二日の休日が終わると、五日間学校へ通う日が続く…祝日があるとお休みが増えるそうだけど、基本的にはその流れ。
 さらに先週は午前中で放課後になってたけど今週からは午後まであるうえ、普通の授業もはじまって本格的に学校生活がはじまったって趣になる。
 今まで一人で、あるいはエリスさんに教えてもらってた勉強だけど、大人の先生に教えてもらう授業ってのもやっぱり興味深いわね。
 だから夕ごはんを終えて学生寮へ戻ってきてからも予習や復習をしとくの。
「ティナさんは本当に優等生ですねぇ…」
 机に向かってそんなことしてて一息ついたあたしへ、ベッドの上で横になってたあの子がそんなこと言ってくるの。
「そんなことないってば。あたしは人よりすごく遅れてるとこがあるからそうでもしないとついてけないし、それに歴史とか、知らないことを知ってくのって面白いわよ」
 あたしのいた国の記録は一切残ってないにしても、元の時代で見た、外の世界の人たち…あのときはまだ人類史のはじまりってとこだったのが、どうやって今に繋がったのか知ってくのって面白いでしょ。
「まぁ、歴史を題材にしたゲームとかにも面白いのありますし、私も歴史は嫌いじゃないですから否定はしませんけど…でも、テスト前じゃなくって宿題もないのに家で勉強する気にはならないです」
「それはあたしと違って閃那は勉強しなくっても問題ないからでしょ」
「いやいや、ティナさんは私のことどれだけ優秀だと思ってるんですか。私、優等生とかじゃないですよ?」
「えっ、でも…」
 叡那さんとエリスさんの娘なんだしそんなことないでしょ、って言いかけて言葉を飲み込む。
 もう、何考えてるのあたしは、そんな決めつけ…あの子、元の世界でそういう目で見られてたとか言ってたじゃない。
「…ティナさん?」
「ん〜、そういうなら、あたしと一緒に勉強しない?」
「え、いくらティナさんと一緒でもそれは嫌です、遠慮します。テスト勉強のときはそうしましょうね」
 ま、あそこまで言うのを無理強いすることはない、あの二人の娘だってのは関係なしに閃那は大丈夫なんじゃないかって気がするし、それに…。
「そうね、閃那は閃那で本読んでるし」
 そう、今の彼女はベッドの上で横になりながら本を読んでたの。
「もう、ティナさんったら、これは勉強の本じゃないですよ? もしかして、本ってそういうのしかないって思ってません?」
「ん、違うの?」
「違いますよー。実家…あ、神社のほうにはそういう本しかなくって勘違いしちゃったかもですけど、娯楽のための本もたくさんありますから」
「そっか…そうなんだ」
 よく考えたらあたしの元いた時代にもそういう読みものとかあったか。
「今の時代、娯楽はもう本当に色々ありますけど、ちょっと今は手元に何にもないですからね…」
 この部屋にはテレビってものとかもない。
「でも…です! この本はすごいんです…私はこの時代のこの学園に通うことができることを、今とっても感動してるんです、あの伝説を目の当たりにできてるんですから!」
「…ちょっ? な、何なのよいきなり」
 唐突に起き上がって熱弁されたものだから戸惑っちゃう。
「あ…ごめんなさい。でも、私の元いた時代では伝説になっていることが、今のこの時代でちょうど起こってまして…」
「そうなの?」
 よく解んないけど、未来からきた人が見たらまさに歴史を目撃してる、っていったものなのかしらね?
「これを書いた作家さんが今ちょうどあの学校に生徒として通ってるんです。これは、そのかたが自分で作った本なんですよ」
 閃那はあたしみたいに何万年単位って時間移動じゃなくって二十年くらいってとこのはずだから、あの二人やねころ姉さん以外にも今の時代と共通してる人がたくさんいるわけか。
 で、その中には今はただの学生だけど将来は有名になってる人もいる、ってわけね。
「あ、よかったらティナさんも読みませんか?」
 と、あの子が手にしてた本を差し出してきた。
 元いた世界じゃ小さい頃に絵本くらいは読んだことあるけど、その後はあんなことあって機会なかったのよね…今の時代の本、読みものがどんなのかってのも気になる。
「ん、じゃちょっと借りるわ」
 それに、あの子が好きな作家、ってのもあるしね…ってことで本を受け取ったの。

 閃那から受け取った一冊の本。
 それは表紙に二人のかわいらしい、そしてこの学校の制服着た女の子の絵が描かれたもので、手作りとかいう割にはずいぶんしっかりした作り。
 中は小説、ノベルっていわれるかたちの文章になってて、そういうの読むのはじめてになるわけだけど、ともかく読み進めていってみる。
「…ふぅ、読み終わったわよ」
「えっ、もうですか? はやいですね」
 あたしの声に、ベッドの上でまた別の本を読んでたあの子が身体を起こす。
「それでそれで、どうでした、どうでした?」
「どうって、何がよ?」
「何って、それを読んだ感想とかですよー。いいいお話だったでしょ?」
 ずいぶんきらきらしたまなざし向けられちゃってる…よっぽどこのお話、好きなのね。
「そ、そうね、いい話だったんじゃない? ただ、読んでてむずむずするっていうか、気恥ずかしくなるっていうか…そんなとこもあったかも」
「あぁ〜…甘々なお話ですもんね、ティナさんにはそう感じられてしょうがないかも」
 甘いっていうか、二人の女の子が恋をして一緒になるさまを書いてて、そういう他の人の恋愛の様子を見るのって、いくらお話だからっていっても、何か気恥ずかしい。
「このかたの書く百合なお話、本当に大好きなんです」
「…百合? 花の一種だっけ…それがどうしたの?」
「あっ、違います違います、百合っていうのは女の子同士の恋愛のこというんです…私とティナさんみたいな関係のことですね。このかたはそういう物語だけ書いてるんです」
「ふ、ふぅん、そうなの…」
 あれっ、今、ものすごく嫌な考えが浮かんじゃったんだけど…。
「…じゃあ閃那は、その百合ってのが好きだから、同じ女の子なあたしのこと好きになったの?」
 って、何聞いてんのよ、あたしは…そんなの、どっちだっていいじゃないの。
「あれっ、ティナさんもしかして拗ねたりしてます?」
「べ、別に、そんなんじゃ…」
 あの子、ベッドから降りてこっちに歩み寄ってくる。
「もう、確かに私は百合が好きですけど、恋するのは誰でもいいってわけじゃなくって…ティナだから、恋に落ちたんです。私の初恋、なんですからね…?」
 そして、彼女はそう言うとあたしを抱きしめ、そのまま口づけしてきちゃう。
 もちろん、あたしはその言葉も、そして口づけも受け入れるの。


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