で、お社へ戻り夕食も終えて。
 お風呂に入ったあたしと閃那はあたしの部屋へ戻る…あぁ、こっちにいるときは閃那もこの部屋で一緒に過ごしてる、って言うまでもないか…。
 ちなみにこの叡那さんの家のお風呂は学生寮の個室にあるのよりだいぶ広くって、二人で入ってもくつろげる。
「えっと、それで、閃那の趣味を教えてくれるんだっけ?」
「は、はい、そうですね、じゃあどうしましょうか…机の上、お借りしますね」
 部屋へ戻ってそんなやり取りして、彼女はこの部屋にある数少ない家具な低い机の前に腰かけると、その上に小さな箱状のものを出す。
「ん、何よそれ」
「これはパソコンです。さすがにパソコンは高価すぎてアルバイトで買うのは厳しいので元の時代から持ってきました。今の時代くらいになるとスマートフォンとかが主流になってきてるはずですけど、それはまぁおいおい」
「ふぅん、それがパソコンか…名前だけは聞いたことあったけど、何するものなのかはよく解んないのよね」
「あ、でもこれは二十年後のやつでして…今の時代だともっと大きいはずです。それに、今の時代だとキーボードとか別個で用意しなきゃいけないはずですし」
 彼女はそんなこと言いながらその箱みたいなのについてたボタンを押すんだけど、すると机の上に半透明な何かがいくつか現れる?
「な、何よこれ」
「こっちがキーボードで、そっちはディスプレイです。今の時代でもこういうの出はじめてるはずですけど、まだ数は少ない、はず?」
 う〜ん、やっぱよく解んない…こういうのは後でもっと勉強するしかないか。
「で、とにかく…これで何するつもりなの?」
「できることは色々ありますけど、今日はひとまず私の好きなアニメをティナさんに観てもらうかなって。ちょうど今の時期に放送されてたはずの名作が保存してありますから」
 彼女はそんなこと言いながら慣れた手つきで机の上に平面に表示されたたくさんのボタンに見える何かと壁側に表示された何かを操作していって、それ自体かなり気になるものではあるんだけども…。
「アニメ、って何よ?」
「それは…う〜ん、何て説明すればいいでしょう。観てみたほうがはやいと思いますし、そうしましょう?」
「ふぅん、ま、閃那がそう言うならそうしてみるか」
 準備も終わったっていうから、彼女の言葉通りにすることにしたの。

 閃那がディスプレイって呼んだ、壁側に表示されてるものが切り替わり、彼女が見せたいっていってたものが表示されてく。
 こういうの、本来はテレビって例のものに表示させるのが普通なんだそうだけど、未来だとそういう装置がなくっても映像をきれいに投影できる、らしい。
 まぁ、そういうのについては、未来のことはあんまり知らないほうがいい気がする上にそもそも今現在の時代なことにもついてけてないから、深く考えるのはやめとく。
「…と、これが第一話になるんですけど、どうでした?」
 で、肝心の中身のほうはだいたい三十分かからないくらいで一区切りになったみたいで、映像を止めたあの子がそうたずねてきた。
「そう、ね…正直驚いたわ。これ、絵ってことは誰かが描いたりしてるんだろうけど、でもあんな滑らかに動いてるし…声とか音楽とかもだけど、なかなか気になるかもね」
 閃那が見せてくれたのはアニメーションっていうものだったわけだけど、色々すごかったってのが第一印象よね、やっぱり。
「あー、本当にはじめてこういうのに触れるとそういう感想が出てきちゃいますか…。それもしょうがなさそうですけど、私が聞きたかったのはそういう技術的なことじゃなくって純粋に作品の感想とかで…」
「あ、あぁ、そういうこと…お話、お話のことか。そうね、あたしに似た力を使う子が主人公でちょっと興味深いかも…っていうか、こういう力を使える人がいるって、もう認知されてるんじゃないの」
 観させてもらったアニメは、いわゆる魔法っていう力を使って何かと戦う女の子を描いたもので、杖を媒体にはしてたけどそこから放たれる魔法はあたしの力にかなり似てる印象受けたの。
「あぁいえ、これはあくまで空想上の産物、ファンタジーで、ティナさんの力と似てるのは全くの偶然です。もっとも、私のいる時間軸だともうすぐそういう力が実際にあるって世間にも知れて創作の世界も変わってくんですけど、こっちはもうあの化け物はティナさんが人知れず倒しちゃいましたし、どうなってくんでしょうね…どっちの時間軸も見られるなんて、私って贅沢かも」
 あの化け物倒せたのは閃那がいたからなんだけど、ともかく彼女の言う通りあたしって存在の有無で歴史の変わった二つの世界があるらしく、彼女はもう一つの世界の住人…そう思うと、あたしってかなり変な存在よね。
 ま、あたしとかこの力のこととかはもう今更だからいいとして。
「なるほどね、空想でこんなお話作れちゃうんだ…すごいのね」
「あ、ということはこの魔法少女アニメ、面白かったですか?」
「ん、興味深い…って、ん? 魔法少女、って…閃那があたしのことときどきそんな風に呼んできてたわよね」
「あぁ、はい、私ってこういう魔法少女のアニメが好きで、っていっても鬱要素が強い傾向なのは苦手ですけど、ともかくティナさんが色々この世界観にぴったりでしたから…魔法少女ティナ、っていい響きですよね」
「ふ、ふぅん、そう…」
 あたし自身力が似てるって感じたから否定はしないけど…何だろ、なぜだか恥ずかしい。
「で、閃那の趣味って…つまりこういうの観ること、ってことでいいわけ?」
「はい、あとはゲームとか、声優さんも大好きです。それに、イラスト描いたりするのもちょっとだけ」
「ふぅん、そっか…ゲームとか声優とか、何なのかよく解んないけどね」
「あ、それはですね…」
 な、何よ、目を輝かせて身を乗り出してきたんだけど。

