翌日のお昼休み、食後にあの子が昨日読んだ本とかを返却しに図書室に行く、ってなって。
「いい機会ですので、ティナさんもきてください」
 断る理由もないから、一緒に図書室へ…そこは校舎と学食のある建物との間にある、特別棟っていわれる建物の二階にあった。
「ではまず本を返却してきますから、少し待っててください」
 入口のあたりでそう言って受付へ向かった彼女を見送り、あたりを見回してみる。
 図書室っていうだけあって、なかなか広い空間の中にはたくさんの本が収められたいくつもの棚があり、またそれを読む生徒のための席もある。
 でも席は本を読むため以外にも使っていいみたいで、お昼休みなのにそこで勉強してる人の姿もある。
 で、ここにある本はどれでも自由に借りて読んでもいい、ってことよね…ちょっと気になるかも。
「ティナさん、お待たせしました。じゃ、こっちきてみてください」
 と、あの子は戻ってくるなりあたしの手を取り、入口からさほど離れてない一角へ引っ張ってく。
「ここですここ、ここが私の時代だと伝説になってるんです…実物を見られるなんて感動です」
 で、足を止めた彼女、まわりが静かな上言ってることがあれなだけに小声でそんなこと言ってくる。
 あたしたちの前には、昨日読んだ本みたいな絵の表紙した本がきれいに並べられてて、棚の上には『みーさのものがたりコーナー』なんて書かれてた。
「え〜と、つまり…閃那が元の時代で好きな作家さんが今この学校に通ってて、ここにあるのはその人の作品、ってわけ?」
「そうです、そうです」
「ん〜、じゃあその人、今現在もう作家なんじゃないの?」
「あっ、いえ、まだプロじゃないですね。ここにあるのは文芸部の活動ってことで作ったものになるはずですから」
「ふぅん、そっか」
 有名な作家が学生時代にこういう場所作ってて、それが未来の学校じゃ伝説に、ってわけか…未来からきた閃那にはすごいことなんだろうけど、あたしにはぴんとこない。
「実はこの時期この学校にはもう一つ、別の有名なかたの伝説の場所もあるんです」
「そうなの、じゃあそっちにも行ってみる?」
 あたしにはぴんとこないけど、あの子にとってはすごいことみたいだものね。
「ん〜…気になりますけど、やめときます」
 でも、少し考えこんだ彼女はそう返してきた。
「あの場所、今は当事者しか知らないはずで、アサミーナは私と入れ違いで卒業されてしまわれましたけど、まだいちごさんがいるはずですし…不用意に私が近づくことで将来が変わっちゃう、とかしたくないですから」
 彼女の元いた未来とはすでに歴史の流れは変わってるっていうけど、それでもその人たちの将来が閃那を要因に大きく変わるってのは…ま、したくないわよね。
「そっか、じゃあこれからどうする?」
「はい、またここから何冊か借りていきますね」
 そうして彼女は棚にある本を眺めて…と。
「あっ、みーさの本読んでくれてるんだ〜、ありがと〜」
 横合いから何やらかわいらしい声が届いたからそっちへ目をやると、そこには…子供の姿?
「は…はわっ」
 閃那はその子を見てなぜか固まっちゃったけど、そこにいたのは多分十歳くらいかな、そのくらいの女の子。
「え〜と、貴女、こんなとこでどうしたの? 初等部だっけ、そういうのは別の場所のはずだけど」
 学校の敷地内にはこの子くらいの年齢な子の通う初等部、あたしたちより少し下の年齢な人の通う中等部ってのがあるけど、いずれも離れた場所にあるはず。
「わっ、ティ、ティナさん、違います、違いますよっ!」
 なぜか大慌てするあの子…と、その小さな子が明るく笑う?
「そっちの子は解ってくれてるんだ〜。うん、みーさはこんな見た目だけど高等部の生徒なんだよ〜」
「…へ? あ…ご、ごめんなさいっ」
 誤りに気付いたあたし、慌てて頭を下げる…ちゃんと見たらあたしたちと同じ高等部の制服きてるじゃない、もう。
「ううん、みんなよく間違えるから気にしなくってもいいよ〜。みーさは藤枝美紗、高等部三年生なんだよ〜」
「そ、そっか、えと、あたしは一年の雪乃ティナ、です」「お、同じく一年の、く、九条閃那、ですっ」
 妙に閃那は緊張してるわね…。
「それで、お二人は…恋人さん、だよね〜?」
「…は?」「はわっ、そ、それは…そ、そうですっ」
 で、今度はいきなり何たずねてきてんのよ…。
「やっぱりそうなんだ〜…きゃ〜、きゃ〜っ! みーさの百合センサが感じたとおりだよ〜!」
 しかも、ものすごく喜ばれちゃったし…百合センサって何よ。
「あっ、そっか、お二人があの九条さんと雪乃さんの妹さんなんだね〜。う〜ん、でもそうなると、九条さんと雪乃さんみたいにお二人の物語を書くのも難しいのかな〜?」
 藤枝さん、あたしたちを見て考えこんじゃう?
 三年生、ってことは叡那さんたちと同い年か、全然そうは見えないけど…物語?
「う〜んう〜ん、お二人の物語書こうとすると大変なことに触れなきゃみたいだから、残念だけど諦めるよ〜。みーさの書いた物語、読んでいってね〜…ばいば〜い、だよ〜」
 で、その人はそんなこと言うと元気に走り去っちゃった…嵐みたいな人だった、けど。
「何だったのかしらね、あの人…」
「何ってあの人…あの人ですよっ。ここの作品書いた、藤枝美紗先生ですっ。若い頃の先生と生で会えちゃうなんて…!」
 言ってることがあれなだけにやっぱり小声ながら彼女は興奮した様子…ちなみにさっきの人は普通に大きな声上げて他の子の注目浴びてた。
「ここの作品、って…あ、あぁ、そういうことか」
 つまり、あの藤枝さんって人が、閃那の言ってた作家さんか。
「やっぱり伝説のとおりなんですねぇ。先生は百合センサに引っかかった子たちのお話を書いてた、って」
「…何なのよ、百合センサって」
「はい、先生は百合な恋をしてる人を一目で見抜き、さらにかなり事実に沿った物語を書けるっていうんです」
 いやいや、何それ、無茶苦茶すぎ…って。
「…は? じゃあ、ここにある作品って、実際にいる子たちのお話なの?」
「そのはずです、本人の許可は取ってあるみたいですよ」
 にわかには信じがたいけど、だからあたしたちの話を書くとか言ってたのか…。
「…ん? でもあの人、私たちの話は書けないいって言ってたわね」
「残念ですねぇ…ティナさん、書いてもらいたかったですか?」
「ち、違うわよ、そんな恥ずかしい…! じゃなくって、やめた理由よ…大変なことに触れなきゃって、あたしたちの事情に気付いたりしたのかしらね」
 そんなわけないって思いたいんだけど、叡那さんたちのお話も難しい、って言ってたし…あたしだって他の人から見れば変って言われる様な力持ってるんだし、百合センサってのも本当にあるのかもしれないか。
「そ、そう言われると…でも、もし見抜かれたとしても書かないって言ってくれましたし、きっと大丈夫です!」
「だと、いいんだけどね」
 閃那が未来からきたって知ったりして、あの人の将来が変わるとか…う〜ん、あの様子だと、確かに大丈夫そうにも見える。
 ま、何にしても、かなり不思議な人ではあった。
「あーあ、先生の書いた私とティナのラブラブな物語、読みたかったです…残念」
「だから、それは恥ずかしいってば…」


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