翌日、あたしたちは二人で街へお出かけ…あたしは彼女に選んでもらった服を着てく。
 彼女の案内でたどり着いたのは一軒のお店だったんだけど、中へ入ると複数の歌声とか音楽とかが響き渡ってるのが耳に届く様な場所。
 受付をしていくつもある個室の中の一室へ入るんだけど、あまり広くないそこは唄うための部屋で、それに必要なものが一式揃ってる場所なんだって。
 さらに食事とかも注文できたりするっていうんだから、至れり尽くせりってとこか。
「歌うっていっても、ティナさんはそもそも曲自体知りませんよね…。まず私がお勧めの曲をいくつか歌ってみますから、そのあとティナさんもそれを歌ってみてください」
 お互い席についたところでそんなこと言われた。
「ま、いいけど、でも少し聴いたくらいで歌える様になったりするものかしらね、覚えられなさそうだけど」
「それは大丈夫だと思いますよ。それじゃさっそく…って、そうでした、今の時代だとまだあさ・かなの曲とかないんだっけ。じゃ、こっちの曲で」
 彼女はそんなこと言いながら、手にした機械を操作してく…今の時代、本当に色んなことをする機械がたくさんあって驚かされちゃう。
 で、今あの子が操作したのは任意の曲を流すためのものだったみたいで、部屋全体に音楽が響き渡るとともに、部屋に置かれてて何か色々表示されてたモニタっていうんだっけ、ともかくそれが切り替わる。
 どうやらそこに曲の歌詞が表示され、それに沿ってあの子が歌ってくけど、その歌声も彼女が手にしたものを通して大きく響く様になってて、これは確かに歌うための場所みたい。

 あらかじめあの子が歌ってくれて、また歌詞が解りやすく表示されるってこともあって、いくつかの曲を歌ってみることができた。
「うんうん、やっぱりティナさんはただ経験なかっただけだったんですよ、ずいぶん上手になってます」
「そ、そう? ま、自分でもちょっとはましになってきたかな、とは感じてるけど」
 何曲か歌って、ちょっと一息…お互いに飲み物口にしながらそんなこと話す。
 ちなみに彼女はジュースだけどあたしは水を飲んでる…こっちのほうが落ち着くのよね。
「ましになったなんてものじゃないです、ティナさんの歌声、聴き惚れちゃうくらいですから」
「な、何よ、それは言いすぎでしょ…それを言うなら、閃那の歌声のほうがずっとよ」
「も、もう、ティナさんったら…」
 ま、お互いのことが好きだからよりそう感じられるのかもね…彼女もそう思ったのか、お互い少し笑いあっちゃう。
「それでティナさん、歌うのって楽しいですか? 今後もやってみていい、とか思いました?」
 で、何か昨日も聞かれた様なことをたずねられた。
「ん、そうね…なかなか楽しかったかも。悪くなかったし、今後も機会あったらしてもいいかな…あぁ、それに、自分で歌わなくても閃那が歌ってるの聴いてるだけでも楽しいかもね」
 うん、絵はちょっとあれだったんだけど、こっちは気分よかったりしたしね…あ、でも閃那が描いた絵を観る、ってのはいいかもね。
「わぁ、それはよかったです…じゃ、これからも一緒にカラオケしましょう。好きな人とカラオケできるなんて夢みたいです」
 こういうののことをカラオケっていうみたいだけど、ずいぶん喜ばれちゃった。
「何よ、そんなにあたしと何かしたかったの? なら、昨日の絵は悪いことしちゃったかしらね…」
「あぁ、そんな、気にしなくってもいいんですよ。ティナさんと一緒にそういうのできたら確かにそれは楽しいことですけど、今はティナさん自身が楽しいと感じることを見つけられればなぁ、ってことでカラオケにお誘いしたりしてますから」
「…ん、何、どういうことよ?」
 何言ってるのかよく理解できなくって聞き返しちゃう。
「ん〜と、何て説明すればいいですかね…前々から、ティナさんがちょっと真面目過ぎるのが気になってるんです」
「…は? あたしは別に真面目なんかじゃないってば」
「いえいえ、すっごく真面目だと思いますよ? 勉強熱心ですし、それに…ティナさん、趣味って何です?」
「何よ、趣味? えーと、何だろ…剣の練習、かしらね?」
「ほら、やっぱり! そんなティナさんも好きですけど、でもせっかくこの時代で生きてくんですから、何かこの時代にあるもので楽しくできる趣味とか見つけてもらえたらなぁ、って思ったんです」
「ふぅん、そっか…」
「あ、ごめんなさい、こんなの余計なお世話でしたよね」
「…いや、そんなことないわよ」
 趣味は、って聞かれて剣の練習くらいしか思い浮かばないとか、まぁ閃那にああ言われてもしょうがない気がするし。
「閃那はあたしのこと想ってそういうこと考えたりしてくれたんだから…その、嬉しいわよ、ありがと」
「ティナさん…ティナさーんっ!」
「…んなっ、ちょっ、お、落ち着きなさいってば!」
 あの子、勢いよく席を立ったかと思えば、そのままこっちきて抱きついてきちゃったの。
「こんなの落ち着いていられませんっ。大好きです、ティナ…んっ」
「ん、んっ…って、だ、ダメだってばっ。誰かに見られるかもしれないでしょっ?」
 口づけされて流されそうになったけど、ここの扉ってガラスの部分があってみようと思えば見えちゃうのよね…危ない危ない。
「もう、そんなこと気にしなくってもいいじゃないですか」
「いや、気にするに決まってるでしょ、全く…」


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