第四章

 ―大切な人と同じ部屋で生活して、一緒の学校へ通って。
 そんな日々が自然になってくのって、やっぱ幸せよね。
 もう彼女のいる日常が普通に感じられるけど、実際にはあたしたちは出会ってからまだ間もないってくらいで。
 だから、彼女について知らないことはたくさんある。
 それを知ってくのも幸せ、って感じるあたしは…のろけてるのかしらね。

「ん、朝か…おはよ、閃那」
 ―目が覚めたあたし、もういつも通りっていった感じですぐ隣で眠ってるあの子へ声をかける。
 気持ちよさそうに眠る彼女の様子もいつも通り…だけど、そんなあたしたちのいる部屋は先日までとは違ってた。
 あたしたちが眠ってたのは学生寮のベッドの上じゃなくって、床に敷かれた布団の上…ここはお社の側にある叡那さんの家、その中の一室で学校入るまで寝起きしてたあたしの部屋なわけだけど、今日は久しぶりにそこで目覚めたってわけ。
「さて…と。じゃ、閃那、ちょっと行ってくるわね」
 この部屋で隣に彼女がいるのははじめてだけど、眠ってるその彼女へそっと口づけをして、あたしは布団を出た。

「おはようございます、叡那さん。久しぶりに朝の稽古、してもらっていいですか?」
「ええ、おはよう、ティナさん。構わないけれど、休日なのだからゆっくり休んでいてもよかったのよ?」
 着替え…今日はお社だから巫女の服を着て外へ出ると境内にちょうど叡那さんの姿があったから言葉を交わす。
「まぁ、いつもの時間に目が覚めちゃったし、日課はやっぱりちゃんとしときたいですから」
「そう…ならばよいわ、少し手合わせしましょうか」
 お互い剣を出して手合わせすることになったけど、どうして今朝あたしがここにいるのかっていうと、今日は学校がお休みだから。
 学校は七日な一週間のうち二日がお休みになってて、今日は入学してはじめてのその日ってわけ…で、休みの日はその前日の夜からこっちで過ごすことにした、ってわけね。

「閃那、まだ起きないの?」
 で、剣の手合わせを終えて部屋へ戻ってきたんだけど、あの子はまだ布団の中にいた。
「ほら、閃那ってば、朝よ?」
「すぴ、すぴ…今日はお休みなんですし、寝かせてくださいー…」
 一応意識はあるみたいだけど、起きるどころか目も開けずにそんなこと言われちゃう。
「ティにゃさんも…もっとゆっくり、一緒に寝ましょ…?」
「…ティにゃって何よ、もう」
 それはともかく、どうしようかしらね…叡那さんとねころ姉さんは起きてたけど、エリスさんはゆっくり寝るとか昨夜言ってたっけ。
「ま…そうね、ならそうしようかしらね」
 のんびりしていいわけだし、気持ちよさそうな彼女を見てるとそうしていいかなって思える。
 だからまずはねころ姉さんにもう少し休むって伝えてから、またパジャマへ着替え直して彼女の隣へ入らせてもらった。
「えへへ、ティにゃさぁん…」
 その彼女は起きてるのか眠ってるのか解んない様子であたしにしがみついてきちゃう。
「もう、かわいいんだから…全く」
 そんな彼女がとっても愛しくって、やさしく頭をなでながら寝顔をしばらく見つめてたの。

 結局、その日あたしたちが起きたのはお昼前になってから…本当にずいぶんのんびりしちゃったけど、とっても幸せな気分だったしいいかな。
「ふぁ…おはようございます、ティナさん。ここでこうやってティナさんと一緒に起きるのって、何だか不思議な感じです」
「ん、おはよ、閃那…でも、どうしてよ?」
 身体を起こすあたしたちだけど、閃那はまだ少し眠そう。
「あ、そういえば言ってませんでしたっけ。この部屋、私が元いた時間だと私の部屋なんです。だからここがこっちだとティナさんのお部屋になってて、そこに私が泊まってるのが不思議な感覚だなぁって」
「あぁ、なるほど、そういうことか」
 今の閃那にとってここは自宅、自室であってそうじゃない、ってわけか。
「私は午後にまたアルバイト行きますけど、ティナさんは何するんですか?」
「何よ、休日もカフェテリアってとこ開いてるの?」
「はい、学生寮の子たちがきたりしますから、長期なお休みの日以外はやってるんです。それより、ティナさんは何するんですか?」
「そう、ね…別に予定ないし、お社のことでもしとくつもり」
 あとは剣じゃなくって魔法の練習するのもいいわね…なんて着替えながら考えるんだけど、ふと見るとあの子がじっとこっちを見つめてきてた。
「…ん、何よ、どうかした?」
「いえ、ティナさんはやっぱりきれいだな〜って」
「は? も、もう、何言ってんのよ…」
「あと…ティナさん、巫女装束に着替えちゃいましたけど、そういえばティナさんの私服姿って見たことないな〜って」
「私服…って、普段着ってこと?」
 うなずく彼女だけど、そう言われると…どうなんだろ。
 お社にいるときは巫女の服着てたり、あるいは他に人がこないって安心感から元の世界での服を着てたり、学校じゃ制服だし部屋に戻ってきたらパジャマと、着るもの決まってる感じか。
「そもそも…ティナさんって私服、持ってましたっけ?」
 元の時代から持ってきたっていう普段着へ着替えたあの子がそうたずねてくる。
「一応、叡那さんから譲ってもらったのはあるけど」
 エリスさんと街へ行ったときに買おうって話もあったけど、結局やめちゃったのよね。
「もうっ、それって着物じゃないですか! 確かに着物姿のティナさんも素敵そうですけど、もっと普通の服も持っておいたほうがいいです」
 なら制服以外そういう服しか着ない叡那さんは、って言いかけるけど、他の人たち見ると閃那の言ってることはおかしくない、か。
「ということで、明日はアルバイト休みますから、ティナさんの服を買いに行きましょう」
「…は? い、いや、別にそんなことしなくっても」
 唐突な提案に戸惑っちゃう。
「いいえ、これはもう決定ですから。いいですよね?」
「わ、解ったわよ…」
 あそこまで強く言われて、それに断る理由も特になかったからうなずいたの。


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