、ツインテールティナさんと猫耳ストレートロングティナさんの両方を堪能できるのは嬉しいです」
「そ、そう…」
 猫じゃないんだけど、耳のことについてはときどき考えることもある…将来的には解んないけど、ひとまず学校を卒業するまではこのままでいこうかなって思ってる。
「ティナさん、髪もきれいで長くって、色んな髪型にしたくなっちゃいます」
「…は? そんなの、閃那のほうがそうじゃない」
 彼女のは叡那さん譲りっていっていいくらい長くてきれいな黒髪だものね。
「それに、夏服もですけど、体操着や水着っていったティナさんもこれから見られるんですね…ふふっ、夏も楽しみです」
 あたしの言葉は届かなかったのか、さらにそう続けてきた。
「あっ、私やエリスままのコレクションを持ってきてティナさんに着てもらう、っていうのもいいですね。ティナさん、どう思います?」
「…は? ど、どうって言われても…」
 ちょっと、何て返せばいいか戸惑っちゃう。
 でも、今までの彼女の様子からしても、あたしが色んな服を着て、それを見るっていうのが本当に楽しくて好きだってのは伝わってくる。
「…ま、別にいいけど。好きにしたら?」
 だからそんな返事をしちゃう。
「わぁ、ありがとうございます…ティナ、大好きっ」
「ちょっ…も、もうっ、大げさだってば」
 勢いよく背中に抱きつかれちゃったけど、こんなに喜んでもらえるならいいわよね。
「…で、コレクションって何よ?」
「それは、実際用意してからのお楽しみです。ティナでしたら絶対とっても似合いますから大丈夫ですよっ」
 何か逆に不安になるんだけど…ま、まぁ、ただ服を着るだけだし、この前みたいに数が多かったりしてちょっと疲れたりするくらい、よね。


    -fin-

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