第4.9章

 ―学校生活がはじまってもう一ヶ月近く。
 そこでの授業ってのは主に教室で受けるのとか、あと運動だったりするんだけど、それだけじゃなくって。
「今日の調理実習ですけど、ティナさんと別の班になっちゃって残念です」
 目的の場所へ一緒に移動しながらあの子が言う様に、今日はこれから料理を実際に作るって授業がある。
 学校ってのは将来の生活のために通う場所で、だからそういうのがあるのは当然っていえる。
「ティナさんはお料理できるんでしたっけ?」
「まぁ、できないってわけじゃないけど…閃那はできないんだっけ」
「はい、全然です〜」
 自分たちで食事を用意しなきゃいけない学生寮で一緒に生活しながらこんな会話交わしちゃうあたしたちなわけだけど、朝はパンとかにして、夜はねころ姉さんに甘えちゃってるものね…。
 前にも考えたとおり、このままじゃいけないってのは確かなことで…どうしたものかしらね。

 調理実習をするのは、教室のある古めな建物の隣にある、こっちは新しめで他にも実験したり楽器を演奏したりと、そういう特殊なことする場所の集まった建物の一室。
 そこは数組に分けたクラスの人たちが料理できるだけの色んな設備の整った場所。
「エプロン姿のティナさんもやっぱりいいですねぇ。制服の上から、っていうのも案外い感じです」
 そこで準備として前掛けをしたりするんだけど、あの子はまぁ、相変わらずっていったらそう。
「まぁ、閃那やねころ姉さんは普段似た格好してるけど、あたしは今まで機会なかったか」
「ねころさんと違って私はアルバイトで、しかも接客だけで調理は全然しませんけどね…」
 ねころ姉さんは本当に料理上手なわけだけど、叡那さんやエリスさんはどうなのかしらね…っと。
「ほら、準備終わったらあんたはさっさと自分の班に行きなさいよね」
「あぅ、ティナさんと別々だなんてさみしいです…はぁ、いってきます」
 本当に渋々っていった様子で自分の班へ行く彼女。
「閃那さまと別々だなんて、やっぱりさみしいですわよね」「よろしければ、私が閃那さまとお代わりしましょうか?」
「…へ? い、いや、別にさみしくないし、そんなことしなくってもいいから」
 体育の授業とか、こういうことがある度にクラスメイトがあんなこと言ってくるけど、そんなの毎回受けてたらきりがないし、特別扱いされるほどのことでもないしね。

 今日ははじめての調理実習ってこともあって、クッキーって焼き菓子をって簡単だっていうものを作ることになって。
「ティナさまのお手を煩わせるわけにはいきませんわ」「そうです、私たちがしますので…」
「いや、そういうわけにはいかないから…あたしだって、ちゃんと作れる様になりたいし」
 他の子たちと一緒に、っていうこともあって、上手く…はないかもしれないけど、あんまり戸惑うことなく進めることはできた。
 でも、あたしがあんなこと言われるってことは…。
「閃那さま、あとは焼くだけですのでもう少しお待ちくださいね」
「はい、ありがとうございます」
 あの子へ目をやってみると、やっぱり他の人にやってもらっちゃってた。
「もう、ちょっと閃那ってば、ちゃんと自分でもやりなさいよねっ?」
「は、はひっ、ティナさん…! わ、解りましたけど、どうなっても知りませんよ?」
 思わず声をかけちゃうあたしにあの子はびくってなりながらもよく解んないこと言ってきた。
 で、彼女が他の人から受け取ったクッキーをオーブンに入れてスイッチを入れたんだけど、中の様子がおかしい気が…って!
「…ちょっ、危ないっ」
 とっさにオーブンの周囲に障壁を張った次の瞬間、オーブンが爆発しちゃう…!
 突然のことにみんな騒然となっちゃうけど、幸い障壁のおかげで爆発はオーブンそのものだけに収まって、爆風とか火とかも周囲に拡散することはなかったの。
 思わず力を使っちゃったけど、次の瞬間には爆発が起きたから周囲に気付かれる様なことはなかったみたい。
「…ちょっと閃那、あんた何かしたの?」
 先生が状況を調べたり他のみんながまだ騒然としてる中、あたしはあの子のそばへ行って小声で話しかけた。
「いえ、ただ私って以前からお料理しようとするとなぜか色々爆発させちゃうんで、お料理するのままたちから止められてるんです…てへっ」
「…んなっ」
 最後かわいくまとめられても、そんなの言葉を失うしかない。
 冗談としか思えない言葉だけど、でも目の前で起こったことを見ると…。
「…そ、そういうことは先に言いなさいよね」
 ってことは、将来的にはあたしがしっかり料理できる様にならなきゃいけない、ってことか。

 一騒動あった調理実習も終わって、お昼休み。
「ほらこれ、一応あたしが焼いたクッキー、よかったらあげるわ」
 今日は購買で買ったのを外で食べてたんだけど、そのあとさっき作ったのを彼女へ差し出したの。
「わぁ、ティナさんの手作りクッキー…とっても嬉しいです、ありがとうございますっ」
 喜んで受け取ってもらえたけど、彼女が作ったのは当然存在しない…いや、残念とか思ってないから。
「じゃあ、さっそくお一つ…もぐもぐ。うん、悪くないです…ティナさんが作ったってことでおいしさ何百倍ですね」
「大げさね…でもそれでも悪くないって程度なのね」
 口に合わない、とかじゃなくってよかったけど。
「あっ、私、お菓子の味にはうるさいんですよ? エリスままのままがパティシエしてますし、ねころさんもいますから」
 パティシエっておかし作る専門の人のことだっけ…エリスさんの親とか、どんな人なのかしらね。
 でも…将来のこともあるし、やっぱ料理はちゃんとできる様になって、それで閃那においしいって言わせたい、かもね。


    -fin-

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