お社で叡那さんと剣の手合わせを終えるともう夕方。
 もうすぐ夕ごはんだしそれまでに着替えとこうかなと境内で考えてると、石段を登って現れる人影が一つ。
「あ、閃那じゃない。アルバイトお疲れさま」
「は、はい、ティナさんも…」
 現れたのはあの子だったんだけど、やっぱりお昼に現れたときみたいな様子。
「あの、ティナさん、部活見学はどうでした…?」
 あたしとちょっと距離を取ったとこで足を止められちゃった。
「あぁ、それなら…」
「…ま、待ってくださいっ。ちょっと、心の準備しますから…すぅ、はぁ…。じゃ、じゃあ、どうぞっ」
 深呼吸したりして、何であんな緊張してるんだか。
「行ってないわよ」
「…えっ? ティナさん、今…何て?」
「だから、行ってないってば。元から部活入るつもりないし」
「え…えっ? ど、どうしてです、ティナさんならきっとどの部活に入っても人気者になって、他の子たちと仲良くなって、部活の時間はその子たちと楽しく過ごせるって…」
 どんどん声が小さくなってくけど…あぁ、ようやく彼女の様子がおかしい理由が解った。
「ふぅん、つまり閃那はあたしが部活に入るとそういうことになってさみしい、とか考えてたわけか」
「は、はひっ、す、すみません…こんな心が狭くって、ごめんなさいっ」
 人気者になるとか、それって閃那が入ったらそうなる、の間違いな気がするんだけどね…。
「いや、別に謝らなくってもいいってば。その、あたしも人のこと言えないし」
「えっ、それって…?」
 これを言うのはちょっと恥ずかしいけど、でも閃那も本心言ってくれたのだしね。
「え〜と、あたしだって、閃那がアルバイトしてるとき、誰かと仲良くしたりしてるのかなって、気にならないことはないっていうか…」
「…ティナっ」
「な、何よ…って、んなっ? ちょっ、い、いきなり抱きつかないでってば…!」
 あの子が急に抱きついてきたものだから、慌てて抱きとめた。
「だってだって、嬉しいんですもん…ティナも、私と同じ気持ちだったんですねぇ。全然余裕そうな態度だったんで気づきませんでした」
「べ、別に閃那が解りやすすぎるだけだってば…!」
 そんなこと言うけど、ついさっきまで気づけてなかったけどね…。
「もう、ティナも解りやすいと思うんですけど…とにかく大好きですっ」
「あぁっ、もうっ、解ったから落ち着きなさいってば…!」
 何とか引きはがそうとするけど、でも閃那はこうじゃないとこっちも調子でないかも、なんて感じたりもしちゃう。

「でもティナさん、どうして部活に入らないんですか? 私に遠慮してるなら…今度こそ大丈夫です、私とティナさんは深く繋がってますから、離れてるときに他の人と仲良くしたりしててもやきもちなんてやきませんし!」
 何とか身体を離してくれた閃那が改めてそんなこと言ってきた。
「別にそういうわけじゃない…いや、それも多少はあるかもしれないけど、とにかく他にも理由あるから」
「何でしょう、神社のお仕事お手伝いしたいからですか?」
「ま、それもあるけど、運動系の部活入るってなったら力を抑えとかなきゃいけないでしょ? ずっとそんなことし続けられるかっていうと、あんま自信ないし」
「…あ。それは、確かに…」
 これからある体育っていう身体を動かす授業くらいなら誤魔化せそうだけど、わざわざ面倒ごとを増やすことはないでしょ。
「ま、文化系の部活ならいいんだろうけど、今は別にいいかなって…この先はどうなるか解んないけど、もし入ることになるんなら、やっぱ閃那と一緒にがいいかな」
 アルバイトあるから難しいだろうけど、仮にってことでね…そのほうが気も楽だし。
「う〜…もうっ、ティナさーんっ!」
「んなっ、ちょっ…!」
 また彼女が思いっきり抱きついてきちゃって、危うく押し倒されるとこだった。
「ティナさんが悪いんです、私の気持ちを抑えられなくなることばっかり言って」
「し、知らないわよ、そんなの…!」
「ふふっ、そんなティナも大好きですっ」
 も、もう、かわいいんだから…。
「あ、あたしだって…」
「…あんたたちね、いちゃいちゃするのはせめて部屋の中とかにしときなさいよ」
 こちらからも抱きしめ返そうとしたんだけど、外に出てきたエリスさんに冷やかされちゃった。


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