ということで、翌日…その日も学校はお休みだったわけだけど、閃那と一緒に服を買いに行くことになった。
「お休みなのにそんな恰好で外出しないために必要なことなんです、解りましたか?」
「わ、解ったわよ、もう…」
 叡那さんからもらった服…着物はやっぱり目立つ、ってことになって、しょうがないから学校の制服着てくことにした。
 まぁ、どっち着るにしても浮いちゃうってのは確かで、この先外出の機会がないわけないんだから買っておくべきか。
 そんなあたしたちが向かうのは、電車って乗り物の駅から学校の正門までまっすぐのびる、この街の表通り。
 そこはきれいに整備された並木道で、両側には主にあの学校の生徒を対象にした小ぎれいなお店が建ち並んでる。
「あっ、九条さん、雪乃さん、こんにちは」「もしかして、休日デートですか? 雪乃さんは制服ですけど」
 学校が休みってことで人通りはそれほどじゃないけど、でも学生寮の人かしらね、学校の生徒と思しき人の姿がちらほらあって、その中にはあたしたちのこと知ってる人もいて声かけられちゃう。
「こんにちは、そうなんです…えへへっ」
 あの子は嬉しげにあたしと腕を組んできたりして…恥ずかしいけど、でも幸せも感じる。
「…デートって何よ?」
 声かけてきた人たちと別れた後、そんなことたずねてみる。
「えっ、これってデートじゃないんですか…しゅん」
「…は? いやいや、しゅんってされても困るっていうか…あたしはただデートって言葉の意味聞いてるだけだから」
「あぁ、そういうことでしたか…ティナさん、普通に言葉が通じてるので忘れがちですけど、元々全然文化も言葉も違う世界からきた人ですもんね、デートって習慣はティナさんの世界にはなかったのかも」
 そう、いわゆる門を護ってる叡那さんの力のためかこっちの世界へ飛ばされた時点でこの日本って国の言葉は聞き取れて話せる様にもなってたわけだけど、文字はそうもいかなかったし、それに解んない単語も多かったりするの。
「デートっていうのは…う〜ん、何て説明すればいいでしょうか。違う場合もありますけど、私たちみたいにお付き合いしてる二人が一緒にお出かけしたりすること、って理解しておいてくれればいいです」
「そ、そっか、ふぅん、あ、ありがと」
「ですから…休日デート、楽しみましょうねっ」
 腕を組んでる上にさらにぎゅっと身体を寄せられちゃって、全く…しょうがないんだから。
 でも、そういう習慣って本当にあたしの元いた世界にはなかったのかしらね…実のところ、あたしってあっちにいた頃かなり普通とは外れた生活してたから、ただあたしが知らないだけって可能性、高そう。

「ティナさんに似合うのはこれでしょうか…いえ、こっちもいいですね」
 服を売ってるお店へ入ったあたしたち、そこであの子は色んな服を手にとっては悩み出す。
 当のあたしはといえば、確かに今の時代の人たちの服はこんなんなのねって興味は惹かれるけどあくまでそのくらいのことで、よっぽど変に思われない限りは何着てもいいんじゃ、って思っちゃう。
 だから彼女が選んでくれるならそれでいいか、ってわけでその様子を見守ってた。
「ティナさんティナさん、これから着てみてくれませんか?」
 と、一着の服を手にしたあの子がずいぶん興奮した様子で迫ってきた。
「えっ、べ、別にいいけど、ここで? それに、それを買うことにしたの?」
「あっ、あそこで試着…買わずにお試しで着てみることができるんです。ティナさんに似合ってるか実際に着てもらって確認したくって」
「あぁ、そういうこと…ま、いいわよ」
 お金は限られてるはずだし、そうやって確かめるのも大切なのよね。

「えへへ、今日はティナさんの色んな格好を堪能することができてよかったです」
 お店を後にする閃那はとっても満足げ。
「そ、そう、ならよかったわ…」
 一方のあたしはちょっと疲れ気味かも。
  だって、閃那ってば一着二着どころか何着も連続で試着させてくるんだもの…
あの子の嬉しそうな姿見るとこっちも幸せになるとはいえ、さすがに疲れもするってば。
「ま、いくつか買えたし、ありがと」
「いえいえです、こちらこそ目の保養になりました」
 何のお礼かよく解んないけど、まぁ当初の目的は果たせたしよかった。
「じゃあ次はあのお店です」
 と、あの子、道の向かい側にあるお店を指さす?
「…へ? 次って何よ?」
「次はあそこで下着買いましょう。ティナさんに似合うの、もっと揃えないと…あの下着もあそこで買ったんですよ」
「そ、そうなの…」
 ま、下着なら試着はないだろうし、大丈夫そうね。

 …いや、あったわよ、試着。
 で、やっぱり色々試着させられちゃった。
 サイズが違うとダメだから実際に、とか言われたけど、この前の下着渡してきたときそれがぴったりであたしのサイズは完全に把握してるとか言ってなかったっけ…?
「あぅ、ごめんなさい、私ばっかりはしゃいじゃって…ティナさんの色んな姿を見られるのが嬉しくって、つい。大人な下着のティナさん、本当に素敵で見とれちゃいます」
 さすがにあたしが疲れちゃってたのに気づいたみたいで、お店出たところでそう言われちゃう。
「いや、意味解んないし…でも、ま、いいわよ別に、気にしなくても」
「で、でも…」
「だからいいってば。閃那があたしのこと考えて色々選んでくれたんだし、それにまぁ、あんたが嬉しそうにしてるとあたしも悪い気しないしね」
「うぅ…ティナさーんっ!」
「ちょっ…も、もう」
 ぎゅって腕にしがみつかれちゃった…こんなの見たら、多少何かあっても許しちゃうに決まってるじゃない。
「勇気を出してああいうお店にティナさんお誘いしてよかったです。元の時代だと、ああいうお店入ったことなくて」
「…へ、そうなの?」
 ずいぶん手馴れてたみたいに見えたのに、意外。
「はい、一人でああいうとこ入るのって怖くないですか? この前下着を買いに行けたのも、それにアルバイトはじめたりできたのも、ティナさんの存在があったこそなんです」
 そりゃま、そうね…未知のところへ一人で行くのは勇気がいる。
 アルバイトまであたしの存在が、ってのはいまいちよく解んないとこあるけど…。
「一人でが怖いなら…あ、いや、何でもない」
 友達とかと、って言いそうになったけど、今の彼女の言葉…やっぱり、元の時代だとそういう人がいなかったのかも。
「…ティナさん?」
「あぁ、いや…そう、あたしがいるんだから、閃那が行きたいとことかあれば、ついてってあげるわよ」
「わぁ…ティナさん、嬉しいですっ」
 そう、今までがどうだったにしても、今はあたしがそばにいるんだから、さみしい思いとかさせない。
「じゃ、今度はあたしが閃那の服選んであげないとね。あたしばっか、ってのは不公平でしょ」
「え…えぇっ、私はいいですよー。ティナさんは美人でスタイルもよくかっこいいですから色んな格好見て楽しいですしおしゃれしてもらいたいですけど、私みたいなのはそんなことしてもしょうがないですから」
 冗談半分で切り出したんだけど、またあんなこと言って…あたしに対して言い過ぎってのもあるけど、それ以上に聞き逃せないとこがある。
「しょうがないことないでしょ、閃那のほうが美人でかわいいんだから。ほら、アルバイトのとき着てるねころ姉さんみたいな服、かわいいくて似合ってるわよ」
「わっ、ティナ…はぅ、嬉しいです」
 照れて赤くなったりして、やっぱりかわいいじゃない。


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