 で、閃那はずいぶん熱心にアニメやゲーム、声優ってものについて話してくれた。
 正直に言って理解できないことも多くって、半分…いや、三分の一くらいは理解できたんじゃないかとは思うし、何よりも解ったことがある。
「閃那はそういうのがとっても好きなのね」
「はい、私の生きがいって言ってもいいです」
 ものすごくいい笑顔が返ってくる。
「…あ、でも、一番の生きがいはもちろんティナさんですから!」
「い、いや、そこは別にいいわよ…」
 慌ててあんなこと言われちゃったけど、生きがいって言えるほどの趣味があるのはいいことでしょ。
「よくないですっ。ティナさんの存在はもう別格、何にも代えられないものなんですからっ」
「わ、解ったわよ…と、とにかく、別に隠そうとする様な趣味じゃなかったじゃない。どうして言いづらそうにしてたの?」
 うん、あたしの元いた時代じゃ考えられない趣味だったけど、別に変なものじゃなかったわよね。
「…あぅ、だって、私って実は暗い子だってばれちゃいそうで、それで…」
 なのに、あの子は急に表情を曇らせちゃう。
「…は? よく解らないんだけど」
「えと、つまり、私って一人でアニメ観たりお絵描きしてるみたいな、コミュ障の暗い子なんです。そんな子が恋人だなんて、ティナさんに嫌がられないかなって…」
 ますますしゅんとされちゃったんだけど。
「…えーと、何で? 別に誰かに迷惑かけたりすることじゃないんだし、いいんじゃないの?」
「で、でも、あっちにいたときから、お友達も作れずそんなだったんですよ? それに、さっきもティナさんが理解してるか無視してあんな熱く語っちゃって、気持ち悪くありませんでしたか…?」
 やっぱり彼女、元の世界で友達いなかったってのを気にしてたのか…だからあんな風に悪く考えちゃうのかしらね。
「…何言ってんのよ、全く」
 あたしはそんな彼女へ身体を寄せ、やさしくなでてあげる。
「ティ、ティナさん…?」
「そんなの、あたしが気にすると思ってんの? そんなこと言ったら、あたしだってずっと一人で剣の練習するのを趣味にしてたんだし、それにあたしのは義務感でしてるとこもあるから、閃那みたいに熱心に楽しめるものがあるっていいことだと思うけどね」
「はぅ、ティナさん…」
 あの子、そっと抱きついてきちゃう。
「少なくても、あたしは閃那のその趣味おかしいとか思わないし、嫌いにとかならないから…だから、安心しなさいよね?」
「は、はい、ティナさん…ティナっ」
 嬉しそうな、ちょっと涙も浮かんでた気のする彼女、ぎゅってしてきて…あたしは押し倒されちゃう。
「ティナ、やっぱり好き、大好きです…んっ」
「も、もう、あたしだって…ん、んんっ」
 彼女の想いがこもった熱い口づけ…あたしもそれを受け入れ、想いを伝え返す様にぎゅって抱きしめるの。


    (第5章・完/第6章へ)

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