感じ取った気配を頼りに、あの子がいるであろう場所へ向かう。
 途中、部活の勧誘な声をかけられたりもしたけどそれは遠慮して、やがてあたしは学園内のある一角へたどり着いた。
  そこはあたしにとってはじめて足を踏み入れた場所…今まで見てきた学校の中とは違った風景。
「…これ、お店っていうんだっけ?」
 いくつかの建物が建ち並んでるんだけど、それらは食料、あるいは服とか小物とか、それぞれに何かを見える様に軒先とかに並べてて、生徒たちがそれを眺めたり手に取ったりしてた。
 そういえば、この学校には学生寮で生活する生徒のために買い物ができる区域があるって説明あった気がするけど、ここのことだったか…あたしたちが学生寮で取ってる食事はねころ姉さんが用意してくれた食材だったから今までここにくることなかったけど、閃那はお買い物でもしてるのかしらね。
 なら、あたしも誘ってくれたっていい気も…いや、彼女だって一人になりたい、あるいは他の誰かと行動したいときくらいあるか。
「あっ、雪乃さん、ごきげんよう。もしかして、九条さんに会いにいらしたのですか?」
「…へっ? い、いや、そういうわけじゃ…な、何?」
 そばにいた生徒から人の心を見透かしたみたいな声かけられて少し慌てちゃう。
「何もお隠しになる必要なんて…恋人さんでしたら、お店にいらっしゃる九条さんを見に行くのは当たり前のことですもの」
「んなっ、恋人って…え、えーと、閃那がどこにいるのか、知ってるの?」
「ええ、もちろん…あのお店にいらっしゃいますわ」
 そうしてその人は一軒の建物を指さしてくれた。

 お店へ入る、ってのが今まで実は一回…はじめて街へエリスさんと行ったときにしかなくって。
 学食や購買とはまた違うものだし、そういうほとんど経験のないところへ一人で入る、ってのはかなり緊張するわけだけど、ここまできたんだから…意を決し、扉を開けて中へ入ってみる。
 中は何だかいいにおいの漂う、落ち着いた雰囲気…いくつかのテーブルと椅子が並べられていて、その中の数隻には制服姿の人たちが座ってる。
 で、テーブルの上には食べ物や飲み物があったりとどうやらお食事する場所みたいだけど、お昼食べたばかりの閃那がここに何の用事でいると…。
「あっ、いらっしゃいませ。お一人さまですか…って!」
「あ、えと、そうね…って、んなっ?」
 入口で立ってると声かけられたからそっち見たけど、声をかけてきた人ともども固まっちゃった。
  だって、そこにいたのは学校の制服じゃなくてねころ姉さんの普段着に近い印象の服を着た、閃那だったんだから。
「せ、閃那、よね…何よその格好、それに何してんの?」
「ティナさんこそ、こんなところでどうしたんですか…?」
 お互いにびっくりしちゃって、質問しあうかたちになっちゃう。
「どうしたの…あら。その子が噂の、閃那さんがお付き合いしている子か…聞いたとおりね」
 と、席とは違うところから、閃那と同じ服装をした学生…っていうには少し年上そうな女の人が出てきた。
「あ、店長さん、これはその…」
「せっかく恋人さんがきてくれたんだもの、構わないわ。お客さんも落ち着いているし、少し席について二人でゆっくりしていいわよ」
 その店長って人に促されて、あたしと彼女は店内の席につくことになったの。

「で、閃那はここで何してんのよ?」
 席につくと店長さんが二人分の飲み物を置いていってくれて、それを見届けてあたしはさっきと同じことを向かい側に座った閃那へたずねる。
「何って、見た通りここでアルバイトしてます。言ってませんでしたっけ?」
「いや、聞いてないし…ん、いや、アルバイト? そういえば、聞かされてた様な…」
 記憶をたどってみると、そういえば入学式の日の夜、閃那がはじめて部屋にきたときに聞いてたか。
 その直前、あたしたちははじめて身も心も一つになったからよく覚えて…じゃなくって!
「あ、あぁ、じゃあここがカフェテリアって場所?」
 うなずく彼女…そう、彼女が入学前にカフェテリアでアルバイトしてしかも野宿してた、ってのは聞いてた。
 ちなみにアルバイトってのは何、ってのもそのとき聞いたけど、要は正式な店員さんじゃないけど働いてお金をもらうとか、そういうことだっけ?
「それって入学前のことだし、てっきり野宿ともどもやめたのかと思ってたわ」
「どうしようか迷ったんですけど、色々買いたいものもあって…ままたちに甘えたり元の時代から持ってくるのもあんまりよくないですし、それにせっかくこの時代にきたんですからリアルタイムで買ってみたいんです」
「ふぅん、そんなものなの」
 あたしにはそういうの特にないから叡那さんからもらったお金も食費くらいにしか使ってないけど、色々買おうとしたらお金もその分いるわよね。
「それで、ティナさんはどうしてここに?」
「そんなの、あんたが何してるか気になったからに決まってるでしょ。さっき言った通りアルバイトとかもうやめたかと思ってたし」
「あはは、ちゃんと説明しておくべきでしたね…」
「それに…今日の閃那、ちょっと様子がおかしい気がしたし」
「えっ、そうですか?」
「そうよ、何かさみしげっていうか、妙な様子で…何かあったなら、言いなさいよね」
「…えーと、別に何にもないですよ」
  そんな返事してくる彼女だけど、またその妙な様子になっちゃった。
「私はこの通り夕方までアルバイトありますから、ティナさんは好きに…部活入ったりしてきて大丈夫ですよ」
「…解ったわ。閃那がそう言うなら、まぁ行ってくるわ」
 カップに入った飲み物…紅茶だっけ、それを飲んで席を立つ。
「あ、えと、ティナさん…」
「じゃ、また夕方に…あんま無理はしないでよね」
 何か言いたそうな、でも言えない様子な彼女を残し、お店を後に…と、お茶の分のお金は払おうとしたけどいらないって言われちゃった。


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